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哲学者も唸るマンガ『寄生獣』について語ろう

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どうも。

今回は『寄生獣』について語りたいと思う。

今更語るまでもないほど誰もが認める名作であるが、それでも語ろうじゃないか。

誰もが自分なりの寄生獣観を語る必要があると私は思っている。

あらすじ

知らない人などいないかもしれないが、それでも一応あらすじを紹介しておこう。

シンイチ……
『悪魔』というのを本で調べたが……
いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ……

他の動物の頭に寄生して神経を支配する寄生生物。高校生・新一と誤って彼の右手に寄生したミギーは互いの命を守るため、人間を食べる他の寄生生物と戦い始めた。

 ※Amazonより引用

 

ある日突然、空から人知れず多数の正体不明の生物が飛来する。その生物は鼻腔や耳介から人間の頭に侵入し、脳を含めた頭部全体と置き換わる形で寄生して全身を支配し、超人的な戦闘能力で他の人間を捕食するという性質を持っていた。寄生後の頭部はもはや人間の物ではないが、自在に変形して人間そっくりに擬態する。彼ら「パラサイト(寄生生物)」は高い学習能力で急速に知識や言葉を獲得し、人間社会に紛れ込んでいった。

※wikiより抜粋

 

大きなカテゴリーで言えばパニックものである。地球外生命体に脅かされる人類、というやつだ。だがそんなのは、『寄生獣』の表紙部分でしかない。中身には大きな大きなテーマが横たわっている。

 

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残酷&グロテスク

寄生獣は間違いのない傑作である。漫画史に燦然と輝き続けることだろう。

だが万人にオススメできないのが寄生獣の辛い所である。

というのも、描写がとにかく残酷だしグロテスクなのだ。

 

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なにこれ。よくこんな”絵”を頭に描けたな岩明均。

 

作者の岩明均はそんなに絵は上手くない。結構そっけない絵を書く。登場人物の表情も平坦なことが多い。だがことグロテスクさにおいては、妙な力を発揮する。人の不快感を煽るのが上手いというか…。

私の友人に勧めた所、5巻のこの表紙を見て「無理!」と言われてしまった。 

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インパクトがあるのは認めるが、この表紙を見て誰が買おうと思うのだろうか? 講談社もっとがんばれ。

作中で人がホイホイ死ぬ。全然命を大事にしない。しかも寄生された人間が他の人間を食うという設定。どれだけ「名作なんだって!」と言った所で嫌厭されて当然だろう。

だけど揺れ動く心

それだけであればただのパニックものである。ゾンビ映画を見ていちいち死ぬ人に対して、「あぁなんて可哀想なの…」と思う人はいないと思う。そういうものだと割りきって見ていることだろう。

寄生獣にもその一面がある。いっぺんに何十人も死ぬシーンでは人の命がゴミのようである。ムスカが出るまでもない。感情移入などまったくできない。少しぐらいは「可哀想だな」と思うことはあっても、心にそこまで傷がつくほどではない。

だが、それなのにこの作品ではときおり登場人物たちの揺れ動く心がしっかりと描かれている。感情移入せざるを得ないほどに真摯に描かれている。

ここが『寄生獣』のにくい所である。

いっその事、「パニックものなんだから人は死んで当たり前」という防衛戦を張らせてもらった方がどれだけラクなことか。

しかし、この登場人物たちの切実な葛藤があるからこそ、私たち読者は物語の中から逃れることができないのだ。「どうせフィクションでしょ?」とはならない。誰もが主人公の新一と一緒に苦悩し、葛藤することだろう。

それこそがこの作品の醍醐味でもある。

 

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メタと明確な目的

『寄生獣』の第一巻が発売されたのが1990年。かなり昔である。当時としては画期的な要素がこのマンガにはあった。今となってはそこまで珍しくもないことなのだが、作品の中で「人類への問題提起」がされているのだ。

私は『寄生獣』と中学生のときに出会ったのだが、この「問題提起」に相当な衝撃を受けた。初めてメタという概念を経験した。

『寄生獣』は話だけを追えば、主人公新一と彼の右手に寄生したミギー、そして寄生生物たちとの戦いである。バトル的な要素を楽しむこともできる。実際、終盤での後藤との戦いは最高にエキサイトする。

だが『寄生獣』のテーマはそこにはない。主人公が大きな挫折を乗り越え、強大な敵を倒すことができました、パチパチ、めでたしめでたし。というものではないのだ。

あくまでもこの作品の焦点は私たちの中に向けられている。

それは作中の言葉の端々に現れている。例えばミギーが辞書で言葉を覚えているときに発した言葉、

「シンイチ…『悪魔』というのを本で調べたが…いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ」

などがそれにあたる。

このような言葉が私たち読者の胸に突き刺さってくるのだ。

目的を明確に持った作品は強い。作品のエネルギーが効率よく伝わる。だからこそ『寄生獣』は読んだ人の心に残るのだ。

名作は人を動かす

『寄生獣』は2014年に染谷将太主演で実写映画化している。

名作だがあまりにもグロテスクなこの作品を映画化しようとした人たちを偉いと思うと同時に私はアホだと思った。

名作漫画と映画化は切っても切れないものである。というのも、名作に出会うと人は行動を起こさずにはいられないからだ。内なる感動は外へと溢れだす。溢れた感動は行動へと変化する。

『寄生獣』と出会った中学生の私は友人に薦めずにはいられなかったし、きっと映画化したスタッフたちも『寄生獣』を世に知らしめたくて仕方なかったのだろう。

ちなみに『カイジ』で有名な漫画家福本伸行は『寄生獣』を生涯ベストスリーのマンガとして挙げている。

この作品でしか味わえない感動を

というわけで、多くの人の愛され、そして布教活動に駆り立ててしまうこの『寄生獣』を私は皆さんにオススメしたいと思う。

確かに気持ち悪い作品ではある。人もたくさん死ぬ。

だが、ひとつ大事なものがある。

この作品でしか味わえない感動があるのだ。

だからこそこんなにも多くの人が熱狂してしまうのだろう。

気持ち悪さや作画のクオリティで敬遠せずにぜひ手にとっていただきたい。

「『寄生獣』を読まないなんて人生損してるよ」なんていうウンコみたいなことを言うつもりはさらさらない。

私は単純にこの名作の感動を色んな人に味わってもらいたいだけである。

 

以上。

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