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プロットが一番偉い。垣根涼介『ヒートアイランド』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

どストレートに超面白い本をお教えしよう。

 

内容紹介

 

 

渋谷でファイトパーティーを開き、トップにのし上がったストリートギャング雅。頭のアキとカオルは、仲間が持ち帰った大金を見て驚愕する。それはヤクザが経営する非合法カジノから、裏金強奪のプロフェッショナルの男たちが強奪した金だった。少年たちと強奪犯との息詰まる攻防を描いた傑作ミステリー。 

 

まず謝罪したいことがある。

垣根涼介の代表作といえば、言わずとしれた『ワイルド・ソウル』 であるが、あまりにもその印象が強すぎる&面白すぎるので、私の中で「垣根涼介=ワイルド・ソウルだけの一発屋」だと完全に思っていた。

ごめん。

今回紹介する『ヒートアイランド』。名作『ワイルド・ソウル』に匹敵するぐらい面白い。マジで舐めてたよ、垣根涼介のこと。

でも落ち着いて考えてみれば、垣根涼介って伊坂幸太郎も獲ってるサントリーミステリー大賞とか、吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞など、数々の文学賞をかっさらってるようなツワモノなので、むしろ一発屋だと思ってる方がおかしい。ていうか、それくらい『ワイルド・ソウル』が凄すぎたってのがある。

 

『ヒートアイランド』のここが良い!

 

では『ヒートアイランド』のアピールポイントを列挙しよう。

 

・ストーリーラインが美味しすぎる

・キャラクターたちが気持ちいい

・善悪がはっきりしてる

・作品全体に流れる安心感

 

では以下に、『ヒートアイランド』の魅力について、ネタバレ一切なしで語っていこう。

 

プロット イズ キング

どっかで聞いた話なのだが、サムライギタリストことMIYAVIがアメリカでレコーディングをしているときに、ジャネット・ジャクソンなどを手掛けたことで有名なジャム&ルイスというプロデューサーに「melody is the king!」と言われたことがあるそうだ。

「音楽において、メロディーが一番偉い」という身も蓋もない話で、「何を当たり前のことを?」と思われるかもしれない。

実はこれがなかなか手厳しい言葉で、メロディーが人を魅了することは、多くのアーティストが理解している。しかしながら、多くの人を魅了するメロディーというのはそうそう出てくるものではない。センスも理論もマーケティング能力も求められる。

だから多くのアーティストは、それなりのメロディーに対して、凝った編曲をしたりして、なんとか「商品」を作り上げている。

別に悪いことではない。しかし真正面からはぶつかっていない。

 

これは物語においても言える。

物語におけるメロディーとは、プロットである。話の流れだ。

めちゃくちゃ乱暴に言うけれど、プロットが面白ければ、他の部分が未熟でも十分楽しめる。逆にプロットがしょぼいと、他の部分で相当に輝く部分を作らないと、観客を楽しませることはできない。

 

で、『ヒートアイランド』である。

この作品は色んな意味において、プロットが最強である。弱点のない作品ではない。だけれど、プロットが練られまくっているので、短所が本当にどうでもよくなってしまうのだ。ただただ楽しんで読み切れてしまう。

これは物語として、ひとつの理想形だと思う。

 

奥行きのないけど夢中になれる

『ヒートアイランド』の弱点の話をしよう。

 

例えば、最近の物語におけるひとつの鉄板的ルールがある。

それは「味方にも敵にも、それぞれに正義があり、どちらも間違っていない」という状況を作り出すことだ。

 

これはどうやらガンダムあたりから顕著になった傾向らしいのだが、これをやることによって、観客がどちらの正義も理解できるために、より深く物語の葛藤を味わえる。つまり感情移入である。

感情移入はエンタメ作品を楽しませる上で、かなり重要な要素だ。(ちなみに古典とかは、感情移入とは別の軸で楽しむことが多い)

登場人物たちと一緒に悩み、葛藤し、戦い、活路を見出す。ストレスからの発散。抑圧からの開放。この過程を経ることで、人はカタルシスを感じて、物語に快感を見出す。

 

長々と説明したが、『ヒートアイランド』ではこの図式がほとんど当てはまらない。

敵にも一応正義はあるけれど、普通にクズの言い分なので、読んでいるこちらとしては「さっさとやられちまえ」としか思えない。葛藤が全然ないのだ。

でもめっちゃ面白い。なぜか。

そう、プロットがいいからだ。そんな奥行きなんぞまったく意に介さないレベルで、物語が面白いのだ。

 

キャラクターたちが気持ちよすぎる

『ヒートアイランド』で出てくる主人公たちは、社会からドロップアウトした半グレのような連中である。しかし彼らは素人に手を出すようなことはなく、あくまでも色々な事情から少しだけ「日の当たらない稼業」で稼いでいるだけだ。

そんな彼らは不器用なところはあるけれど、基本的にはとても気持ちいい連中だ。読んでて安心感が凄い。作者自身も彼らのことを愛してるのが、文章を読んでいて伝わってくる。ちょっと嫌な言い方をすると、「キャラクターたちを傷つけられないぐらい好き」なのだ。

これは『ヒートアイランド』のもうひとつの弱点でもある。

奥田英朗が言っていたのだが、「面白いキャラを作れば、物語は勝手に面白くなる」そうだ。これはこれでひとつの答えだと思う。実際奥田英朗の作品はくそほど面白いのが揃っているし、常にレベル高水準である。

 

で、なぜ気持ちのいいキャラたちが作品の弱点になるかと言うと、展開が見えてしまうのだ。

読めばすぐに分かる。「ああ、この物語は主人公側が気持ちよく勝って終わるんだな」と。

展開の分かりきった物語を楽しむためには、ある程度の人間的に成熟する必要がある。私はまだその域に達していないので実感は沸かないのだが、老人たちが水戸黄門で楽しめるのはきっとそういうことなのだと想像している。

 

しかしそんなふうになんとなく先が読めてしまうのにも関わらず、やっぱり面白い。なぜか。

しつこいだろうが、やはりプロットが練られまくっているからなのだ。

プロットが常人の想像力を遥かに凌駕しているので、こちらとしては必死に食らいつくだけで精一杯。振り回されているうちにゴール。まるでジェットコースターのような作品なのである。

 

安心して読めます

最近の日本のエンタメ作品を見ていると、少々限界を感じる部分がある。

特に暴力描写には辟易してきていて、少しでも作品として特化しようと、過剰に暴力描写を激しくする傾向がある。

以前から何度も書いているが、エンタメにおいて「エロ」「グロ」「暴力」は、最高のスパイスである。化学調味料みたいなもんだ。入れておけば、一定のエンタメ性が担保できる。

しかしそれゆえに、どれも似たような味付け。同じような誘い文句になってしまい、私のような世の物語を片っ端からなめ尽くしている人間からすると「またかよ…」となってしまう。一時期ラーメン屋が二郎系ばかりになった状況によく似ている。

 

目立つからと過激方面に舵を切る作家が多いせいで、「過激なのはちょっと…」という人が置いてけぼりになっているきらいがある。あっさりのラーメンを食べたい人だっているのだ。

ちなみに私は、どちら過激なのもそうじゃないのも楽しめる派なので、「安心して読めるエンタメが不足している状態」だと思っている。

 

そういう意味でも、キャラクターたちは爽やかだし、過剰なエログロ暴力描写もない『ヒートアイランド』は、安心して読めるエンタメとして、かなり貴重な作品なんじゃないかと思う。

(と書いてて思い出したが、そういえば結構人が死ぬ作品だったな)

 

まあとにかく、プロットの強力さで色んな面をねじ伏せる様を、存分に楽しめる作品である。

 

ご賞味あれ。

 

以上。

 

 

めっちゃ面白い作品なので、当然ながら続編が出ている。しかも4冊。どれだけ人気があるか分かってもらえるだろう。