どうも。
日本は世界をリードする漫画大国だと言われている。なんとなくそんなことを聞いたことがあった気がするだけなので、誰が言ったのか知らないし、もしかしたら誰もそんなこと言っていないかもしれない。
だが、これだけ漫画に溢れ、漫画愛を語る人たちが多い国だ。漫画の需要はかなりものの思われる。
実際私もこんな記事をしたためるぐらいの漫画中毒である。
そんな漫画好きな私が今回紹介するのは、漫画ではない。漫画編集者に焦点をあてた本である。
漫画を愛している人であれば、きっと最高に楽しめるはずだと確信している。
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内容紹介
漫画編集者 | ||||
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漫画編集者は何をつくりだしているのか?
何かと何かのあいだに立ってものをつくる仕事に関わるすべての人へ。
喜び、苦しみ、逡巡、充実感が息衝く、「私たちの時代」のインタビュー・ノンフィクション!
そもそも私はこういう「業界内部の話」が大好きである。
普段スポットを当てられない人たちがどんなことで悩み、どんな喜びがあるのかを知ると、存在感がぐっと浮き出てくる。その瞬間が最高に好きだ。
他業種の人には分かってもらいないことっては誰にでもあると思う。ブロガーだと、平日と土日でPVが全然違くて悶えるとかね。
裏側・メタが面白さの価値になっている
漫画や出版の裏側を描く作品が最近多い。
ちょっと考えただけでもこの辺り。
バクマン。 1 (ジャンプコミックス) | ||||
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重版出来! 1 (ビッグコミックス) | ||||
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RiN(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン) | ||||
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働きマン(1) (モーニング KC) | ||||
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実際にこういった作品がヒットしているのは、それだけみんな興味のある分野なのだろう。もちろん、これらの作品が持つ魅力はあるだろうけど。
漫画の面白さは多くの人が知っていること。それをさらに突き詰めると、裏側やメタ的な視点を欲しがる人が出てくる。それによって作品をより深く、というか余計な部分で楽しむことができる。これは映画、音楽、小説、なんでも同じである。日本人のオタク気質がそうさせるのかもしれない。
『漫画編集者』でももちろん、そういった楽しみが盛り沢山である。編集者と漫画家との普段のやり取りや、辛い時、雑誌が休刊になってしまったときの身の振り方など、そこには「生」のドラマがある。
「漫画編集者」というただの一般人にわざわざインタビューした価値がそこにあるのだろう。
けっこう笑える
野中英次や平本アキラの編集者のインタビューなんかが特にそうだったのだが、かなり笑えるエピソードも出てくる。
ちょろっと引用してみる。
編集長は180㎝以上の身長で、胸板がぼくの倍ぐらいあるような人でした。最初にあいさつに行った時は、拳ダコをナイフで削っているんです。見たことないですよそんな人。これはなんかやばいところに配置されたな、と。インテリジェンスを求められる会社に入ったつもりだったのに、権力と腕力が一致している世界だったんですから。編集長が腕力的にもいちばん強い編集部なんて、まぁ原始社会ですよね。さっきの拳ダコにしても、なんでそんなのができるのかって、一年以上も経ってからですけどようやく訊いたら、編集長は「電信柱を殴るからだ」と……。「なんで電信柱を殴らなきゃいけないんだろう」という疑問は増えたんですけど。
こういうエピソードは逆に現実感がないというか、外野として楽しめるものだが、最高である。まるでフィクションの世界みたいではないか。
他にも漫画家と編集者で会議をしたときに、「どのキャラにどんなギャグをやらせるか?」などの話が出てくるのだが、その流れで「誰のパンツを出すか?」とか、漫画創作の中枢にいる人間っぽいエピソードが私には堪らなかった。
やっぱり日本の漫画とパンツは切っても切り離せなかったか…。
おまけが豪華
余談だが、この本にはおまけ的な位置づけで何人かの漫画家がそれぞれの編集者を描いた2、3ページほどの漫画が載っている。
平本アキラのものは当然のクオリティだったし、ふみふみこという方は知らなかったのだが、漫画家にとって編集者がどんな存在なのかがほんの数ページからだけでも十分に伝わってきた。ゆうきまさみは相変わらず飄々としているし、『黒執事』の柩は人間らしいやり取りを描いてくれている。
とまあそんな感じなのだが、この中でもやはり異彩を放っているのが、他でもない松本大洋である。
実は私は松本大洋の漫画をまだちゃんと読んだことがない。今回が初めてと言える。
とは言ってもたったの4ページである。何を分かるというのかという話である。
だがだ。
完全にあの空気感にやられた。あまり他の漫画家と比べるような下卑たことはしたくないのだが、それでも突出していると言わざるをえない。
もしかして私が初松本大洋だからやられているだけの可能性はある。でも一見の価値があると思う。もちろん、編集者のインタビューを読んでからにしてもらいたい。
それにしてもなんだろう、あの魅力は。独特な視点がなせる業なのか、表現力なのか、人柄なのか…。
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物語を生み出す現場でもがく人々
『漫画編集者』を読む限りだと、どうやら編集者というのはときに漫画家と同等の仕事をしたりするようだ。絵こそ描かないが、ストーリーの展開や作品の方向性を決めたりする。
漫画家と一緒に物語を生み出す人々と言える。
今、雑誌だけに限らず、どの媒体でも「どこを狙うか?」というのが命題になっている。
本来、物語やエンタメというのは若い層に向けて作られるし、そこが最先端になる。
だが、少子高齢化の流れ、この出版不況の時代に、あえてパイの少ない層を狙うのは難しい。できればもっと売れる、中高年を狙っていきたい。
だがそれだと物語の進化は止まってしまう。表現も今までの繰り返しになってしまう。
そんな葛藤を抱えているのが、物語の現場にいる人たちなのだろう。
その様は「もがいている」と言って差し支えないだろう。しかし非常に残酷な話になるが、だからこそ読者にとってはありがたい状況とも言える。
上質な作品というのは、ありきたりの場所からは生まれない。必死になって考えた所から生まれるものだ。それか突出した才能がなせるものである。
それは『ブラックジャック創作秘話』を読むとよく分かる。
ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~ (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) | ||||
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人が生み出す
最近、私も年を取ったせいか物語を楽しむの以上に、作品の裏側にいる作り手の発想や熱意、挑戦といったものに感動を覚えるようになった。
結局、どんな仕事だろうとそこで重要なのは“人”なのだろう。
作るというのは、最初の発想は簡単だ。勝手なことは誰にでも言える。
だがそれを実用的なアイデアに昇華させたり、形にしたり、軌道に乗せたり、維持したりするのは大変だ。そこには数々のドラマがあるはずだ。
普段目にしない仕事だからこそ、日の目を見ない仕事だからこそ、私たちは知る価値があるんじゃないだろうか?
きっと世の中の大抵の仕事はそうなのだから。
以上。
漫画編集者 | ||||
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