中村佑介のイラストがヒットの要因だとも思う。
どうも。
森見登美彦の応援隊長ひろたつである。当然自称だ。気にしないでもらいたい。
今回は我らがモリミーの出世作である『夜は短し歩けよ乙女』の紹介をする。
心してかかられよ。
内容紹介
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) | ||||
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「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。
ポップかどうかは疑問が残るが、キュートなのは間違いないだろう。なにせ、万年非モテの森見登美彦が生み出したヒロインなのだ。可愛くならないはずがない。
さて、ではこのキュートな物語の魅力について語っていこうじゃないか。
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著者の出世作!
『夜は短し歩けよ乙女』は森見登美彦の四作目にあたる。ちなみに著者初の女性主人公である。そのため森見氏は今作を「長女」と読んでいる。
元々、私に人生初の衝動買いをさせた『太陽の塔 』でファンタジーノベル大賞という聞いたこともない賞を受賞してデビューした森見氏。しかしその存在は強烈なファンを作る一方でまだまだ「知る人ぞ知る」状態であった。当然、ファンたちは「みんなにもっと知ってもらいたい」と願っていた。
その後、『四畳半神話大系 』、『きつねのはなし 』とマニアックな作品を連続で上梓し、「これは絶対にマイナーなままだな」と思っていたところに『長女』である。
あれだけ腐れ男子大学生を描いていきた森見登美彦なので、まさか女性主人公を持ってくるとは。かなりの衝撃と共に「大丈夫なのか…?」と一抹の不安も覚えたものだ。
しかしそんな心配は杞憂に終わる。
表紙の中村佑介氏の手による美しいイラストも相まってか次々と売れていった。書店で平積みしたときにあのイラストはどうやっても目を引いた。
あれよあれよという間に、本屋大賞で第二位、山本周五郎賞受賞と、完全なる出世作となったのだった。
勝手ながら、森見登美彦が遠くに行ってしまったようで、寂しさも覚えたもんだ。どうでもいい話だが。
たぶんチャレンジだったと思う
あまり内容には触れないが、読んだ方は分かる通り、この女性主人公(黒髪の乙女とだけ書かれており、名前は不明)、かなり違和感を覚える。Amazonのレビューなんかを読むと「不思議ちゃん」とも書いてある。
デビューからずっと森見作品を読んでいた私は思った。
さては、女性を書くことができねえな。と。
明らかに森見登美彦は非モテ男子の代表みたいな男で、女心なんぞ針の先ほども理解していないと分かる。
そんな男が半分だけとはいえ(主人公が2人の視点が交互に描かれる)女性を主人公に据えるとは思い切ったチャレンジだ。
しかし、森見氏は女性の内面を描くことができない。ではどうすればいいか。
そりゃあもう「自分が理想とする女性を生み出す」。これしかないのだ。
だからこそ、あんなにも捉え所のない、ある意味“現実感”のないキャラクターが生まれたのだと思う。
そしてそんなキャラクターがこれだけ受け入れられたということは、森見氏のセンスが良かったこともあるだろうし、あの荒唐無稽な物語を縦横無尽に歩き回る主人公として最適な存在だったのだろう。
まともなキャラクターでは、あの物語に付いてこれないだろうし、なによりも相応しくない。
そんなことを思った。
あくまでもこれは私の勝手な推測である。もしかしたら私が思い違いしているだけで、森見氏は本当はジゴロなのかもしれない。
実は一番クセが少ない
何の意味があるのか分からないエピソードやキャラクターたち。夢の中を彷徨っているかのような舞台装置。読者を翻弄する作品だとは思う。
だが実は森見登美彦作品の中では一番クセが少ない。
というのも、彼の得意とする腐敗した男の内面から溢れ出る毒素がほとんど消されているのだ。かなり強力な消臭剤を使っているものと推測する。それが編集部の意向か、それとも森見氏のバランス感覚なのか知らないが、かなり大衆に向けた作品になっている。
『太陽の塔』を読んでもらうと分かるが、もう男子学生の腐敗臭でくっさいのなんの。悪臭でページが黄ばんでいたような気もするが、さすがにそれは私の妄想だと信じたい。
ただそれがクセになってしまうのが森見作品の魅力でもあり、恐ろしいところでもあるのだ。もしかしたら森見作品を読んで「俺はこれでいいんだ!」と勘違いした男子大学生がいるかもしれない。もしそうだとしたら不幸極まりない。全然良くないから。君、全然ダメだから。
『夜は短し』のもうひとりの主人公である先輩も、確かに腐れ大学生という位置づけではあるものの、やはり一度消毒されている感がある。清潔感がある。物語の都合上、そうしなければならなかった部分はあるが、それでもやはりここまでの作品と比べるとクセを取り払ったように感じる。
だからこそヒットしたのであろう。『太陽の塔』や『四畳半神話大系』がここまで売れることはありえないだろうから。
※『四畳半神話大系』が売れたのはアニメ化の影響でしかない。超特殊な例だろう。
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恥ずかしいと思うのだが
ということでめでたく売れっ子作家にのし上がった森見登美彦。しかし弊害が発生しているのをご存知か。
どうでもいい話をする。
美容室に髪を切りに行くとき、私は常に本を読んでいる。時間がもったいないし、知らない人と余計な会話をしないためなのだが、これが苦痛になりつつある。
私がおもむろに本を取り出して読み始めると、自称本好きの美容師が話しかけてくるのだ。「本好きなんですか?」と。
それだけならいいのだが、「私、森見登美彦が好きなんですよ~」とか言われても私は何と返事をすればいいのだろうか。好きな作品について談義に花を咲かせろと言うのか。上に書いたようなキャラクター論を語ればいいのか。付いてこれるのか。疑問は尽きない。
大体にして、森見登美彦好きというのは本来恥ずかしいことなのだ。あえて断言しよう。
あんなふざけた登場人物たちが闊歩する作品だ。まともな神経であれば付いていけないだろうし、「意味ワカンネ」と放り投げられてもいいし、「気持ちわりい主人公だな」と燃やされたとしても、仕方なしと受け入れるべきだ。そんな禁書的存在であるべきなのだ。森見作品ってのは。
まあさすがにそれは言いすぎだが、それでも「森見作品って最高だよね~」とポップに話すようなことではないのは間違いないだろう。
だから私は美容室に森見作品を持ち込むことは一生ないだろうし、家の中で家族にも隠れて読み漁りたい。
以上、どうでもいい話である。
入門書としてオススメ
もうこの紹介記事も終わりにしたいと思う。
全然関係ないことを書いてきたような気がするがまあいいだろう。
どちらにしろ『夜は短し歩けよ乙女』だって関係ない話ばかりが載っているし、むしろ肝心の物語よりもそちらの方が多いくらいだ。私の紹介文が寄り道するのも当たり前だろう。
さて、まとめておく。
『夜は短し歩けよ乙女』は…
・森見登美彦の出世作である
・一番クセが少ないので初心者にオススメ
・森見登美彦が生み出した最高にキュートな女性を楽しめる
・よく分からないけど、なんか面白い
という作品である。ひとえに「これだ」という文句は思いつかなかったのを許して欲しい。それくらいごった煮な作品なのだ。
森見ワールドと呼ばれる不思議な世界観と、どうでもいいとしか言いようがない物語を存分に楽しんで頂きたい。
いのち短い人生を彩る作品にならんことを。
以上。
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) | ||||
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