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「オススメの本を教えて」って言うから「どんなのが好き?」って聞くと「何でもいい」って答える奴って何なの?初デートの彼女なの?

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

 

今回は読書家あるあるについて書こう。

読書家であることが周囲に知られていると、頻繁に言われるのが「なんか面白い本を教えて」である。

なんの罪もない言葉に思えるが、その何気ない一言によって、読書好きがどれだけ苦しむことになるのか。ちょっと熱っぽく語ってみたい。


信頼される読書家

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私は所構わず四六時中読書をしているので、周囲の人たちには「あいつは極度の本好きだ」と認識されている。

すると自然と本の話題を振られる機会が多い。映画化された作品があれば「読みました?」とか聞かれるし、全然知らない作品を「読んだことあります?」って聞かれることもある。「あれってどうなんですか?」とこちらが完全に読んでる前提で聞かれるときもある。身近なブックマスター。そんな扱いをされている。とっても光栄だ。

 

だけど、ちょっと待てお前ら。

 

まず、年間どれだけの書籍が出版されてると思ってんだ。

7万だぞ。

ていうかそもそも1冊の本を読むのにどれだけ時間かかるか知ってるのか。大体3時間ぐらいだ。80年間読み続けたとしても、出版される本の2年分ぐらいしか読みきれないんだぞ。愚問も大概にせい。読書してるときに話しかけんな。黙るんだ全員。

 

しかしながらこれらの質問はまだ許せる方だ。

挨拶みたいなもんで、こっちが「知らない」とそっけない返事をしても会話が成り立つ。そこまで私の返答に依存していない問いかけだ。私の消費カロリーはとっても低い。

一方でもっと許しがたく腹が立ち、私からカロリーを全部奪い取ろうとしてくる質問がこれ。

 

「何か面白い本教えて?」

 

なんちゅー抽象的な質問。禅問答かよ。部下が仕事中にこんな曖昧な質問してきたら、浣腸食らわしてやりたくなる。こちとらそれなりの大人だから想像だけで済ませるけれど、頭の中でお前のこと悶絶させてることだけは忘れんなよ。

さらに許せないのが、その続きだ。

なけなしの社会性を振り絞って、仕方なく付き合ってあげようと思い「どんなのが好き?」って聞あげるでしょ?するとあいつら言うんだよ、

 

「なんでもいい」って。

 

は? なにそれ?なんでいきなり丸投げしてくんの? そんな傍若無人なセリフが許されるのは初デートの彼女だけだから。恥じらいながら頬をピンクに染めてこそ許されるんだよ。IQ5ぐらいの顔でほざいても許されないから。「うまいこと気持ちよくしてください」って言ってるのと同じだから。そんなマグロ状態の奴なんて誰が相手するか。

 

気安く言われる言葉

ちょっと興奮してしまった。一回みんな落ち着くんだ。私はこの勢いのまま行くから、冷静に対処してくれ。

 

本に興味はあるけれど、何から読めばいいか分からない。そんな人が、たまたま身近に生息していたブックマスターにオススメの本を尋ねたくなる思考回路は、百歩譲って理解できなくもない。譲らないけどな。

もう少しだけ脳機能を働かせてもらいたいと私は思う。「何か面白い本を教えて」ってのは、そんな気安く言える言葉じゃないんだ。

本と一口に言っても、フィクション・ノンフィクションもあれば、恋愛・青春・愛憎劇・SF・ミステリー・山田悠介などジャンルも多岐にわたる。

さらにミステリーの中でも『十角館の殺人』みたいな本物から『黒い仏』みたいな真正のモノホンまであることを考えると、選択肢は無限に等しい。そんな中から、あなたの好みにフィットする一冊をチョイスしろと? そんなのメンタリストの仕事だ。

 

例えばこれが音楽だったらもっと想像しやすいかもしれない。「いいアーティスト教えて」とか言わないでしょ。他人から教えてもらうアーティストなんて、ほぼ確実に趣味じゃないでしょ。そんな感じ。

あぁ、そうか。もっといい例えがあった。性癖だ。好みなんて性癖と一緒なの。他人の性癖を当てるのがどれだけ難しいかって、XVIDEOとかPornhubの膨大なタグを見ればよく分かるはず。あの中から好みの作品を見つけて来いって言ってるのと同じなの。「何か面白い本教えてください」ってのは。言わないでしょ?「私の性癖教えて下さい」って。もし言いたくなっても言っちゃダメだ。色んな意味で。オジサンとの約束だからな。私だって最近一番面白かった本は『デブを捨てに』だけど、ちゃんと内緒にしてるから。

 

快感ポイントは人それぞれ

つまり、オススメ本を渡そうにも他人の性癖なんて分からないから、どんな本を選べばいいのか皆目検討がつかないのだ。

だから私は「面白い本を教えて」と訊かれたときに「好きなのを読みな」と答えるようにしている。エロ動画ぐらい自分で選んでほしいと思う派だ。きっとみんなそうだと思う。

 

それでももう一欠片も残っていない幻の親切心を発揮して、私が過去に面白いと思った本を教えるとしよう。

だがそれは「私の性癖を晒す」ことに他ならない

30数年それなりに一生懸命生きてきたけど、なんでここへ来てそんな拷問されなきゃいけないんだ。なんで『デブを捨てに』が好きだって告白しなきゃならんのじゃ。

メカニズムは分からないけれど、人には「他人が気持ち良くなっている姿を気持ち悪いと感じる習性」がある。見知らぬオッサンがマッサージ受けて「あぁ~…」とか言ってるの、みんな嫌いでしょ。そういうやつ。他人の先鋭化された好みってのは、グロテスクに見えてしまうものだ。

なら当然私が超絶ハマった本を紹介しようものなら「なにこれ…腕とデブどっちが良いって…は?」となるだろう。私にはそこまで自分を曝け出す勇気がない。受け入れてもらえるとは到底思えないからだ。

逆に「これ面白いから読んで!」とか言われても、素直に受け入れられない。「お前の好みを押し付けんなよ。きもっ」って思う。だからお互い様だ。みんな気持ち悪くてそれでいいのである。

快楽のポイントは人それぞれだ。簡単に共有しあえるものじゃない。

 

本当は嬉しいんです

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冒頭から暴言を連発しているが、実のことを言えば本に興味を持ってくれたことは、めちゃくちゃ嬉しい。なんならありったけの愛を伝えたい。全力で自分の性癖を晒して、丁寧にラッピングして届けたい。本仲間を増やしたい。

 

だけど私は踏みとどまる。

 

「一方的に話したら引かれるかも」とか「気持ち悪いんじゃないか」とか「ただ単に何かの罰ゲームで話しかけてくれただけで、本はおろか実は私にさえも一切興味ないのかも」とか考える。話しかけてもらったときの高揚は一瞬にして冷める。

もちろんこれは私が勝手に妄想していることだ。実際がどうかなんて分からない。もしかしたら生涯の友人を得るチャンスかもしれないし、合法的に性癖を晒せるチャンスなのかもしれないのだ。性癖晒しを前向きに捉えたとしたらの話だけど。

 

そう、私は勝手に怯えていただけなのだ。

嬉しいけど失うのが怖い。壊したくないから触れられない。好きだけど嫌われたくない。そんな青臭えことを考えていてはダメだ。被害妄想も大概にしろ。目を覚ませ。そもそも、さっきから本の趣味を性癖に置き換えて話を進めているからおかしくなるのだ。みんなも、もうすでになんの話をされていたか分からなくなっているんじゃないだろうか。本当にご愁傷さまです。

ちょっと考えれば分かるが、本の趣味と性癖はまったくの別物だ。さっきも書いたけど、みんな落ち着け。本の趣味って、もっとポップに取り扱える話題だから。なにを血迷っているんだ。

 

勇気を出そう

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こうやって考えると、「オススメ本を渡す」という行為を通して、自分自身の勇気が試されていることがよく分かる。勝負すべきところで、怖気づかずに立ち向かえるか。それが試されている。

ただその一方で、勇気を出すのが簡単ではないこともよく知っている。

私だってもうけっこういいオッサンなのだが、未だに勇気を出せずに怖気づく場面は人生の中で多い。端的に言ってかっこ悪い。どうぞ罵ってくれ。

でも勇気というのは、出すのが難しいからこそ価値があるのだ。簡単に出せる勇気はただの無謀だ。簡単に出せてしまうものになんて何の価値もない。

思えば私たちは、勇気を出さなければ立ち上がることさえしなかったはずである。勇気と成長は切っても切れない関係にある。何かが始まるときに勇気は不可欠だ。

だから本好きを増やしたいと願うのならば、そこに多少の勇気が必要になるのは当然と言えよう。だから私も勇気を持って『デブを捨てに』を渡そうと思う。

 

勇気を出せないあなたにオススメの一冊

さて、そろそろオススメ本の紹介をしていこう。

今回の記事では私同様に「勇気が出せなくて困っちゃう」という困ったさんにオススメの作品を紹介したい。

 

一般的に考えて、勇気が出なくて参っているときに必要なのは、

「小心者が勇気を振り絞ってる作品を読んで、勇気づけられる」

というパターンか、

「自分よりも不幸な状況の人を見て安心する」

というパターンのどちらかだと思う。

 

今回紹介するのは、奇跡的にそのどちらの要件も満たしている作品である。

 

それがこちら。

 

 

もしかしたら『デブを捨てに』を紹介されると思っただろうか。そんな訳ないだろう。あんな肥溜めみたいな作品を、こんな公の場でオススメするなんて非常識な振る舞いをするはずがないじゃないか。これでも私は立派な大人だぞ。早とちりしてた人はもっとTPOを考えるように。まあ、『デブを捨てに』の話を最初にしたのは私だけどな。

 

さて、『マリアビートル』である。

これは、面白い小説しか書けないという奇病に罹患している作家 伊坂幸太郎の現時点での最高傑作だ。断言させてもらう。

“殺し屋シリーズ”の2作目という位置付けなのだが、前作『グラスホッパー』を読んでなくても全く問題ない。単品だけで最高に楽しめる作品に仕上がっている。

舞台は失踪中の東北新幹線の車内…のみである。

信じられるだろうか。文庫で600ページ近い大作なのだが、始めっから最後まで新幹線の車内だけで物語が展開されるのだ。

なのにこれがまた凄い。ずっと面白い。ずっとハラハラ・ドキドキ。ずっと先が気になり続ける。

エンタメ小説としてこれ以上面白い作品ってのは作れないんじゃないかと思っている。

さらに面白いのがこちらの作品、“殺し屋シリーズ”というだけあって、出てくるキャラの9割5分は殺し屋である。この時点でまともじゃない。

 

で、この中で注目してもらいたい人物がいる。

コードネームは「天道虫」。可愛らしい名前だが、もちろん彼も殺し屋だ。

殺し屋の彼だけど、これがとんでもない不運&小心者で、まったく頼りなくて、作中での扱いは可哀想ったらありゃしない。揺れる車内で、色んな意味で翻弄され続ける天道虫。その様は、現実社会で振り回される我々そのままである。思わず感情移入してしまうはずだ。

 

かなり現実離れした設定の作品だが、次々とハイスピードで畳み掛けてくるプロットで夢中にさせられること請け合いである。

あらゆる権謀術数が張り巡らされた車内。その中で天道虫が必死であがいてもがく姿には、ついつい勇気づけられるだろうし、あまりにも最悪すぎる状況には思わず笑ってしまう。

だから読み終える頃には、「さすがに自分はここまで酷くないな」と慰められるはずだ。自分たちが勇気を出せない状況なんて大したことないと思えることだろう。

なんてったって、狭い車内で殺し屋囲まれるなんて状況である。そうそうないだろう。

 

以上。