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作者に呪いをかけたノワール小説の最高傑作。『不夜城』馳星周

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映画ありきな感じがして、こういう装丁が嫌いです。 

 

 

ノワールを読むならまずは”不夜城”

馳星周といえばノワール。ノワールといえば馳星周というほど、ノワールしか書かない作家馳星周。書けないのかもしれません。
あらゆるジャンルを蹂躙している東野圭吾などと比べると、不器用な作家と言えるでしょう。
しかし、その分ノワールに対しては非常に硬派な姿勢を取っています。ひたすらノワール、ノワール…。
ノワール。暗黒小説と訳されることの多いこのジャンルでは物騒な言葉が頻発します。

暴力、死、薬、ヤクザ、マフィアなどなど枚挙にいとまがありません。…そして、金。

人間社会の悪の部分を切り取った作品は数多く世の中にあるでしょうが、この不夜城はその中でも抜きん出ています。

そうです。この作品でしか味わえないものがあるのです。

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舞台は歌舞伎町

歌舞伎町というと水商売やヤクザのイメージが定着していますが、この作品でメインを張るのは台湾を中心としたマフィア達です。これがもう超コワイ。別世界の住人達すぎて恐いし、悪いやつらが悪いことをしている話なので不健全極まりないのですが、これが面白いのですから堪りません。私達の倫理観をいたずらに揺さぶってきます。

最大の武器は文体にあり

馳ノワールの最大の魅力は文体にあります。この文体こそがノワールの真骨頂とも言えます。ノワール好きの人や、東野圭吾の『白夜行』にハマった人はよく分かると思いますが、文章を読んでいて酩酊感に近い感覚があります。読んでも読んでも飽きたらない感覚。しかし読み進めないと気がすまなくなる。
その時、私達は文体に”酔っている”のです。
馳星周はこの技法に取り憑かれた作家と言えます。馳星周が一番、ノワールに酔っているのでしょう。
その為、彼の作品はこの不夜城がデビュー作なのですが、これ以降まさに判で押したように似たような展開の作品しか発表していません。『不夜城』は作者自身にノワールの呪いをかけた作品なのです。

 

そして、読者である私も「どうせ同じような作品なんでしょ」と分かっているのにまた彼の新作を買ってしまう。同じ穴のムジナですな。

内容紹介

いつものセリフですが作品を楽しもうとするならば、あらすじさえもネタバレです。ここまでで興味を持てていただいたのであれば読んでみるべきです。

ではあらすじ紹介。

今回はwikiから転載。


東京都新宿区歌舞伎町。日本一の歓楽街として知られる街は今や、中国人たちが勢力争いを繰り広げる街と化していた。
日本と台湾のハーフ・劉健一は、歌舞伎町で故買屋をしながら、中国人の裏社会を器用に渡り歩いていた。そんなある日、かつての仕事のパートナー・呉富春が歌舞伎町に現れた、と聞かされる。
富春は、歌舞伎町を仕切る上海マフィアのボス・元成貴の右腕と称された男を殺し逃げていた。富春の帰還を知った元成貴は、富春は元相棒の健一を頼る筈と睨み、健一に、3日以内に富春を連れて来いと命じる。
そんな健一の元へ、“夏美”と名乗る女が『買って欲しいものがある』と持ちかけてくる。富春のことで手一杯の健一は、そんなことに構っていられないが、“夏美”が売りたいものこそ、呉富春その人であり、そもそも富春が歌舞伎町へ帰ってきた理由は、夏美が助けを求めたからだった。富春を差し出しても自分が助かる見込みはないと感じた健一は、夏美の存在を利用し、富春に元成貴を、別の勢力に富春を殺させようと企む。だが、わずか3日という短期間で企てた計画が完璧に遂行されるはずもなく……二重三重の嘘と裏切り、マフィア同士の牽制、健一が辿り着く結末とは……。
 

非常に登場人物が多くて把握しにくい、という弱点はありますが、そのおかげでそれぞれの思惑などが絡み合って二重三重に話が面白くなっています。物語の糸が絡まりまくりで、控えめに言っても地獄絵図…。

全員悪人のキャッチフレーズでお馴染みのあの映画も不夜城に比べれば可愛いもんです。

とにかく全員残忍。容赦がありません。マフィア達はルールなど私達には理解不能な部分も多々ありますが、それが余計にエンターテイメント性を生んでいるのです。非日常からしかエンターテイメントは発生しませんから。ただの日常なんてつまらないでしょ?

私達読者は劉健一に成り代わって、この壮絶な戦いの中を駆けまわるしかありません。
誰が味方で誰が敵なのか?死地の中で劉が見つけた答えとは?

ぜひお楽しみ下さい。


ちなみに続編も出ていて、これもかなり面白いです。クオリティは落ちていません。


更に言うと不夜城3も出ていますがこれはひどいです。擁護のしようがないくらいひどいです。なんせ書いた本人である馳星周自身が出版社に嫌々書かされたと言っていますからね。不夜城は2で終わりだと思っていた方が幸せでしょう。