どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
今回の記事は「2018年本屋大賞のノミネート作品を読まなきゃ死ねない企画」の第6弾である。
ちなみにノミネート作品はこちら。
今回紹介するのは…こちら!
『屍人荘の殺人』っ!!!
デビュー作にして前代未聞の3冠!
『このミステリーがすごい!2018年版』第1位
『週刊文春』ミステリーベスト第1位
『2018本格ミステリ・ベスト10』第1位神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!
奇想と本格ミステリが見事に融合する第27回鮎川哲也賞受賞作!
過去の本屋大賞ノミネート作品を見渡しても、こんなにゴリゴリのミステリー作品って無かったように思う。しかもタイトルまで「〇〇の殺人」系だからね。商売っ気よりも、本格ミステリとしての宣誓を優先した姿勢は、いちミステリーマニアとして評価しよう。 こんなタイトルにしたら売れるもんも売れんだろうに…。
鮎川哲也賞に加え、このミステリーがすごい!、週刊文春ミステリーベスト、本格ミステリベスト10でも第1位を獲得する快挙を成し遂げた傑作。そんな『屍人荘の殺人』を今回の記事では紹介したいと思う。
当然ネタバレ無しで行くので安心してほしい。
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これは異物です
基本的に本屋大賞というイベントは、普段本を読まない人までを顧客対象にしたものと私は認識している。
書店員という私たち素人とそう変わらない人たちが「今一番面白い小説」を決めるわけだ。専門性も小難しさもなしに、頭を空っぽにして楽しめる。そんな作品が集まるのが本屋大賞であるし、そうあるべきだと思っている。
しかしそこに紛れ込んだ異物。それが『屍人荘の殺人』だ。
ペットショップに売られている綺麗な子犬たちの中で、一際異彩を放つ雑種犬。メルヘンの世界に迷い込んだオーク。女子高生の中に混ざるオッサン。そんなイメージを私は抱いた。
本来であれば本屋大賞にノミネートしていいような作品ではないのだ。もっとマイナーなミステリーの世界でこっそりと、そしてねっとりと受け入れられるべき作品である。
まあこんなクセのあるタイトルなのでそうそう簡単には門外漢の方が手に取ることはないだろう。しかし、もし仮にふと手にとってしまった日には、Amazonのレビューに暴言がまたひとつ増えることだろう。「本屋大賞にノミネートしてたらから、もっとメジャーな作品だと思ってたのに…!」という叫びが方々から聞こえてきそうである。
ミステリーの新たな地平を切り拓いた作品!!
いち読書ブロガーとして『屍人荘の殺人』を評価するならば、こんな感じにまとめられるだろう。
・物語性は並み以下
・リーダビリティ低め
・「なにそれ?」と叫びたくなるような、超展開
・ひとつも魅力的じゃない登場人物
申し訳ないが、悪口しか書けない。
しかしその一方で私は極度のミステリーマニアである。そんなミステリーマニアとしてこの作品を評価すると以下のようにまとめられる。
・画期的なクローズドサークル!
・謎解きの抜かり無さが半端じゃない
・ひとつのミステリー作品としての完成度が、ほぼ100%
・溢れる本格ミステリ愛
・隙がないミステリを作るために、あらゆるエンタメ性を捨てる潔さ
・伏線描写の“伏線感”が凄い。でも先を読ませない
このように、ひとたび視点を変えるだけで絶賛すべき作品になる。実際、鮎川哲也賞の選考では選考委員全員が満場一致で『屍人荘の殺人』を推したぐらいだ。その実力は推して知るべし、か。
新たなクローズドサークル
古典の名作に多い“クローズドサークルもの”。分かりやすく言うならば、雪の山荘もの。
外界から遮断された空間において起きる殺人事件を描いた作品を、クローズドサークルものと呼ぶ。ミステリーマニアには堪らない設定である。
そんなクローズドサークルものだが、最近は急速に進化する通信手段によって、苦境に立たされている。これだけ携帯電話が普及し、ネット環境が整備された昨今、よほどのことがない限り外界と連絡が取れないような状況というのは、生まれない。世のミステリー作家たちの悩みどころである。
そんな悩みを画期的な手段によってぶち破ったのが『屍人荘の殺人』である。これは本当に未だかつて見たことがない方法だ。私は本書を読みながら、思わず「そう来たか!」と声を上げてしまったほどだ。しかも、それがクローズドサークル状況を作り出すためだけではなく、物語の根幹を成す謎にも大いに絡んでくるのだから、もう偉いっと作者の頭を撫でてあげたくなる。プロットを練りまくったのがよく伝わってくる。
ミステリー硬派な作品
最高のクローズドサークルを生み出すために、そして魅力的で不可能性の高い謎を生み出すために、練りに練りまくったプロット。ミステリーとしては極上品である。
しかしながら、さきほども書いた通り上質なミステリーとして仕上げることを目的としているために、エンタメ作品としての価値は諦めているというか、もとより眼中にないようである。
つまり、非常に硬派な作品なのだ。ミステリーに対して硬派、という意味である。
この辺りが私が「マニアにこっそりと、ねっとりと評価されるべき作品」と評する理由である。
売れ線に媚びない姿勢が素晴らしい。いや、もしかしたらただ単に売れ線の作品を書けない不器用な作家なのかもしれない。それはそれで愛すべき作家である。
ミステリー作家の苦悩は続く
『屍人荘の殺人』の作者である今村昌弘はこれがデビュー作である。デビュー作でこれだけのクオリティを発揮し、さらには3冠を獲得するというのは快挙ではある。
しかしながらこれもミステリーマニアとして長らくこの業界を見てきた私から言わせると、「最初しか勢いがない作家なんて腐るほど見てきた」である。
ミステリーのトリックを考案する脳みそというのは、ある種の才能である。誰にでも出来るものではない。また、考案できる人だとしても、斬れ味鋭いトリックを生み出せる時期みたいなものがある。人生のごく一部の期間しか、その能力を発揮できないのだ。
だから今村昌弘がこれからどんな作品を書けるか、の方が遥かに重要なのである。
もしかしたらこれ一発で消えてしまうかもしれないし(そんな作家の方が多い)、続けたられたとして、ゆっくりと目新しさを失いながらフェードアウトしていくかもしれない。
ミステリー作家は因果な商売である。そもそも売れないし、その魅力を理解してくれる人は少ない。なのに作品を作るハードルは高い。まるでプロボクサーのようだ。一度王者になったぐらいじゃ生きていけない世界なのだ。
ミステリーという業を背負った新たな作家、今村昌弘。
彼の前途多難なゆくえをじっくりと見守りたいと思う。
以上。
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