激しすぎました。
これが5年?!
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
今回紹介する本はこちら。
21世紀を代表する会社を作りたい――。高校生のときに抱いた起業の夢は、サイバーエージェントの設立により実現した。しかし、社長になった彼を待っていたのは、厳しい現実だった。ITバブルの崩壊、買収の危機、社内外からの激しい突き上げ……。孤独と絶望、そして成功のすべてを赤裸々に告白したノンフィクション。夢を追う人必読の書。
あまりにも波乱万丈でエネルギッシュな内容に、思わず一気読みしてしまったのだが、エピローグで「5年間を記した」と書いてあって度肝抜かれた。えっ、これが5年?
藤田社長、濃厚すぎやしませんか…?
やっぱり大企業を起こすような方は違うわー。俺みたいな凡人とは違いすぎるわー。
なんて愚痴を言いたくなるほど、格の違いを見せつけられた感がある。困ったもんだ。
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HIPHOPブームの立役者
サイバーエージェントという社名は今までも知っていたし、藤田社長の名前も見かけたことはあったが別に興味を持ったことは無かった。それにベストセラーと呼ばれるものにはとんと興味がない私だが、今回手に取った『渋谷ではたらく社長の告白』は文句なしのベストセラー。
なのに、なぜ読む気になったか。
それはサイバーエージェントが私の大好きな『フリースタイルダンジョン』のスポンサーだからである。
『フリースタイルダンジョン』は間違いなく日本のHIPHOPブームの火付け役である。特にフリースタイルの面白さをあまねく世に知らしめた番組である。今まで日の目を見なかったラッパーたちに脚光を浴びる機会を作ってくれた。藤田社長こそが昨今のHIPHOPブームの立役者と言っても過言ではないだろう。
なんでも「今ならフリースタイルは当たる」とZeebraに言い切ったのは藤田社長その人なのだとか。『渋谷ではたらく社長の告白』の中でも書かれていたが、この人は本当に感覚が鋭いんだなぁと感心してしまう。答えが先に出て、理由はあとから見つけるらしい。きっとフリースタイルに目を付けたのも同じような感じだったのだろう。
ということで、大好きな番組のスポンサーの社長なので、本書にも興味が湧いたわけだ。まさにスポンサー効果である。
やっぱり普通じゃない
あんまり負け犬じみたことは書きたくないのだが、これだけ格の違いを見せつけられると愚痴のひとつも言いたくなる。
そもそも藤田社長は高校生のときに「21世紀を代表する会社を作る」というとんでもない目標を掲げる。そしてその目標に対して全力で突き進むのだが、その行動力と決断力たるや…。凡人の自分からすると凄すぎて「バカなんじゃないか」と思えるほど。これは他の起業家の自伝を読んでも感じたことで、そもそも持っているエネルギー量が私なんかとは違いすぎる。だから私は凡人に甘んじているんですね。はい、よく分かりました。
どれだけどん底の状況に陥っても、騙そうとしてくる人は見抜いちゃうし、難しい状況でも正しさを見失わない目といい、読めば読むほど藤田社長の化物っぷりを思い知らされました。降参っす。
それにしても宇野社長のカッコよさよ
『渋谷ではたらく社長の告白』に度々登場するU-NEXTの宇野社長。藤田社長の師匠的な存在だけあって、本の中でもとりわけ魅力的に描かれている。
(黒すぎなのは気にしないで欲しい)
特に印象に残ったのが、サイバーエージェントの株価が下がりまくって最大のピンチを迎えたシーン。その時点でサイバーエージェントは現金を180億円以上保有していたにも関わらず、時価総額(会社をまるごと買える金額)が90億円でいいという素人の私には訳の分からない状況。とにかくピンチなのは分かる。だってそんなの誰だって食いつくだろう。絶対に得する状況だ。
実際、当時のサイバーエージェントには色んなところから買収話が持ち上がり、下がり続ける株価と誹謗中傷の嵐の中で、藤田社長は完全に擦り切れてしまった。
そして遂に売却を決断する。だけどそこは社長しての維持か、藤田晋としての矜持なのか、縁もゆかりもないもない会社に売るぐらいだったら、学生時代からお世話になっている宇野社長に売ろうと決める。
断腸の思いで宇野社長が待つ山王パークタワーへ…。
そのシーンを引用させてもらう。
私は溜池山王、山王パークタワー13階にある有線ブロードネットワークスを訪れました。
エレベーターで13階まで上がりました。受付から社長室に通されるまでの道のりは、果てしなく長いものに感じられました。
顔は紅潮し、意識は遠のきそうでした。すれ違う人の顔は全く目に入りません。
ガラス張りの部屋に通され、私はひとり、思い詰めた表情で宇野社長を待っていました。
「どうした?顔色悪いな?」
「あの……」
宇野社長を見た瞬間、声が詰まって言葉が出てきませんでした。
私は唇をかみ締め、必死に涙をこらえていました。
宇野社長は、眉間に皺を寄せ、厳しい顔つきでじっとこちらを見ています。
「あの……もう……、有線に買収されてもいいと……」
声にならない声で言いました。
宇野社長は低い声で、私がすべてを言い終わる前に言いました。
「おまえの会社なんていらねぇよ」
「……え?」
宇野社長の厳しい口調に、私は思わず顔を上げました。素っ気なく、なんの感情もこもらない冷たい言い方でした。
「そんな気持ちでやってたのか。よく考えろ」
かっこよすぎでしょ。言ってみてえ。
ここに来るまで藤田社長が追い詰められる描写ばかりが続いていたからか、余計にこのやり取りの痛快感が増したように思う。「おまえの会社なんていらねえよ」ヒュー!
さきほども書いた通り、宇野社長からすればこの話で損することは何もない。濡れ手で粟というやつだ。だけどあえてそうしなかった。素っ気なく切り捨てた。困りきった後輩に対して、「てめえでなんとかしろや」と言い放った。
こんなの侠気以外の何物でもない。これで一気に宇野社長のファンになりました。あ、あとこのときのピンチを見事に救ってくれた楽天の三木谷社長も。ふたりともかっこよすぎだわ。
DMMの亀山社長が「宇野社長の悪口を聞いたことがない」とコメントしていたが、それも納得のエピソードである。
大衆の愚かさがここにも…
宇野社長と三木谷社長のかっこよさとは対照的に、世論というか大衆の愚かさが非常に際立っていた。
サイバーエージェントが上場したのはネットバブルが弾けるその直前。それゆえに藤田社長は大変な目に遭うのだが、それに乗じて大衆が叩くは叩く。藤田社長を詐欺師呼ばわりし、人格否定の言葉を連発。中には殺害予告もあったらしい。当時は炎上なんて言葉はなかっただろうけど、炎上という表現さえも生ぬるいような仕打ちを受けた。
でもそれも、サイバーエージェントの実態をちゃんと把握していれば、そんな言葉は出てこなかったはずで、ただ単に簡単に見える「株価」が下がっていたから暴言を吐いていただけ。藤田社長は当時テレビなんかにもよく出演していたらしいから、余計に嫉妬感情を煽ったのかもしれない。羨望と嫉妬は表裏一体だから。
大衆は本当に簡単に間違う。そして間違っていようが関係なしに易きに流れる。その勢いは誰にも止められない。飽きるまで待つしかない。
それを考えると、みんなが同じ方向を向いているときというのはチャンスなのかもしれない。どうせみんな表面的なものでしか判断しておらず、分かっていないのだから、大衆の逆張りをすれば成功するように思える。実際、このときに暴落したサイバーエージェントの株価(上場時の1/10!)で買っておけば、今頃笑いが止まらなかっただろう。
面白い!
色々と書いてきたが、この本の感想を簡潔に記すと
「面白い」
これに尽きる。
本書なかで様々な危機を迎えたりはするが、現時点でサイバーエージェントが活躍していることをみんなが知っていることなので、ハッピーエンドが待っているのは間違いないわけで…。それなりに安心して読むことができる。まあジェットコースターに乗るようなもんだと思ってもらえれば分かりやすいだろう。
作家を目指したこともあるだけあり、藤田社長の文章は非常に読みやすい。いや、もしかしたら編集の力かもしれないけど。
たったの5年間の記録ではあるが、山あり谷あり、そして異常なスピード感があり、最高に楽しめた自叙伝だった。タイトルに“告白”なんて言葉を使っている通り、社長として残酷な決断を下したところもあり、それも含めて素晴らしい内容だったと思う。
藤田社長のことが好きなれる本である。
以上。