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匠による技ありな一冊。米澤穂信『満願』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回ご紹介するのは、推理小説に取り憑かれた男が生み出した、マニアに狙いを定めた作品である。

 

内容紹介

 

「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

 

作者の米澤穂信がインタビューなどで語っている通り、この作品は相当にマニアを意識した構成になっている。曰く「トリックが最優先で、それに物語を肉付けしていった」。

なのでかなり注意深く読んでも、見破られる可能性は少ないだろう。

ありがたいことに私はどれもこれも綺麗に欺かれて、思わず「おぉ~」と唸ってしまった。「えっ!」ではなく「おぉ~」である、と書いてどれだけの人に伝わるだろうか。まあ分かる人だけ分かればよろしい。

 

トリックのための物語

 

作者の米澤穂信が語る「トリックを最優先」というのは、推理小説であれば当たり前のことだとは思う。なぜなら推理小説とはそのものズバリ、推理を楽しむものであって、トリックが無ければ文字通りお話にならない。ではあえて強調してるその真意とは何だろうか。

 

読んでいて私が感じたのは、「トリックと物語の親和性」である。これが非常に優秀な作品だと思う。

たまに見られる作品で、トリックは確かに秀逸だけど物語とちぐはぐになっているものがある。そういうのを読むと、「無理やりくっつけたな」とか「アイデアが先行してあったんだな」とか思ってしまう。

ただそれでも、推理小説好きというのは、物語は二の次三の次、なんなら物語の体をなしてなくても満足できるような変態ばかりなので、問題はないと言える。

 

しかしその一方で、「だったらクイズでも解いてろよ」みたいな指摘もあって、小説としての形態を取るのであれば、読み物としてのクオリティも重視するべきなのである。その方が読者の満足感は高いはずだ。

 

※私自身の話をさせてもらうと、推理小説の泥濘に頭のてっぺんまでは浸かりきっていたときは、物語パートを「いらねえ」と思うぐらいだったので、やはり一概には言えない。というか、極度の変態は無視するべきだと思う。

 

そのトリックは必然

 

作家として創作行為に携わる以上、作品の完成度を求めるのは自然な欲求だし、クリエイターとして健全である。

米澤穂信は今回の作品において、「推理小説としての完成度」を追求したのだろう。そして「トリックが最優先」であることと「トリックが(物語に対して)必然であること」を自らに課したわけだ。

特にこの「トリックが必然であること」というのは、推理小説がただのクイズから抜け出すためには必要不可欠な要素で、多くの推理小説作家が苦心している部分だと思う。中には開き直っている作家もいて、それはそれで個人的には愛しがいがあると思っている。

 

米澤穂信が苦労したおかげか、物語を読んでいる最中はとてもじゃないが「推理小説を読んでいる」という感覚はほとんどない。「ミステリ賞3冠!!」とか喧伝されているせいでこちらが構えてしまうのがもったいないぐらいだ。

そしてトリックは鮮やかにして自然で、完全に物語の一部として融合している。トリックがあってこその物語に仕上がっている。トリックから思いついたとは思えないレベルである。

これは一読の価値があるだろう。

 

ダウナー系です

 

米澤穂信は他の作品でもそうなのだが、結構ダウナー系の作風を得意とする。中には爽やかな青春ものもあるようだが、基本的に作家のとしての本質は“鬱”である。で、『

満願』もかなりのダウナー系作品である。作家として勝負をかけた作品なのにだ。

 

勝手な想像だが、彼の著作で「秀逸」とされる作品のほとんどがダウナー系なので、きっと上質なプロットを思いつくときのキッカケが、そういったネガティブな所にあるのだろう。米澤穂信のそういう質も私は嫌いではない。不器用な人なのかもしれない。ことミステリー作家としては器用そのものだが。

 

ダウナー系の作品は人を選ぶ。

どれだけエンタメ性を持たせたとしても、後味が悪いというだけで人は簡単に「つまらない」的な評価を下してしまう。テンションが下がったことと、作品としての価値を混同してしまっているからだと思われる。非常に勿体無い。

これだけの作品にも関わらずAmazonで評価がイマイチなのは、その辺りに理由があるのだろう。

 

以上。

 

 

 

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