売れっ子に手を出した
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
普段流行りモノやベストセラー、人気作家には手を出さないようにしているのだが、誘惑に負けてしまい遂に手を取ってしまった。池井戸潤を。
池井戸潤といえばドラマ「半沢直樹シリーズ」の原作として知られる『俺たちバブル入行組』が大ヒットを飛ばし、『下町ロケット』直木賞も受賞した文句の付けようがない人気作家である。しかもデビュー作の『果つる底なき』は江戸川乱歩賞受賞というおまけ付きである。
ちなみにだが、江戸川乱歩賞といえども新人賞であることは変わりないので、受賞作だからと言って無条件に面白い作品ばかりではないので気をつけてほしい。『滅びのモノクローム』とか、なかなかだった。具体名を挙げてごめんなさい。
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内容紹介
初池井戸潤作品として私が選んだのは、『ルーズヴェルト・ゲーム』である。
『下町ロケット』や「半沢直樹シリーズ」の原作でも良かったのだが、あまりにもミーハーすぎる気がしたので今回は回避させていただいた。それに、すでに売れまくっているのだから私がその作品たちの面白さをわざわざ確認する必要もないだろう。
ということで『ルーズヴェルト・ゲーム』の内容紹介。
大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。廃部にすればコストは浮くが――社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む「奇跡の大逆転(ルーズヴェルト・ゲーム)」とは。
なるほど。
この感じは完全に読者を想定しきっている作品に見られるものだ。
不況で苦しむ会社を描く、なんて国民の多くの人に受け入れられる内容だろう。
こりゃ売れるわ
で、読み終わった率直な感想。
こりゃ売れるわ。
間違いないですわ。そりゃ受け入れられますわ。
テーマ的にもそうだし、登場人物たちも等身大で、とにかく「最大公約数」を狙った作品に仕上がっている。これなら日本の多くの仕事をしている人たちが共感するだろうし、感動してしまうだろう。うん、実に卑怯だ(褒め言葉)。
これ1作を読んだだけで池井戸潤の優秀さはよく分かるし、彼の才能は小説そのものよりも、読み手が欲しがるものを的確に提供できるマーティング能力の方が高く感じた。偉いよ、池井戸潤。 作者は読者のために存在してるってことをよく分かってる。
人を惹き付けるためには
読み終わるまで知らなかったのだが、実はこちらの作品も映像化されていたらしい。池井戸潤作品は映像化されているものばかりだったから、あえて避けて『ルーズヴェルト・ゲーム』を選んだのに…。
でもそれも納得の内容で、『ルーズヴェルト・ゲーム』は読者というか観客を惹き付けるために必要な要素を満たしまくっている。これはみんながハマるのも当然だし、ドラマ化してウケるのも必然だと言える。
実はエンタメ作品において、読者や観客を惹き付け続ける方法というのは、もうすでに確立されてしまっている。
「物語内において次々と問題を発生させ、それを小出しに解決する」
これだけで人は物語に惹き付けられてしまう。
この手法があまりにも効果的なので、最近では濫用されがちで、もしかしたら観ている人の多くがこの構造に気付き始めているかもしれない。
で、観ている人がこの構造に飽き始めたとき(飽和状態になったとき)、新たなエンタメ手法が生まれるのだろう。それがどんなものになるのかはまったく分からないし、今の所、そんなものが生まれる兆しもない。物語マニアとして、それがちょっと悲しい。
池井戸潤のプロフェッショナルっぷり
何度も書くが、池井戸潤は明確な意思を持ってこの作品を作り出している。
作品を通じて、どんな人に、どんなことを思ってもらい、どんな経験をさせるか。
そのビジョンが非常に明確だ。
内容はといえば、オッサンばかりが出てきて加齢臭はたっぷりだし、社会人野球も絡めてくるので汗臭くもある。この説明だけ読んだらひどく不快な作品だと思われるかもしれない。
しかし、読んでいる最中は夢中にさせられたし、読後は爽やかな気分にされた。そしてそれが完全に池井戸潤の狙い通りであること(手のひらで踊らされてる感じ)もよく分かった。
「日々仕事に追われて戦っている人達の力になるような作品にしたい」
そんな作者の想いが溢れ出るような作品だった。
溢れ出る予定調和
しかしながら、ちょっと意地悪な見方もできる。
良くも悪くも『ルーズヴェルト・ゲーム』はドラマ的なので、常に波乱万丈。登場人物たちには常に問題が降りかかり、常にピンチに陥っている。そして、当たり前だが見事に解決してしまう。
予定調和の連続。溢れ出る予定調和。こぼれ落ちる予定調和、だ。
これには参ってしまった。
それこそがエンタメをエンタメ足らしめる要素なのだが、いかんせん「こんな普通の人たちの身に、そんなに色々起こる?」と冷静になって見てしまう自分がいた。
リアリティとフィクションの楽しみのバランス。どちらか一方に傾けば、どちらか一方の面白さが失われる。
いや、これは本当に難しい問題だ。読者はそのときそのときのテンションや気分で簡単に「こんなのありえないよ」とか「地味すぎる」とか勝手に言い出す。
これに正解はなくて、作者のバランス感覚に委ねられるだろう。あとは読者の気分次第である。読者はいつだって勝手だ。そう、そこのあなたのことだ。もちろん私もである。
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ベストセラーになるべくしてなった
大衆的なテーマ。私たち普通の人と同じような悩みを抱える登場人物たち。昨今溢れている、安易な暴力描写やエロは使われず、清潔感のある作品になっている(加齢臭は凄いけど)。
以前『ベストセラーコード』という、AIによって世界のベストセラーの見えざる共通点を調べた本を読んだのだが、そこで挙げられていた多くの項目が『ルーズヴェルト・ゲーム』にも当てはまっていた。
ベストセラーを生み出す法則は存在しない。だが、『ルーズヴェルト・ゲーム』は売れるべくして売れた作品だと私は思う。こんなの嫌いになる理由がないし。いくら予定調和的だとはいえ、ドリフや水戸黄門を嫌いになる理由がないのと同じだ。そこには罪がない。
なので、キレッキレの作品を読みたがるような最先端の読書好きには物足りないかもしれないが、普段あまり読書をしない人には、最高の読書体験になる作品だと思う。
池井戸潤は偉い。そう思わされた一冊であった。
以上。
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