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最悪という名の最高の読書体験を喰らえ。奥田英朗『最悪』

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どうも。

大好きな奥田英朗の傑作小説を紹介する。

内容紹介

最悪

奥田 英朗 講談社 1999-02-16
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その町には幸と不幸の見えない境界線がひかれている。事業拡大を目論んだ鉄工所主・川谷を襲うウラ目ウラ目の不幸の連続。町のチンピラの和也が乗りこんだのは、終わりのない落ちるばかりのジェットコースター。「損する側のままで終わりたくない!」追いつめられた男たちが出遭い、1本の導火線に火が点いた。 

ネットでも非常に好評である。よく言われるのは「『最悪』なのはタイトルだけ!」というもの。まったくもって同感である。

こんな興奮に出会えるから読書は止められないのだ。

そんな全然「最悪」じゃない作品の魅力について、ネタバレせずに伝えていこうじゃないか。

 

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最悪のレベルは人それぞれ

この作品は群像劇になる。何人もの物語が絡み合い、そこには数々の思惑があり、振り回され振り落とされるのが主人公たちになる。みなさんが誰に感情移入するかは分からないが、きっと誰しもに何かしら通ずるものを見つけることになると思う。

3人の主人公たちそれぞれの「最悪」が代わる代わる描かれるのだが、「最悪」の程度は三者三様である。お互いに比べ合うと、もしかしたら「お前の最悪なんて…」となるかもしれないが、実は人それぞれ幸せのレベルも不幸せのレベルも違うのだ。

それを客観的に眺めることになる読者は、「他人の不幸を楽しむ」という悪魔的な快楽に身を委ねることになる

こんなタイトルの本を自ら手に取る人はきっと意地悪である。でもみんなきっと善人の顔をしているはず。

という関係ない話である。お気になさらぬよう。

真に迫る筆力

で、そんな物語なのだが、ひとつポイントがある。

三者三様の「最悪」なので、誰かしらの最悪には共感できなくなったりするんじゃないか?ということだ。これは群像劇でよくある問題である。「こいつは自分と同じ苦しみがある」「こいつのはただの甘えだよ」「バカなやつ」というふうに、登場人物の中に好みの優劣を付けてしまい、自分に取っての主人公はこいつだ、と決めつけてしまうのだ。

しかしそれだとせっかくの群像劇が台無しである。色んな人物が出てきて、それぞれのドラマを楽しむからこそ、加速度的に面白くなるのに…。

 

しかし奥田英朗の筆は読者はしっかりと絡め取る。

主人公たちの内面描写があまりも巧みなために、読者は主人公が入れ替わる度に、感情移入させられることになる。これは凄まじい技術だと思う。

どの「最悪」も確実に私たち読者の真に迫ってくる。これでやられないわけがない。最高の読書体験にならないはずがない。

すべては奥田英朗の筆によるものである。困ったやつだぜ。

恐ろしいまでのキャラクターフェチ

いつだか奥田英朗のインタビュー(もしかしたら『最悪』のあとがきかもしれない)で、「ストーリーにはあまり興味がなくて、とにかく人間を書けてさえいれば、あとは勝手に面白くなると思っているんですよね」というようなことを言っていた。

奥田ファンの私は驚愕した。夜も眠れないほどショックを受けた。嘘である。ぐうぐう寝た。

いや、でも実際驚いた。これだけ上質な物語を生み出しておきながら、「ストーリーには興味ない」って!そうなると、あれもこれもと聞きたくなってくる。あのクソほど面白かった作品たちすべてがもしかしてストーリーをあらかじめ用意されたものじゃなかったとしたら…?とんでもないことである。私には想像を超える世界だ。

それほどに奥田英朗は小説内のキャラクターに情熱を注いでいるということだ。

もし彼が言うとおり、本当にキャラクターを用意だけして、あとは勝手に物語が転がっているのだとしたら、その理論は間違いないだろう。だって実際に最高の物語をいくつも生み出しているのだから。

いやはや恐ろしい男である。

 

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緩急がもたらすもの

『最悪』はかなりの確率で「徹夜小説」と呼ばれている。寝るのも忘れるぐらい夢中になる小説だということだ。私もそう思う。

読者を夢中にさせるその勢いは、作中における“緩急”にある。

私の中にもいくつかの「徹夜小説」があるが、そのどれもが強烈な緩急を有している。逆にこれがないと徹夜させるほど読者を引き込み、興奮のるつぼに叩き落とす事はできないのだと思う。

最初はじわじわと設定を見せる。しかし文章の端々で何やら怪しい雰囲気が感じ取れる。読者はその気配を感じながら登場人物たちの行く末が気になって仕方なくなる。そして次第に物語が進み始める。それは予想通りの方向であったとして、そうでなかったとしても、「物語が加速した」時点で人は捉えられてしまう。

ジェットコースターなんかもそうだが、人は落差を経験しているときに一番興奮するようにできている。じわじわと登っているとき、急降下するときだ。

物語がじわじわ登っていくのを読者に見せつけ、急展開することで最高潮に達する。

あなたはまさしく奥田英朗の掌の上で踊り狂うことになるだろう。ぜひ楽しんで欲しい。

作家としての力量を見せつけた

奥田英朗は読者を乗せるのが上手い。長編でこそその魅力というか力を発揮できると思う。

世の中的にはやはり直木賞受賞作の精神科医伊良部シリーズの『空中ブランコ』になってしまうだろうが、奥田英朗の本当の力や面白さはやはり長編でこそだと、彼のファンである私は思う。ファンが言うのだから間違いない。

芸達者なので、短編だろうが、ふざけた作品だろうが、形にしてしまうのが小憎らしいところだが、根底には彼自身が語るように「人物を描きたい」という気持ちがあるだろうから、やはり長編が一番分かり易いのではないかと思う。

 

究極のキャラクターフェチ作家、奥田英朗の魅力にやられてみてはどうだろうか?

 

以上。

最悪

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