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エログロもここまで来ればむしろ爽快。我孫子武丸『殺戮に至る病』

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どうも。

我孫子武丸が生み出した、最高にグロい傑作を紹介する。

内容紹介

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

我孫子 武丸 講談社 1996-11-14
売り上げランキング : 2472
by ヨメレバ

永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。 

ネットで高評価を得ている、サイコホラーの大傑作である。できることなら日本人全員に読んでもらいたいぐらいなのだが、ひとつ問題がある。

とにかくグロい。そしてエロい。いや、グロエロい。もう300ページ超の間、ずーっとグロエロい。ここまで一貫してグロエロいと、むしろ爽快である。うん、それはさすがに嘘だ。

いくらかその方面に耐性がある方でないと、楽しめないのが玉に瑕ではあるが、読後に訪れる快感は並の作品では味わえないものだと断言しよう。

 

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グロエロの理由 

なぜここまで『殺戮にいたる病』がグロエロに終始しているかというと、この作品の主人公がサイコ・キラーだからだ。

しかも相当なキワモンである。いや、サイコ・キラーにキワモノもクソもないだろうが、少なくとも私が知っているサイコ・キラーたちよりは、よりサイコである。そして異常性欲者だ。

そんな主人公の心理、殺戮の様子が丁寧に描写されているのだ。

ここが『殺戮にいたる病』の弱点でもあり、人によっては堪らない部分であろう。

ちなみに告白させていただくと、私は「堪らない側」の人間であった。

ただ私は別にそういった猟奇趣味はないし、異常性欲も特にないので疑わないで欲しい。まあ多少は偏った性癖はあるかもしれんが、常識の範囲内だと信じている。というのは全然関係ない話だし、誰も興味ないと思うので、本当に申し訳ありません、と言いたい。

私が「堪らない」と感じたのはあくまでも、いち読書好きとして、貴重な体験をさせてくれる作品だという意味である。

貴重な体験とは?

皆さんにひとつ聞きたいことがある。

読書の魅力とは何だろうか?

色々あるとは思うが、私の中にある大きな答えとして「日常から離れる」というものがある。

これに関しては語り出すとかなりの文量になってしまうので控えるが、とにかく自分とはまったく違う世界や人物、知識を見せてくれ、そしてそれらを理解、体感させてくれることを読書に期待している。 

そこで得る快感が私にとって読書の最大の魅力だと考えている。

自分とかけ離れているほど、より楽しめると思っている。

で、『殺戮にいたる病』に話を戻そう。

主人公は超絶サイコ・キラー。どれくらいサイコかと言えば、これくらいである。

 

↓※グロすぎるので白字で書いておきます。興味のある方は反転して御覧くださいな。

 

女性を殺して、その死体から女性器を抉り取り、それを使って自慰。腐ってドロドロになるまで使用。使えなくなったら新しいものを補充。 

 

最悪な奴である。

そんなサイコなやつは聖者との呼び声高い私とは正反対にいる存在と言えよう。遠い存在である殺人鬼が今、すぐ目の前にいるのだ。こんなに刺激的な体験はそうそうできないだろう。

我孫子の筆力

しかもだ。

我孫子武丸と言えば、「憑依作家」と呼ばれるほど、主人公の心理描写が上手い。おっさんなのだが、女性主人公を書かせたら、完全に女になってしまう。同じくおっさんの私も女性気分になる。女性がそれを読むと、「我孫子武丸って女なんだ」と言ってしまうほど真に迫っているそうだ。

そんな我孫子の筆がサイコな方向に本気を出せばどうなるかお分かりだろうか。 

ページを開くやいなや、すぐさまあなたはサイコ・キラーに様変わり。テクマクマヤコンの呪文は必要ない。綾瀬はるかも必要ない。

完全にサイコ・キラーとしての目線で物語を追ってしまうはずだ。

 

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背徳感は最高のスパイス

もしかしたらあなたは言うかもしれない。「別にサイコ・キラーの気持ちなんか知りたくねえよ」、と。

そんなあなたに言おう、「背徳感の混ざったエンタメは極上だ」と。

殺人鬼の話を楽しむなんて、最高に反社会的である。鬼畜の所業だ。

だからこそ、その最高の背徳感をスパイスに楽しめる作品が『殺戮にいたる病』なのだ。

あなたはこの衝撃的な物語を読みながら、己の中の正常な部分と背徳感に酔いしれる悪魔との間で揺れ動き続けることだろう。そして、結局はページを捲る手が止められなくなる。「この物語はどこへ行ってしまうのか?」と。

名作は人を動かす

こんなグロエロな作品を名作と呼ぶのは少々気が引ける。だが、これだけの評価を得て、読んだ人たちがこぞって周りの人たちやネットで「読んでくれ!」と言ってしまうのだから、それだけ人を動かす力を持った作品だと言える。これだけで十分に名作と呼べるだろう。

人は自分の感動や興奮を抑えられないようにできている。それを外に発散しないではいられないのだ。

そしてネットには『殺戮にいたる病』で体感した興奮や感動を、「これはすごい!」と騒ぐ人たちの声で溢れている。

これだけ多くの人の心を魅了し、狂わしてしまった作品。

味わわずにいられるだろうか。

 

以上。

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

我孫子 武丸 講談社 1996-11-14
売り上げランキング : 4524
by ヨメレバ