アンガールズの田中ではない。
どうも。
小説中毒のひろたつです。ご機嫌麗しゅう。
世の中には物語が溢れている。人が生涯で読める本の数は2万冊だと計算して嘆いていたのは芥川龍之介だったか。さすがに2万冊も読めるとは思わないが、人生で出会える本の数には限りがあるという事実に、小説好きの私は少なからず絶望感を覚えてしまう。
だからこそ日夜、少しでも上質な物語に触れられるよう、選球眼を磨き、「地雷」を踏まないようにしている次第である。人生は限られているのだ。クソみたいな本に付き合っている時間はないのだ。きっと世の本好きの皆様であれば、ご理解いただけると思う。
ということで出来る限り素晴らしい読書体験をしたい私であるが、たまに強烈に「悲惨な物語を読みたい」欲求に襲われることがある。感動作やエンタメはそれはそれで最高なのだが、あまりにも「光」の方ばかりを向いていると、たまには「闇」に目を向けたくなるというのが人情だろう。そして、その振り幅が大きければ大きいほど、価値観が揺さぶられ、より刺激的な読書体験となりえる。自分の人生だったら堪ったものではないが、フィクションの世界であれば楽しめるというものだ。
そしてそんな「悲惨な物語」「鬱な気分にさせる物語」を日本で一番得意としている作家が今回ご紹介する貫井徳郎その人である。
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デビュー作の衝撃
今でこそ貫井徳郎といえば「鬱小説」と言われるほどだが、デビューの頃はもう少し違ったイメージだった。「早熟の天才」そんなイメージで語られることが多かったように思う。
そんな彼のイメージを決定づけたのは他でもないデビュー作『慟哭』である。
書いたのは貫井徳郎が25歳のとき。あまりにも達者な筆に、鮎川哲也賞の選考委員たちが「父親が書いたのではないか?」と疑ったという逸話はあまりにも有名である。
またこの慟哭は、文庫版の帯に
「題は『慟哭』書き振りは≪練達≫読み終えてみれば≪仰天≫」
という強烈なメッセージを北村薫が寄稿したことで、爆発的に売れた。
紛れもない傑作なので、未読の方はぜひ手に取ってもらいたい。
鬱の東野圭吾
貫井徳郎は非常に多作な作家である。しかも文章が非常に上手いこともあり、作品は読みやすく心地よい。
しかし、彼の作品はほとんどが鬱系である。スイスイ読めるのに、読後感の重さと言ったらもう…。仕事なんか行く気にならないし、仕事中も物語の余韻が頭から離れなくなること請け合いである。めちゃくちゃ脳内を汚染してくる作品ばかりを上梓してくるのが貫井徳郎なのだ。
非常に多作であること。そして読みやすく、頭に入りやすい文章を書くことから、「鬱の東野圭吾」と呼べるだろう。
直木賞を貰えない作家
貫井徳郎のもうひとつの特徴は「直木賞から嫌われている」ことだろう。
これまでに2006年『愚行録』、2009年『乱反射』、2012年『新月譚』、2014年『私に似た人』と4回も直木賞候補に選ばれながらも、受賞には至っていない。
コンスタントに作品を上梓しているし、ちゃんと高品質、しかも売れっ子。なのに文壇からの評価を得られない感じも東野圭吾と被る部分ではある。そしてそこが彼の味方をしてあげたくなる理由でもある。
ただ、そもそも直木賞というは作品よりも作家本人に与えられる要素が大きい賞である。選考委員のメンバーも、きっと会議の席で「この人はそろそろあげてもいいんじゃない?」というような会話をしていることだろう。それは過去の受賞作を見てみればよく分かる。
貫井徳郎の作品はかなり陰鬱なものばかりなので、東野圭吾よりも映像化しにくいとは思うが、それでも確実に人気を確保していっているので、直に受賞することだろう。断言する。そうじゃなきゃ直木賞じゃないだろう。
オススメ作品を紹介
ではそんな優秀な作家である貫井徳郎のオススメ作品を紹介したいと思う。
彼はなかなか多作なので、どれから手を出したらいいか分からない人も多いことだろう。
今回の記事ではランク形式などではなく、ジャンルやシリーズごとにオススメ作品を並べてみた。
ぜひ参考にしてもらいたい。
では行ってみよう。
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鬱作品
まずは貫井徳郎商店の看板メニューである「鬱作品」を紹介しよう。
彼の著作の中でも特に不愉快な作品を選りすぐりしてみた。
慟哭
連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが……。人は耐えがたい悲しみに慟哭する――新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。
最初はこれで決まりであろう。貫井を堪能してもらいたい。まだ鬱レベルは低めである。
乱反射
幼い命を死に追いやった、裁けぬ殺人とは? 街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、飼犬の糞を放置する定年退職者……小市民たちのエゴイズムが交錯した果てに、悲劇は起こる。残された新聞記者の父親が辿り着いた真相は、法では裁けない「罪」の連鎖だった!
ささいな出来事の連鎖がどうしようもない不幸を生み出してしまう様子を、貫井の筆が執拗に描く。苦しんでいる人の心境を描かせたら東西一である。
空白の叫び
退屈な日常の中で飼いならしえぬ瘴気を溜め続ける久藤。恵まれた頭脳と容姿を持ちながら、生きる現実感が乏しい葛城。複雑な家庭環境ゆえ、孤独な日々を送る神原。世間への違和感を抱える三人の少年たちは、どこへ向かうのか。少年犯罪をテーマに中学生たちの心の軌跡を描き切った衝撃のミステリー長編。
奥さんが妊娠中にたまたま私の本棚からこれを取り出して読んだところ、「気分が悪くて流産しそう…」と読むのを諦めたぐらいの鬱作品。なんと上中下巻である。存分にダウナーになってほしい。
修羅の終わり
「あなたは前世で私の恋人だったの」。謎の少女・小織の一言を手がかりに、失った記憶を探し始める。自分は一体何者だ?姉はなぜ死んだ?レイプを繰り返す警官・鷲尾、秘密結社“夜叉の爪”を追う公安刑事・久我、記憶喪失の〈僕〉が、錯綜しながら驚愕のクライマックスへと登りつめる、若き俊英の傑作本格ミステリー。
公安警察を扱っているので、推理小説としても楽しめる作品。だが、800ページを越える物語の間、ずっと鬱展開。ここまで来ると逆に笑えてくる。いや笑えない。タイトルからして鬱を期待できてしまうし、それに十分に応えてくれる作品である。
愚行録
ええ、はい。あの事件のことでしょ?―幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家四人が惨殺された。隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。確かな筆致と構成で描かれた傑作。
書いた本人が「とんでもなく陰鬱な物語を書いてしまった」と言ってしまうほどの鬱作品。しかも驚いたことに実写映画化が決まったそうな。一体、誰がこんなの観に行くんだよ。でも、あれか。最近は『渇き。』の例もあるし、鬱展開の作品がウケる傾向にはあるのかもしれない。貫井ファンとしてはヒットしたら嬉しい。
灰色の虹
身に覚えのない上司殺しの罪で刑に服した江木雅史。事件は彼から家族や恋人、日常生活の全てを奪った。出所後、江木は7年前に自分を冤罪に陥れた者たちへの復讐を決意する。次々と殺される刑事、検事、弁護士……。次の標的は誰か。江木が殺人という罪を犯してまで求めたものは何か。復讐は許されざる罪なのか。愛を奪われた者の孤独と絶望を描き、人間の深遠を抉る長編ミステリー。
復讐心をテーマにした作品は多い。実際、これだけの目に遭えば読者も「やっちまえよ」と同調するはずだ。そうやって読者感情を煽りやすく、作品世界に巻き込みやすい題材だからこそこんなにも出回っているのだろう。
そんな「読者殺し」なテーマを貫井が扱えばどうなるかお分かりか。最高のリーダビリティで悶絶させられることだろう。
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症候群シリーズ
“現代の必殺仕事人” をテーマに書いたそうなのだが、貫井節前回の超絶エンタメ鬱シリーズになっている。クソ面白いのに、読中も読後も最高に最悪な気分になれるという類を見ない作品群である。
これだけ陰鬱な物語なのに面白すぎて読む手が止められなくて、私たちの心は背徳感と快感の間で揺れ動き続ける。
一応、「失踪」⇒「誘拐」⇒「殺人」の順に時系列に並んでいるが、どれから読んでも面白いので問題ないと思う。
ちなみに私は「殺人症候群」が最高傑作だと評価している。面白すぎた。
失踪症候群
失踪した若者たちに共通点がある。その背後にあるものを燻り出すべく、警視庁人事二課の環敬吾は特殊任務チームのメンバーを招集する。私立探偵・原田征一郎、托鉢僧・武藤隆、肉体労働者・倉持真栄。三人のプロフェッショナルは、環の指令の下、警視庁が表立って動けない事件を、ときに超法規的手段を用いても解決に導く。失踪者の跡を追った末、ついにたどり着いた真実とは。悪党には必ずや鉄槌を下す―ノンストップ・エンターテインメント「症候群シリーズ」第1弾!
誘拐症候群
誘拐事件が連続して起きていた。しかし数百万程度の身代金を払えば子供が無事帰ってくるため、泣き寝入りのケースが多く、警察は誘拐があったことに気づかない。ネット上で“ジーニアス”と自ら“天才”を名乗り、闇に身を潜める卑劣な犯人を炙り出す。警視庁の影の捜査チームに招集がかかった。だがその時、メンバーの一人、武藤隆は、托鉢中に知り合った男のために、別の誘拐事件に巻き込まれていた―ページを繰る手がとまらない、面白さ抜群のシリーズ第2弾!
殺人症候群
殺人を他人から依頼されて代行する者がいるかもしれない。警視庁の環敬吾は特殊工作チームのメンバーを集め、複数の死亡事件の陰に殺し屋の存在がないか探れと命ずる。事件の被害者はみな、かつて人を死に至らしめながらも、未成年であることや精神障害を理由に、法による処罰を免れたという共通点があった―愛する者を殺されて、自らの手で復讐することは是か非か。社会性の強いテーマとエンターテインメントが融合した「症候群三部作」の掉尾を飾る傑作!
それにしても、これだけ面白いのにあまり評価されていないのは、ひとえにこのクソほども期待できないタイトルのせいじゃないかと私は睨んでいるがどうだろうか。
タイトルは気にせずに手にとって欲しいと切に願う。
コメディ
鬱作品ばかり書く貫井徳郎だが、たまにコメディタッチの作品も発表する。数は限られているのだが、その中でもオススメと言えばこれである。
悪党たちは千里を走る
「真面目に生きても無駄だ」。しょぼい騙しを繰り返し、糊口を凌ぐ詐欺師コンビの高杉と園部。仕事先で知り合った美人同業者と手を組み、豪邸の飼い犬を誘拐しようと企てる。誰も傷つけず安全に大金を手に入れるはずが、計画はどんどん軌道をはずれ、思わぬ事態へと向かってしまう―。スピーディな展開と緻密な仕掛け。ユーモアミステリの傑作。
文章が巧みだと、こういったクライムノベルでも強みを発揮できる。アホらしさをまぶしながらも、しっかりと読者を引き込んでくる。圧倒的なスピード感も文章力がなせる業であろう。
番外編
以上が貫井徳郎のオススメ作品になるのだが、番外編として逆に全然読むべきではない作品も紹介しておこう。
ちなみにどちらも私は未読なので解説は控える。興味がある方はAmazonのレビューを御覧いただきたくことをオススメしたい。最高なので。
ドミノ倒し
地方都市・月影市で探偵業を営む十村のもとに「殺人事件の容疑者となっている男の無実を証明して欲しい」と依頼が舞い込む。依頼人は元恋人の妹でとびきりの美人。しかも久しぶりの依頼にはりきる十村は,旧友の警察署長も巻き込んで,癖のある月影市の住人たちを相手に早速調査に着手する。しかし,過去に月影市で起きた別の未解決殺人事件との奇妙な共通点が見つかり,さらに別の事件の存在も浮かび上がる。ドミノ倒しのように真実を追えば追うほど連鎖する事件。その真相に探偵が迫るとき,恐るべき結末が待ち受ける――。人間の歪みと捩れを浮き彫りにする,衝撃の長編ミステリ。
そうとうな衝撃らしい。 (逆の意味で)
女が死んでいる
二日酔いで目覚めた朝、ベッドの横の床に何かがあった。…見覚えのない女の、死体。おれが殺すわけがない。知らない女だ。では誰が殺したのか?密室のマンションで、女とおれは二人きりだった…。雑誌『ダ・ウィンチ』から生まれた新しい小説の楽しみかた…小説×写真の世界。
…チャレンジは大事だよね。
以上。参考にされたし。