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説得力こそが正義。小川糸『キラキラ共和国』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回の記事は「2018年本屋大賞にノミネートした作品全部読む」という企画の第10弾、つまり最終回である。

 

ちなみに2018年の本屋大賞にノミネート作品は以下の通りである。

 

AX アックス 伊坂幸太郎 

かがみの孤城 辻村深月 

キラキラ共和国 小川糸

崩れる脳を抱きしめて 知念実希人

屍人荘の殺人 今村昌弘

騙し絵の牙 塩田武士 

たゆたえども沈まず 原田マハ 

盤上の向日葵 柚月裕子 

百貨の魔法 村山早紀 

星の子 今村夏子

 

この中から今回紹介するのは…

 

 

『キラキラ共和国』!!

 

「ツバキ文具店」は、今日も大繁盛です。
バーバラ夫人も、QPちゃんも、守景さんも、みんな元気です。
みなさんのご来店をお待ちいたしております。――店主・鳩子

亡くなった夫からの詫び状、川端康成からの葉書き、
大切な人への最後の手紙……。
伝えたい思い、聞きたかった言葉、
「ツバキ文具店」が承ります。

 

2017年本屋大賞にて堂々の4位を獲得した『ツバキ文具店』の続編になる。ちなみに私は『ツバキ文具店』を未読の状態で『キラキラ共和国』を読んだ。

 

まず率直な評価としては、

 

「これはヤラれた」

 

である。 

 

この作品、色んな意味で非常に今の世間に対して挑戦的な作品である。穏やかな顔をしておきながら、内にはメラメラと激しい闘志が秘められている。その熱量に、いい意味でヤラれてしまった。

今回2018年本屋大賞にノミネートした作品をすべて読んだが、どれもこれもなかなか個性的な作品が出揃っている。しかしその中でも特に異彩を放っているのがこの『キラキラ共和国』ではないだろうか。でも間違いなく優等生なのだ。

 

さて、ではそんな異端児にして優秀作である『キラキラ共和国』の魅力について、以下に記していこう。もちろんネタバレは一切しないのでご安心を。

 

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Kindle版が無いですって?

まず声を大にして言いたいことがある。

こちらの『キラキラ共和国』、Kindle版が存在しない。単行本でしか発売していないのだ。

この事実を知ったとき、私は怒り狂った。邪智暴虐の王を除こうとまでは思わなかったが、読むのを諦めようかと思ったぐらいには怒った。

 

というのも、私は読書中毒ブロガーとして日々、ネット上でオススメの本を紹介していて、月に何冊も本を購入する。しかしそれをわざわざ毎回単行本で所持していたら、異動の際にも不便だし、ただでさえ狭い我が家のスペースを取るし、単行本は寝床の暗い部屋で読むこともできない。色々とリスキーなのだ。

だから私は新刊を買うときはKindle一択である。

なのに『キラキラ共和国』はKindle版が存在しない。なるほど、この私にわざわざ書店まで足を運べと言うわけか。ほうほう。

 

おもしれえじゃねえか。

 

これは私への宣戦布告である。私の貴重すぎる時間を費やさせるだけの作品だと言っているに等しい。

ならば受けて立とうじゃないか。こちとら生粋の読書ブロガーじゃ。生半可なもんだったらボロカスに書いてやる。

 

と勢い込んで、すぐ隣にある(徒歩1分)イオンに買いに行ったのが今日の話である。ごめんなさい、ただの出不精です。

 

こいつは…本物

あらすじさえもネタバレだと考えている私は、本当に何の前知識もなしに『キラキラ共和国』を読み始めた。前作を読んでいなくても純粋に楽しめるのかとか、小川糸の作品を読んだことがないとか、色々と懸念事項はあったがそれも込みでぶつかって行ったわけだ。

で、読み進めてすぐにあることを知った。

 

「これ、挿絵があるタイプの作品なのか…」

 

私は小説に余計な装飾を施すのが嫌いだ。装飾はこちらでするので、そんなお節介はしてほしくない。大人なのに食事のときにアーンとされているような不快感がある。うん、人によっては嬉しいシチュエーションかもしれんが、まあ私はそれが嫌なのだ。

同じようなパターンでハリー・ポッターも読めなかった。あれは分類的には児童書なので多目に見るべきなのかもしれないが、それでも余計な強調文などがウザくて、結局1冊も読めずじまいである。非常に残念だ。

 

この時点で放り出しても良かったのだが、それでは作品に対してフェアではない。何の責任もなしに読書をしていた頃の私とは違うのだ。作品と真正面から向き合い、その上で書評をしたためる。それがブロガーとしての私の矜持なのである。どれだけ食わず嫌いが出たとしても最後まで完食しようじゃないか。

 

そんな決意を胸に、少しずつ読み進める。

そしてその内に理解した。

 

「こいつは…本物じゃねえか

 

ヤバい、めっちゃいい。なんかもう、作品に漂う空気とか、文章の言葉選びとか、全部好き。

そしてあの仕掛け。「あぁ…だからKindle版が無いのか」と納得してしまった。

 

『キラキラ共和国』がなぜこんなにも人の胸を打つのか。確かにあの“仕掛け”もある。最大の効果を発揮していると思う。

しかしその根底にあるのは、物語の創作において非常に重要な“ある要素”がキーワードになっている。

 

『キラキラ共和国』を名作たらしめるもの

フィクション作品を評価する上で、私がひとつの指標としているものがある。

それが「どれだけ作品世界に没頭できたか」である。

理想は自分の身体があることさえ忘れるレベルなのだが、まあそこまでの作品にはそうそうお目にかかれない。

 

で、物語世界に没頭させるにもいくつか方法があって、圧倒的なリーダビリティを誇る貴志祐介のように、ひたすらに推敲を重ねて「ノイズのない文章」を書くことだったり、奥田英朗のように「とにかく人物を作りこむ」だったり、多くのエンタメ作家が使うように「謎を読者の眼の前にぶら下げる」なんて方法がある。他にも色々あるだろう。

そして『キラキラ共和国』で使われている手法というか、物語に没頭させる要素というのは、超強力な“説得力”である。これが抜群に効いている。

 

物語の多くはフィクションだ。作りものであることを前提に読者は物語に触れる。

しかしながら、なぜかは分からないが読者の多くは、その物語に“あり得なさ”を感じ取ると途端に冷めてしまうのだ。「こんな奴いないよ」とか「展開が都合良すぎる」とか、もっと言えば「文章がくさい」というようなものだ。Amazonの低評価レビューでよく見かけるタイプだろう。

 

創作物は見たい。でも中途半端に冷めるような“作り物”は許さない。それが読者なのである。

 

説得力を生み出すためには

ではその説得力をどうやって生み出すか、という話になる。

『キラキラ共和国』の例を挙げるならば、この作品は、というか小川糸という作家は、非常に明確な映像を脳内に描けているように感じる。

映像の解像度が高いからこそ、文章の端々で使われる言葉が嘘臭くならずに、しっかりと読者にはまる。普段目にしないような比喩を使われても「分かるかも」と納得してしまったりする。映像が明確だからだ。

 

小説は文章でできている。だからなのか、下手な作家だとどうしても言葉や突飛な表現にこだわってしまい、読者を白けさせてしまうことが多い。やりたいことが評価されるとは限らないし、自分がいいと思うのものを読者が同じようにいいと思うかは分からないのだ。むしろ、作者のこだわりの多くは創作においてただのノイズにしかならない。読者からすれば、そんなこだわり知らんよ、という感じである。

 

小説において最も重要なのは“表現の本質を突くこと”なのだ。演出は二の次である。

だからこそまず頭の中で画が描けていることは、作家にとって必須の能力なのではないだろうか。

少なくとも『キラキラ共和国』という作品においては、この作品を作り出すすべての要素が私にはとても自然に受け止めることができた。フィクションだけど、私の脳内では確かにその世界が存在した。

 

続編の難しさ

あまり褒めすぎてもつまらないので、若干の苦言も呈しておこう。

続編と知りながら読んだのでいくらか覚悟はしていたが、やはり初読の読者が置いてけぼりになってしまうシーンが多かった。

これはけっこう難しい問題である。

初読の私は「置いてけぼり」と感じてしまい、評価としてはマイナスだ。

しかし前作を読んでいる人からすれば、それは「読者サービス」なのだ。秘密の共有とでも言おうか「例のあれですよ」で通じてしまう快感がそこにはある。

 

続編を完全に独立した物語として描くか、それとも読者がファンであることを前提にしてより快感度(共有度)の高い物語に仕上げるか。これは出版社と著者の戦略次第で分かれるところだろう。

ちなみに私は前者の作品の方が好みだ。シリーズものであっても、別の本として発売しているならば、別の作品として成り立っていてほしい。それがムリならば、上下巻とか2巻、3巻と明記してほしい。それがフェアというものである。

 

以上。

いやー、それにしても良作だった。何度ジーンと来たことか…。買って良かったっす。かさばるのは残念だけど…。

 

前作がこちら。先に読んだ方が無難である。