※2019年4月19日更新
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
私のように日常的に小説を読んでいると、それはもう迷作と出会う機会が自然と増える。
小説というやつは困ったことに最後まで付き合わないと、その価値が分からない。途中まではクソみたいな作品でも終盤になった途端に面白くなる、なんてのはよくあることだ。そして逆もまた然りである。
長い時間をかけ読んだ小説がクソほども面白くなかったときの気持ちが分かるだろうか。金をムダにしたことよりも人生をムダにしたことが腹立つのだ。こんなやつに俺は付き合っていたのかと思う。
ということで、今回の記事では私が今まで読んできた本の中でも特に「これは買って後悔した!」と胸を張って言えるものを紹介したいと思う。
あくまでもこれは私の感想なので、もしかしたらあなたにとっては人生最高の良書になる可能性はなくもない。実際に買って確認してみてはどうだろうか?
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① ビブリア古書堂の事件手帖
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫) | ||||
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鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。
勘違いしないでもらいたい。面白かった本ではなく、買って後悔した本である。
この売れに売れドラマ化まで果たしたこの作品を私は認めていない。
黒髪長髪若く美人で人見知りで名前は栞。作品のそこかしこに散りばめられた過去の名作たち。
小説好きなやつが寄ってきそうな匂いがプンプンする。小説好きホイホイである。そして私もまんまと捕まってしまったわけだ。
この作品はそこまでの駄作ではない。ごくごく普通の作品だと思う。ベストセラーだったことと、設定のせいで私が勝手にハードルを上げてしまって感は拭えない。
でも買うに値するほどの作品でもないのは間違いない。高まった期待感が読み進める内にみるみる萎んでいくのをハッキリと自覚したもんだ。あの悲しみはもう経験したくない。
②地図男
地図男 (MF文庫ダ・ヴィンチ) | ||||
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仕事中の〈俺〉は、ある日、大判の関東地域地図帖を小脇に抱えた奇妙な漂浪者に遭遇する。地図帖にはびっしりと、男の紡ぎだした土地ごとの物語が書き込まれていた。千葉県北部を旅する天才幼児の物語。東京二十三区の区章をめぐる蠢動と闘い、奥多摩で悲しい運命に翻弄される少年少女――物語に没入した〈俺〉は、次第にそこに秘められた謎の真相に迫っていく。
あまりにも乱暴な作品である。まとまりがないというか、書き散らかしたというか。最後は強引に感動しそうな感じにまとめているが全然感動しない。こじつけ感が半端ではない。呆れてしまって読みながら「はあ?」と声に出ていたかもしれない。
真藤順丈はアイデアマンである。溢れ出るアイデアをこの作品にぶつけたようだ。出てきたアイデアを取り敢えず全部乗っけたのだろう。まるで自慰である。
そして出版社がコンビニの店頭に並べまくってベストセラーにするという快挙。素晴らしいチームワークである。
この作品に出会ったことで、私はベストセラー作品への不信感を一層募らせることになった。ハードカバーで買ったことが本当に悔やまれる。
③藁の楯
藁の楯 (講談社文庫) | ||||
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2人の少女を惨殺した殺人鬼の命に10億の値がついた。いつ、どこで、誰が襲ってくるか予測のつかない中、福岡から東京までの移送を命じられた5人の警察官。命を懸けて「人間の屑」の楯となることにどんな意味があるのか? 警察官としての任務、人としての正義。その狭間で男たちは別々の道を歩き出す。
この作品の見どころは紙であることだ。
小説なのだから紙なのは当たり前と思われるかもしれない。Kindleの場合は違うがな。いや、そんな話をしたいのではない。この作品に出てくる登場人物たちの薄っぺらさの話である。紙だと見紛うほどペラッペラの連中ばかりが出てくる。こんな作品なのに映画化されてしまうのは世の中の恐ろしいところである。またこんな原作でも「名演」とまで言わせた藤原竜也は本当に本物なんだなぁと思った次第だ。
映画は面白いらしいが、もう私は原作者にお金を渡したくないので観ることは一生ないだろう。
④ピース
ピース (中公文庫) | ||||
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連続バラバラ殺人事件に翻弄される警察。犯行現場の田舎町に「平和」な日々は戻るのか。いくつかの「断片」から浮かび上がる犯人とは。「ピース」が解明されたとき、すべてが繋がった……。
「驚愕のどんでん返し!!!!!」という触れ込みで全国の書店で平積みされていたこちらの作品。きっと印刷会社が発行部数を一桁間違えてしまったために、無理矢理売っていたのだと想像している。そうでないと辻褄が合わない。こんななんの驚愕もどんでんも返しもない作品が書店に平積みされている理由がない。
本当に読者を舐めていると思う。作者もきっと「こんなんじゃダメだよなぁ、でも締め切り来ちゃってるし…。仕方ないこのまま出すか」的な感じだったと思う。そうであってほしい。本気でこれを書いているのであれば、もうダメだ。
一応、表紙の絵さえも伏線になっているという話だが、そんなのはどうでもいい。とにかく犯人の動機が凄まじく下らないものなのだ。それを知った読者は、この作品を床に叩きつけずにはいられないだろう。そして叩きつけたあとに立つ指の数は、2本でなく中指1本であろう。
⑤絶望ノート
絶望ノート (幻冬舎文庫) | ||||
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中学2年の照音は、いじめられる苦しみを「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねた。彼はある日、頭部大の石を見つけ、それを「神」とし、自らの血を捧げ、いじめグループの中心人物・是永の死を祈る。結果、是永は死んだ。しかし、収まらないいじめに対し、次々と神に級友の殺人を依頼する。生徒の死について、警察は取り調べを始めるが……。
信頼買いというものがある。その作者を信じて買うことを言う。
私の中で歌野晶午は信頼するに足る作家であった。才能が尽き果て次々と筆を折る推理小説家が多くいる中、いつまでも進化を続け才能をほとばしらせるその姿は脅威と言ってもいいぐらいだ。常に大玉を打ち上げ、読者の度肝を抜く。そんな歌野晶午が私は大好きだ。
だがこの作品は許せない。やり過ぎだ。大玉を打ち上げたかったのかもしれないが、空振りにもほどがある。しかもなぜこんな駄作のためにここまでの長編にしたのかも分からない。プロットを思いついた段階でそこまでの作品にならないことは分かっていたはずだ。
歌野晶午作品というハードルの高さもあるが、あまりにも大したことない作品なので紹介させてもらった。
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⑥殺人鬼フジコの衝動
殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫) | ||||
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一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして、新たな人生を歩み始めた十歳の少女。だが、彼女の人生は、いつしか狂い始めた。人生は、薔薇色のお菓子のよう…。またひとり、彼女は人を殺す。何が少女を伝説の殺人鬼・フジコにしてしまったのか?あとがきに至るまで、精緻に組み立てられた謎のタペストリ。最後の一行を、読んだとき、あなたは著者が仕掛けたたくらみに、戦慄する!
はい出ました伝家の宝刀、「驚愕の展開」。
しません驚愕なんか。ただのこじつけです。
これが驚愕の展開なのであれば、ジャンケンで後出しされたことで驚かなければならない。そんなやつはいないだろう。だがこの作品ではそれを堂々とやっているのだ。ハッキリ言ってペテンである。しかもそのペテンで50万部を売り上げるとは大したものだ。まあその中の一部は私なんだがな。書店でこの本を持ってレジに並んでいる私を殴りに行きたい。頭部が陥没するぐらい思いっきりいきたい。それぐらい猟奇的にやれば作者の真梨幸子も満足することだろう。きっと彼女は残酷な描写がしたいだけなのだ。
全然認められない稀有な作品である。
⑦もう誘拐なんてしない
もう誘拐なんてしない (文春文庫) | ||||
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大学の夏休み、先輩の手伝いで福岡県の門司でたこ焼き屋台のバイトをしていた樽井翔太郎は、ひょんなことからセーラー服の美少女、花園絵里香をヤクザ二人組から助け出してしまう。もしかして、これは恋の始まり!?いえいえ彼女は組長の娘。関門海峡を舞台に繰り広げられる青春コメディ&本格ミステリの傑作。
『謎解きはディナーのあとで』で大ブレイクした東川篤哉の作品である。
あれだな、ブレイクしたから彼の作品が本屋に平積みされまくっていたのがいけなかったんだな。こんなに滑り倒していて、しかもミステリーの部分もパッサパサになっている作品もなかなか珍しい。評価するべきところが本当にない。食べ終わった後のサンマを見せられているような気分だ。「もう食べる所無いんですけど?」
ああ、そういえばひとつだけ評価できるところがあったな。表紙の女子高生がいい。期待させられる。騙される。騙されたよ、私も。女子高生の太ももに。
⑧その女、アレックス
その女アレックス (文春文庫) | ||||
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おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
なぜここまで評価されてしまったのだろう?それは評価する人がいたからだろう。
確かに他にはない試みをしている良作である。だがおおっぴらに評価されたことがこの作品の価値を著しく下げていると思う。妙な期待がなければもっと素直に楽しめたし、素直に楽しんだ人しかこの作品の肝は効かないだろう。そういう意味で私は本当に損をした。
ミステリーには王道と反則がある。どちらだろうが読者を欺ければ問題は全くない。この作品に関しては完全に反則側なのだ。変化球である。変化球を「これは変化球だよ」と言ってしまったら、絶対に楽しめない。
作品自体というよりも、周りの人に殺されたことが残念な作品である。
⑨鉄道員(ぽっぽや)
鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫) | ||||
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娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた―。心を揺さぶる“やさしい奇蹟"の物語…表題作はじめ、「ラブ・レター」「角筈にて」など8編収録。第117回直木賞受賞作。
天下の直木賞受賞作である。面白くないはずがない。だが面白くない。正確には滑っている、だ。
表題作の『鉄道員』だけでなく『ラブ・レター』など非常に評価の高い作品であるが、私にはまったく響かなかった。作者の「ねえ、これって泣けるでしょ?」的な感じが伝わってきてしまったからだ。
ネットでやけに評価が高かったのだが、それゆえにひどい肩透かしを食らってしまった。やはり人の評価というものは当てにならないものである。
ちなみに直木賞受賞作という理由だけで本を買うと、こういった現象が多く見られる。一応作品に送られる賞だが、作者の功績を評価する賞だということは小説好きの中では周知の事実である。
⑩新宿鮫
新宿鮫 新装版: 新宿鮫1 (光文社文庫) | ||||
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ただ独りで音もなく犯罪者に食らいつく―。「新宿鮫」と怖れられる新宿署刑事・鮫島。歌舞伎町を中心に、警官が連続して射殺された。犯人逮捕に躍起になる署員たちをよそに、鮫島は銃密造の天才・木津を執拗に追う。突き止めた工房には、巧妙な罠が鮫島を待ち受けていた!絶体絶命の危機を救うのは…。
作者の大沢在昌は賞の審査員とかやっている割には、己の書いている小説があまりにも薄っぺらい気がする。この作品の鮫島もそうで、カッコ良さそうな雰囲気は出ているし、設定もそれっぽくしているが、全然決まっていない。特に木津の工房でペニスが縮こまるシーンなんかはひどいもんだ。あとやたら巨乳好きな所とか。
孤独な一匹狼な所といい、やたらとおっぱいを強調してくる所といい、やけにおっさん臭がする作品である。
おっさん臭がする作品は面白いと思えない。こればっかりは仕方ないだろう。黒いものを見て「黒い」と思うように、ケーキを食べて「甘い」と思うように、おっさん臭がする小説は「面白くない」と思えるのだ。
続編がたくさん出ているので、きっと評価していたり、熱狂的なファンがいるのは間違いないのだろうけど、「きっとおっさんがファンなんだろうなぁ」と勝手に思っている。
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⑪リアル鬼ごっこ
リアル鬼ごっこ (幻冬舎文庫) | ||||
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⑫震える牛
震える牛 (小学館文庫) | ||||
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警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。 田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。居酒屋で偶然同時に殺害されたかに見える二人の被害者、仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。
田川は二人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化と食の安全が事件に大きく関連していることに気付く。
平成の砂の器、などという誇大広告に騙された方も多いのではないだろうか。書店でこの作品が平積みされているのを見るたびに、「これはヤバそうなのが出てきたな…」と私の良書探知センサーがビンビン反応したものだ。さすがにハードカバーでホイホイ買うほど裕福でもないので文庫化まで待ったが、とんだ大外れだった。私のセンサーは当てにならないことが証明された。
設定や謳い文句から勝手にハードルを上げていた私がいけないのだろうが、あまりにも軽かった。もっと重く、刑事達の熱い戦いを見せられるのかと思っていた。
そして何よりも結末である。ひどいものである。
いくら買って後悔した作品だからといって、ネタバレをするほど私は落ちぶれてはいない。だが言わせてくれ。この真相はないだろう、相場英雄よ。もしかしてまた出版社が勝手に持ち上げただけなのか?本人はそんなつもりで書いたわけでもないのに、勝手に「現代日本の矛盾を暴露した危険極まりないミステリー」とか帯に書かれてしまっただけなのか?
私の認識だとこの作品はミステリーではない気がする。謎があればいいってもんでもないと思う。
まあ私の感想だがな。
⑬死にぞこないの青
死にぞこないの青 (幻冬舎文庫) | ||||
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飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいても、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の前に「死にぞこない」の男の子が現われた。
デビュー作の『夏と花火と私の死体』で”ホラー作家”という肩書を付けられてしまったがために、無理矢理ホラーを書いていたように思える。この作品を読んでいる最中、私には乙一の心の裡が見えるようだった。
「怖いってなんだっけ?読者を怖がらせるにはどうしたらいいんだろう?」というものである。
天才作家乙一が生み出した非常にしょっぱい作品である。基本的に乙一はホームランバッターだし、みんなから愛されているので、たまにはこうやって批判の対象になるのも悪くはないだろう。
⑭手紙
手紙 (文春文庫) | ||||
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強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。
折角なので大物にも参加して貰おうじゃないか。
日本ミステリー小説界の巨人、東野圭吾である。日本中が認める超超売れっ子作家である。
ハッキリ言って東野圭吾作品を批判することなどできない。色んな意味で隙が無いのが彼の特徴だからだ。
じゃあなぜ『手紙』を取り上げたのか、というとただのついでである。揚げ足取りが出来そうな作品がこれしか無かったのである。
『手紙』も多くの東野圭吾作品同様、映像化を果たした。さすがにあの歌声は再現できなかったので漫才になっていたそうだが、それなりの評価は得たようだ。まあ映画の方を私が観ることは永遠にないだろうが。
で、この売れに売れた『手紙』の何にガッカリしたかと言うと、主人公のメンター役を務める社長である。
彼の挙動や言葉に違和感が凄かった。というのも、さも「この人が主人公を導く役目です」という感じが、非常に押し付けがましかったのである。
多作でしかもオールジャンルなことで有名な東野圭吾であるが、この辺りの作品からやけに薄味というか、作品を作ることに小慣れてしまい、何かが失われてしまったように感じるのだ。
⑮本ボシ(元題『図地反転』)
本ボシ (講談社文庫) | ||||
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「被疑者はクロだ。そう信じろ。その気迫が、相手を突き崩すんだ」
必死の捜査があぶり出した容疑者は、果たして本当に「真犯人」なのか?
乱歩賞受賞作『沈底魚』の作者が放つ、捜査心理ミステリー!河原で幼女の全裸死体が発見されて、初めて捜査本部に詰めることになった一杉研志(ひとすぎけんじ)。目撃情報から浮かび上がったのは、とかく噂の絶えない小学校教師。その不敵な容疑者が取調官の説得に落ちた瞬間、事件は解決した……。しかし2年後またもや起きた幼女殺害事件に、研志の過去までが甦る。
『図地反転』改題。
これに関しては完全に出版社のミスだと思う。
作者の曽根圭介といえば、『鼻』で日本ホラー小説大賞を受賞、『沈底魚』で江戸川乱歩賞を受賞、と輝かしい経歴の持ち主である。実際、両作とも非常によく出来たミステリーで、欺かれた読者は多かったことと思う。私も「これは優秀な推理小説家が出てきたな」とワクワクしたことを覚えている。
そこへ上梓されたのがこの作品。発売当時は『図地反転』というタイトルだった。
図地反転とは、見る人の意識によって見えるものが変わることである。ルビンの壷なんかが有名である。
この『図地反転』というタイトルが良くなかったのだ。推理小説マニアであれば、このタイトルからとあるトリックを期待することだろう。まさに私がそうだった。しかもわざわざそんな挑戦的なタイトルにするということは、相当の自信があるのだろうと思われた。
思われたのだった。
…思われたのだった。
あとのことは想像にお任せする。
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⑯動かぬ証拠
動かぬ証拠 (講談社ノベルス) | ||||
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細工は完璧のはずだった……。映像や音声を駆使した画期的アリバイ工作の落とし穴。周到な犯人が見落とした想像を超えるダイイング・メッセージの数々。いずれ劣らぬ完全犯罪が思いも寄らない1点から破綻する。その決定的瞬間をラスト1ページにとらえ、究極の証拠を一目瞭然で明かすかつてない本格ミステリ!
メフィスト賞のアイドル蘇部健一である。
野心的な作品だとは思う。私はチャレンジ精神のある作品が嫌いではない。その心意気を買ったのだ。
ラスト1ページにイラストを載せ、それで真実を伝えるという画期的な手法を採用している。文章のみで読者を欺き、最後には真実を明かすという推理小説の構造そのものにケンカを売るような作品だ。
それ自体は最高のアイデアだったと思う。
でもそもそものイラストがあれでは何がなんだか分からない。誰もイラストレーターに指摘することができなかったのだろうか?
駄作しか書かないさすがの蘇部健一でも許せなかった数少ない作品である。
⑰ブルータワー
ブルータワー (文春文庫) | ||||
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悪性の脳腫瘍で、死を宣告された男が200年後の世界に意識だけスリップした。地表は殺人ウイルスが蔓延し、人々は高さ2キロメートルの塔に閉じこめられ、完璧な階層社会を形成している未来へ。
石田衣良が『池袋ウエストゲートパーク 』のドラマ化などで作家として大成功を収めている頃に書かれた作品。確かこれも書店で平積みされているのを勢いで買ったような覚えがある。
中身は石田衣良が大好きな冒険とエロの話になっている。きっとそうだ。
別にそれでもいい。面白ければ。
しかしこの作品はあまりにも思いつきで書かれているし、面白くも何ともない。設定で逃げようとしているのが手に取るように分かる。結局は物語を書ききることができなかっただけなんだろう?
読みながら「ずいぶん未完成な作品だなー、つまんねえなー」と思っていたが、ダメ押しが、著者自身によるあとがきである。
「物語というのは時間とともに完成されるものだと思う」云々。
なめるな。何をのたまっているんだ。お前が完成させずに誰が完成させるんだよ。
⑱向日葵の咲かない夏
向日葵の咲かない夏 (新潮文庫) | ||||
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夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
売れっ子作家というのは、それだけでアンチを生み出してしまう。
道尾秀介は今の出版会を牽引する超売れっ子作家である。出す本出す本、売れまくりである。実際、かなり面白い作品を多数発表している。優秀な作家と言えよう。
道尾秀介の作品を読み、面白いと思った読者は次にこう思う。
「じゃあ昔書いていた本も面白いのかも」と。
たくさんの本を書いていればいるほど、駄作を生み出していしまう可能性は高くなる。挑戦する姿勢があればあるほど、読者を選んでしまう作品を作り出してしまう。
そう、別に道尾秀介は悪くないのだ。ただ単に失敗してしまっただけなのだ。
ムダに高評価を得てしまった『向日葵の咲かない夏』であるが、高望みは厳禁である。ムダに挑戦した作品だからこそ、変態のツボを刺激してしまっただけで、大衆受けするような作品ではない。
いやー、それにしてもこんなキワモノはそうそう出会えないぞ…。
⑲熱帯
沈黙読書会で見かけた『熱帯』は、なんとも奇妙な本だった!謎の解明に勤しむ「学団」に、神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと、「部屋の中の部屋」…。東京の片隅で始まった冒険は京都を駆け抜け、満州の夜を潜り、数多の語り手の魂を乗り継いで、いざ謎の源流へ―!
誓って言うが、私は森見登美彦のファンである。彼の著作はほぼすべて新刊で購入している。『太陽の塔』が好きすぎて、わざわざ本物の太陽の塔の下まで行って読んだこともあるぐらいだ。
そんな私でも許せないのがこちらの『熱帯』である。森見登美彦の悪いところが120%発揮されている。読者へのサービス精神を完全に失っている。これを書きながら森見登美彦はどんな気持ちだったのだろうか。自分自身で作品を疑いながら書いていたんじゃないだろうか。「これって面白いんだろうか?」って。
超長編なので読むのに恐ろしく時間がかかるのだが、面白いポイントがまったくない。最初っから最後までずーっと面白くない。まだそこらへの石ころを眺めている方が楽しかったかもしれない。
2019本屋大賞で4位にしてしまった書店員たちの罪は重い。何も知らずに『熱帯』を読んで、読書嫌いになる人が出ないことを祈る。
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小説よ、永遠なれ
中にはボロクソに書いているものもあるが、基本的に私は作者をリスペクトしている。ダメな作品を生み出そうとも彼らは挑戦をしてくれている。数多の死屍累々があってこその名作、という側面も否めんこともない。
なので、正直金は返してもらいたいぐらいだがこの作品たちを憎むことはできないのである。歌野晶午がそうであったように、駄作を生み出したあと急に作家として成長することはある。私はいち小説ファンとしてそれを期待するとしよう。そしてこれからも懲りずに新しい作品にトライしたいと思うのである。
ちなみに今回紹介した作品たちは、特に語るべきことがあったから選んだだけであって、実際に「こりゃあ駄作じゃあ!」と思った作品は腐るほどある。いつか機会があれば他にも後悔、いや公開したいと思う。
では。
小説よ、永遠なれ。