どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。足つぼマッサージの意味がわかりません。
毎月恒例の月イチまとめ記事である。
さて、3月といえば別れの季節である。世間の流れに乗っかって、私も部署異動があった。
ネットではずいぶんと敵を作ってしまったが、会社ではそれなりに愛されていたようで、最後の日には泣きながら手紙やらプレゼントやらを渡されたりした。もちろん私も泣いた。おっさんになると涙腺が弱々で困る。
とはいえ、おっさんが若干泣いてしまったからといって、別れがそこまで特別かというとそうでもない。同じ会社でずっと働いていると、別れはほとんど日常だ。
人事異動での別れもあれば、退職の別れもある。毎年恒例の風物詩みたいなものだ。日々顔を突き合わせて仕事をすることに何の感慨も湧かないのは当然としても、出会いと別れにさえもあんまり感情が動かないようになると、「そろそろ“来てるな”」と思う。何が来てると思っているのかは皆さんの感覚と想像にお任せする。こうやってどんどん人間はつまらなくなっていくのかもしれない。
そもそもの話だが、年齢を重ねてくると、新しい人間関係のほとんどが、利害関係や義務や責任によって生じる“仕方ない人間関係”になる。ただでさえ派手さのない人生を送っているというのに、人間関係まで灰色って、世界の色味の偏りひどすぎん?
子供たちが新学年を迎え、モジモジしたり新しい友人ができて楽しんでいる姿を見ると、彩りに満ちすぎて眩しくて、こっちの目が潰れそうになる。本当に潰れていないか鏡で確認してみたら、気味の悪い死んだ目の男が邪魔して確認できなかった。どうなってんだ。
そんなんなので、私の灰色の人間関係がよりイロを失って見えるこの頃だ。むしろ見えないレベルだ。
とまあ愚痴みたいなことを書いてはみたものの、新鮮さを失った自分自身にそんなに絶望しているかというと全然そんなことはない。むしろやっと冷静になれつつあり、世間に振り回されなくなったなというカンジダ。
…と、老成した雰囲気を出そうと目論んだ途端に性病タイプミスをしてしまうくらいには、どうしようもない人間です。本当にありがとうございます。
なんか真面目に語るのがアホらしくなってきたので、2023年3月に見つけた面白い本たちの紹介である。
行ってみよう。
火星の人
やっぱりアンディ・ウィアーは天才。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が最高すぎて、どうにかしてあの面白さを摂取したくて、作者のデビュー作であるこちらを手にとってみたんだけど、すでにハリウッドで映画化されてたのね。全然知らんかった。そして映画化も当然という面白さにノックアウトです。笑ったし、ハラハラ・ドキドキしたし、泣いたし。全部楽しんだ。
科学とか物理の知識がぽんぽん出てくる、けっこうガッチリとしたSFなんだけど、私のような学のない人間でも心の底からめちゃくちゃ楽しめるから問題なしだ。
元はネットで無料で発表されていたテキストだったらしいのだが、人気が出すぎて、出版、映画化まで駆け抜けたってんだから、ずば抜けた面白さが伺えるでしょ?
ちなみにだけど、作者のアンディ・ウィアーは若干15歳にして国立研究所でプログラマーとして働いてたという超天才です。
紙の梟 ハーシュソサエティ
「人をひとり殺したら、確実に死刑になる」という架空の世界線で起こった事件を扱った連作集。
復讐が大好きな私達の脳みそは、この架空のシステムを案外素直に受け入れてしまうことだろう。だがそれが貫井徳郎の掌の上なのである。
あの手この手で、価値観を、倫理観的を、そしてミステリー小説的に振り回してくる。
罪と罰という、ある意味でありきたりなテーマだけれども、手練中の手練である貫井徳郎に調理させたら、そりゃ面白くなって当然でしょ。
久々に濃厚で切れ味のいい短編集を読ましてもらえたな。
魔の山
アメリカの東野圭吾こと、ジェフリー・ディーヴァーの新シリーズ第二弾。孤高の搜し屋、そして完全無欠のカッコよさで魅せる、コルター・ショウシリーズである。
3作目で完結すると聞いたので、安心して手に取った。
※シリーズが長編すぎると、せっかく読み始めたのに作者が死んだりして最後まで読めなかったりするのが嫌でなかなか手が出せない。じじいのジェフリー・ディーヴァーならなおさら。
亡き父親の残した“べからず集”を忠実に守りながら、厳しい状況を冷静に見極めて、驚くようなアイデアで乗り切るコルター・ショウに、わたくしオッサンですけど完全にメロメロです。あんなん惚れる。
前作ではアクション多めの話だったけど、今回は宗教施設に潜入捜査する話で、毛色が変わっている。どちらにしろショウが抜群にカッコいいので問題ありません。こちらからは以上です。
光圀伝
凶暴な虎、ここにいます。
水戸黄門こと水戸光圀の生涯を圧倒的な筆致と、叙情的な文章で描ききった快作。
いやー、ねえ。こういう歴史ものを読むたびに私が無知で良かったと思うよね。時代背景もよく分かってないし、水戸黄門が一体何者なのかも具体的に知らなかったから、素直に「へえー」とか感心しながら楽しんでしまった。
そもそもこちらの『光圀伝』は本屋大賞受賞作である『天地明察』のスピンオフ。そっちを読んだ方なら分かると思うけど、脇役なのに明らかに水戸光圀の放つ魅力が抜きん出てるもんね。完全に主人公を食っちゃってたから。まさに虎。
類まれな力を持ちつつも、十分に発揮できない平和な時代に生まれ落ちた苦悩と、その余りあるエネルギーを学問や詩歌にぶつけるしかなかった青年。
徳川幕府の創成期を支えた怪物の生き様をご覧あれ。
ミシンと金魚
う~ん、悩んだけど今月のベストはこちらの『ミシンと金魚』と『火星の人』かな。“文章で表現されている”ぐらいしか共通点がないふたつだけど、甲乙つけがたかった。
で、『ミシンと金魚』である。
あのダ・ヴィンチで爆裂に推されており、プラチナ本というよく知らないけど絶対に間違いない勧められ方をしている。
少し話は変わるのだが、私はいつも小説を読むときに意識することがる。
それは「この作品に対する最適な立ち位置は?」というもの。
頭をからっぽにして無防備に楽しむべきなのか、恐れおののくべきなのか、頭を使って推理合戦に参加すべきなのか、倫理観や価値観をぐらんぐらんにされる覚悟を持つべきなのか…などなど。
作品の持つ力を最大限に甘受できるよう努めている。
なので、読み進めても作品の毛色が見えないと、一体どういったスタンスを取ればいいのか分からず、のめり込めずに熱量が失われてしまう。
そういう意味で『ミシンと金魚』はどうやって受け取ればいいのか、分かりにくい作品であった。「何を言ってるの…?」みたいな感覚で読み進めていた。
ところがだ。その曖昧さを孕んだ文章が、じわじわと効いてくる。太陽の日差しに目が眩んで白んでしまったような、輪郭の弱い表現が絶妙な読み味をもたらす。
分かりやすい起承転結の物語があるわけでもない。激しい感情の起伏があるわけでもない。
それなのに、読んでいると私の心の中には、大きな物語と激しい感情が流れ込んできていた。なんだこれは。なぜ涙が流れる。
ちょっと他に似たものを挙げられない作品である。感想を語ろうと自らの感情を整理しようとするのだが、色んなものが混じり合っていて、容易な作業ではない。
とてもページ数の少ない薄い本なのだが、私はある女性の一生を味わった。
それだけは確実に言える。
以上。来月もお楽しみに。