どうも。
異色の作家、中島らもの代表作を紹介する。
内容紹介
ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫) | ||||
|
アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが…。超能力・占い・宗教。現代の闇を抉る物語。まじりけなしの大エンターテイメント。日本推理作家協会賞受賞作。
この紹介文には「まじりけなしの」と書いてあるが大間違いである。
『ガダラの豚』は正真正銘、混じり気だけで出来たエンタメ作品である。
例えて言うならばごった煮。実際にごった煮なんてものは見たことないのだが、それ以外に例えるものが思いつかないほど、あらゆる要素が混ぜ込まれている。
そんな作品の紹介記事を書くのは、かなり勇気がいる。とてもまともな記事にできる気がしない。だが、私なりに挑戦してみたいと思う。どうか『ガダラの豚』の前で鮮やかに散っていく私の姿を嘲笑ってもらいたい。
スポンサーリンク
謎解きはありません
『ガダラの豚』が発表されたのが1996年。日本はあのオウム真理教の一連の事件によって、宗教に対して関心が非常に高まっていた時期である。
そのおかげか分からないが、中島らもの『ガダラの豚』は彼の代表作と言えるほど、ヒットした。
ちなみに私が『ガダラの豚』を手に取ったのは、「日本推理作家協会賞受賞作」の文言にやられたためである。当時の私は、推理小説中毒患者であり、少しでも面白そうな推理小説があったら、必ず読むようにしていた。
しかし、『ガダラの豚』の謎解きの要素は皆無。いや全くないと言ってしまうと語弊があるだろうが、しかし作品としてはほとんど関係ないレベルである。謎はあるけど、どうでもいい。
発想型が本気で物語を作ると…
中島らもという作家は、色んな意味で才能を武器にしていると思う。
デビュー作の『今夜、すべてのバーで』なんかは、フィクションの体をとっているが、実際には私小説みたいなもんである。これがまた面白い。あの面白さは、中島らも自身の面白さと言っていいだろう。
また、私が中島らもの最高傑作だと決めつけている『人体模型の夜』なんかは、彼の驚異的な発想力を武器に、素晴らしい短編集になっている。
※参考記事
つまりどちらにしろ、彼は物語の種を自分自身の中から持ってくるタイプなのだ。
そんな発想型の作家が、ちゃんと資料を勉強し、知識を仕入れ、現代社会の闇に踏み込んでみる。作品の幅を限界まで広げる。
その面白さがどうなるか気にならないだろうか?
天才型の彼が努力をすると、こんなにも規格外の作品ができてしまうのだ。
荒波のせいで時間を忘れる
『ガダラの豚』の主人公はアル中の冴えないおっさんだ。
そして物語は、呪術やら、超能力やら、殺人事件やら、新興宗教やらと、怪しい要素が満杯である。
そんな危険な物語なのに、こんなにも頼りない主人公でいいのだろうか。
ただでさえ、『ガダラの豚』はハチャメチャな物語なのだ。まるで荒れ狂う日本海である。そこにさらに主人公がアル中の冴えないおっさんとは、一体どうやってこの過酷な船旅を終わらせたらいいのか。
読者の不安は尽きないことだろう。登場人物に対して、物語の幅があまりにも広大すぎる。
しかし、だからこそ読者は翻弄される。頼りない主人公と一緒に『ガダラの豚』という荒波の中を無我夢中で泳ぎ続けることになるだろう。
物語がとんでもない着地をし、やっと本を置いたとき、あなたは自分が本を読んでいたことを思い出すはずだ。時間をどこかに置いてきたかのような感覚に陥るはずだ。それくらいハチャメチャな物語にやられてしまうのだ。
それを中島らもが狙ってやっているかどうかは分からない。しかし、私たちが夢中になってしまう力を持っていることは、動かしようのない事実なのだ。作者が狙ったかどうかはもうどうでもいいことだろう。
スポンサーリンク
グダグダ書いてみたものの
これまでこのブログでは腐るほど、小説の紹介記事を書いてきた。基本的にすべてネタバレをしないように書いてきている。
それでも作品の魅力を伝えようと言葉を紡いできたし、それなりにスラスラと書いてきた。
だが、今回の『ガダラの豚』は本当に難敵だった。
中身に触れずに説明しようとすると手が止まってしまう。どう言葉を使えばいいのか。この作品をどうやって表現すればいいのか。最初に読んだのはもう10年以上前だと思うが、未だに自分の中で消化しきれていないのだから驚きである。
だから私は降参したいと思う。
なので、今の私に言えることはひとつだけだ。
とにかく読んでくれ。
これに尽きる。お手上げである。
こんな駄文をいくら重ねた所で、『ガダラの豚』の面白さなんて針の先ほども伝えられん。あなたもこんなブログを読んでいる時間があるんだったら、今すぐ『ガダラの豚』を購入するか、瞑想でもした方がはるかに人生にとって有意義になるはずだ。目を覚ませ、目を。
ということで、予想通り自滅したわけだ。正直、『ガダラの豚』の魅力はまったく伝えられていない。むしろ邪魔さえしたかもしれない。
だが、きっと私がどれだけ足掻こうとも、無様な様を披露しようとも、『ガダラの豚』の魅力は変わらないだろうし、いつまでも名作の座を譲らないはずだ。
ぜひ異色の作家が生み出した異色作を味わってもらいたいと思う。
以上。
ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫) | ||||
|
どうでもいいが、「異色の作家が生み出した異色作」って、もうそれは普通の作品ってのことだ。表現が陳腐で申し訳ない。