まさか、こんな変態作家の作品がドラマ化する日が来るとは…。
この事実を『翼ある闇』を読み終え、圧倒とも呆れとも言えない、謎の感情に苛まれていたあの頃の私に伝えたらきっと「どうせテレビ東京でしょ?」と言うことだろう。
普通に考えたらありえないのだ。
ということで、せっかくそんなありえないことが起きたのだから、この機会に超絶変態にして天才作家麻耶雄嵩のオススメ作品を紹介しようじゃないか。
これまで数々の作家のまとめを書いてきたが、その中でもぶっちぎりで異色のまとめ記事になることだろう。
では行ってみよう。
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オススメ作品は…
麻耶雄嵩にマイナスを掛けると東野圭吾になる。
そんな表現をすれば麻耶雄嵩という作家の特性を理解してもらえるんじゃないだろうか。
デビュー作からしてとんでもない異色作であり、全然発表されない(異常なまでの遅筆)作品のどれもが異色作。待望の新作も異色作。どこを切っても異色作だらけの作家なのだ。当然、ベストセラーなんて夢のまた夢。変態からしか愛されない作家。それが麻耶雄嵩である。そして、そんな彼だからこそ愛しがいがあったのだ。
なので、あえて言わせてもらうならば彼のオススメ作品は…
全部。
となってしまう。
だが、これではあまりにも手を抜きすぎである。こんな記事を読みに来ているあなただ、もっと有益な情報を欲していると想像するぐらいの能力は、さすがの私でも有している。
デビュー作からして暴力的
さて、では実際にこの変態作家の作品を、どこから手を付けるべきか考えてみよう。
何パターンか考えられるので教えたいと思う。
まずはデビュー作の『翼ある闇』だ。文句なしの変態作である。
首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人……。京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城と見粉うばかりの館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、惨劇はすでに始まっていた。2人の名探偵の火花散る対決の行方は。そして迎える壮絶な結末。島田荘司、綾辻行人、法月綸太郎、三氏の圧倒的賛辞を受けた著者のデビュー作。
魅力的な謎、破天荒なトリック、緻密な論理、奇矯な人物、衒学趣味、毒に満ちたユーモア、意外な解決…。およそ思い付く限りの本格ミステリのエッセンスが、この小説には濃密に詰め込まれている。
読後、「こんな駄作見たことない!」と壁に叩きつける人もいるだろうし、「はあ?」と怪訝な顔をしながら本を静かに閉じる人もいるだろうし、「なんじゃこりゃあ!神ッ神ッ神ッ!」と叫び麻耶雄嵩の信者になる者もいるだろう。(実際にそういった反応を2ちゃんねるで見たことがある)
麻耶雄嵩作品に共通して言えることがある。それは「常に推理小説の限界に挑戦している」ことだ。故に強烈な信奉者を生み出している。
そんな彼のデビュー作もふざけた野心作である。
麻耶雄嵩の作品にたびたび出て来る“銘”探偵「メルカトル鮎」にとって最後の事件になっている。
正直意味が分からない。なぜデビュー作なのに銘探偵最後の事件なのか。大体にして銘ってどういうことだ。
理解不能である。なぜ推理小説にとって一番大事なキャラである探偵役の仕事を終わらせてしまうのか。
理由を知りたければ読むがいい。あなたがどれだけこの挑戦的な作品を「楽しむ」ことができるか、私は遠くから見守りたいと思う。
たぶん、付いてこれない人がほとんどだろう。
そしてそれが麻耶雄嵩である。
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大人気の2作品
2ちゃんねるのミステリー板でよく話題になるのが、「最強の邦ミステリーは何か?」である。
名前がよく挙がる作品は多くあるが、中でも強烈なプッシュをされるのは、やはり麻耶雄嵩作品である。さすが多数の信者を抱えているだけのことはある。
それゆえに彼の作品は、どれもこれも評価する人が一定数いるので、読み始めようとするときにけっこう困る。まあ今でこそ、「どれも変態的」と知っているので構わないのだが、麻耶雄嵩初心者には易しくない状況ではある。
ただ、長らく2ちゃんのミステリー板を観察していた限りでは、麻耶雄嵩信者に限らず、多くの人の心を鷲掴みにした作品がふたつある。
まずはこれ。
弟・襾鈴の失踪と死の謎を追って地図にない異郷の村に潜入した兄・珂允。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき連続殺害現場。盲点衝く大トリック。支配者・大鏡の正体。再び襲う鴉。そしてメルカトル鮎が導く逆転と驚愕の大結末。一九九七年のNo.1ミステリに輝く神話的最高傑作。
そしてもうひとつがこれ。
オカルトスポット探険サークルの学生六人は京都山間部の黒いレンガ屋敷ファイアフライ館に肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
『鴉』に『螢』。
麻耶雄嵩信者に限らず、多くのミステリー好きの脳髄を破壊してきた作品である。
殺傷能力は抜群である。
だが、やはりそこは麻耶雄嵩。ただ単に読者を欺くことだけに特化したような作品ではない。
とにかく変態的である。そして、ミステリーの限界に挑戦し続けている。
数ある麻耶雄嵩作品の中でも、ポピュラーと言うことがギリギリ許される作品だと思う。
本当にギリギリだけど。
子供向け?冗談でしょ
そんな推理小説道の果ての果てまで到達し、読者はもちろんのこと同業者までも置いてけぼりにしている麻耶雄嵩だが、なんと子供向けの作品を発表している。冗談だとしか思えないし、実際に本当に冗談で書いたのかもしれない。元々、冗談を具現化したような作家だし。彼の場合、冗談と真面目の境目が無くなっているように感じる。
神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか謎の転校生・鈴木太郎が事件の犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。そして、鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか?
元は“ミステリーランド”というレーベルから、ハードカバー&ボックス入りの作品で発表されていた。
ミステリーランドというのは、「かつてこどもだったあなたと少年少女のための」と銘打ち、子供向けに人気推理小説作家がそれぞれ作品を上梓する企画だった。
上に書いた通り、装丁がやたらと凝っていて無駄に高かった。確か2000円を越えていた記憶がある。あまりにも高いので私はこの『神様ゲーム』と乙一の『銃とチョコレート』ぐらいしか買わなかった。私のおぼろげな記憶だと当時、「文庫化はしない」的な話を見かけた気がするのだが、きっとデマだったのだろう。現にこうして文庫化してるし。
さて、話が脱線してしまったので戻そう。
この作品は一応“子供向け”っぽくはなっている。なので人によっては「読みにくい」と語られることの多い、麻耶雄嵩特有の癖のある文章がかなり軽減されている。麻耶雄嵩っぽくないとも言えるぐらいである。
なのでオススメ作品として挙げても許される可能性が高い。…気がする。
しかしながら作品を読んで貰えば分かるが、とてもこれは子供向けの作品ではない。
余程性格がひねくれた子供でなければこの世界観や結末には付いてこれないと思うし、付いてこれてしまうような子供が、この先、同じく推理小説で楽しめることはもうないんじゃないだろうか。それくらい異端の作品である。
アホみたいに大掛かりな謎
とにかく麻耶雄嵩はこじらせている。何をって、推理小説を創作することを、だ。
何かをしでかさないと気がすまない人間であり、大衆ウケを狙いベストセラー作家になることなんぞ、まったく眼中にないのだ。求道者であり、誰にも辿り着けない境地に達してしまっている。
そんな彼のこじらせっぷりはどの作品でも味わえるのだが、個人的に「これぞこじらせ!」と思うのがこちらの作品である。
首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音(かずね)の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に、またひとつ驚愕の名作が誕生!
どれだけこじらせているかは読んでもらわないと絶対に理解してもらえないと思う。
ただ、強烈なのは間違いなく、読者の脳髄にインパクトを喰らわせてやろうという麻耶雄嵩の意気込みを感じる。感じすぎて、読後に本をぶん投げないように気をつけてもらいたい。
ちなみに私はぶん投げたクチである。できることなら、これを燃やして暖を取りたいぐらいだった。
それにしても強烈な体験だった…。
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変態のためのドラマ化
せっかくドラマ化されたので、こちらの作品も取り上げさせてもらう。
自称「貴族」で趣味は「探偵」という謎の男が、コネと召使いを駆使して事件を解決! 斬新かつ精緻なトリックと過去に例のない強烈なキャラクターが融合した、奇跡の本格ミステリ集。
皆さんが勘違いしないようにちゃんと忠告しておくが、ドラマ化された作品だからと言って「きっととっつきやすい作品なんだ!ちゃんと素直に面白い作品なんだ!」と思わないようにしてもらいたい。
麻耶雄嵩に限って「面白い作品」なんてことは絶対にありえないのだ。そんな作品を書いてしまった日には、きっと彼は命を断つんじゃないないだろうか。それくらいイッちゃってるの麻耶雄嵩なのだ。そうあるべきなのだ。
しかしながら、読者を鮮やかに欺く要素も多く、短編集ということで読みやすさもある。そしてなによりもキャラクターたちの魅力が素晴らしい。たぶん、ドラマ化した大人たちはこの辺りを評価したのであろう。最近はキワモノの方がウケる傾向があるし…。
こちらは続編である。
殺したくなる探偵役
麻耶雄嵩作品には強烈な探偵役がいる。
銘探偵メルカトル鮎である。
人を喰ったようなメルカトルの性格は、そのまんま私が麻耶雄嵩本人に抱くイメージである。
このメルカトル。事件を解決するのはいいのだが、とにかくクソ野郎である。不愉快を煮詰めて作ったようなキャラクターである。こんなにも不愉快な探偵は他にいない。レクター博士がギリギリ同じラインにいるかもしれない。
だがそんなクソ野郎なのに、どうしても彼の活躍が見たくなってしまう。大体にして推理小説世界において、読者は探偵がいなければ謎を解くことができない。読者はメルカトルに頼らざるを得ないのだ。
これが悔しい。そしてそれもまた麻耶雄嵩が狙っていることなのだ。
「読者は探偵役に依存している。ならば不愉快の極みみたいな奴を探偵に据えれば、きっと読者を揺さぶることができるだろう」
そんなことを考えたはずだ。本当に性格が悪い。(あくまでも私の勝手な想像である)
で、そんな読者の感情を振り回すメルカトルの魅力を余すことなく収めたのが、こちらの短編集である。
推理作家の美袋三条は、知人の別荘で出会った佑美子に刹那的に恋をする。しかし彼女は間もなく死体で発見され、美袋が第一容疑者とされてしまった!事件に巻き込まれやすい美袋と、「解決できない事件など存在しない」と豪語する魔性の銘探偵・メルカトル鮎が挑む巧緻な謎の数々。脱出不能な密室殺人から、関係者全員にアリバイが成立する不可能犯罪まで―奇才が放つ、衝撃本格推理集。
これを読んでぜひとも「推理小説で探偵役を嫌いになる」という貴重な体験をしてもらいたい。
そして美袋と一緒に、存分にメルカトル鮎への殺意を抱いてもらいたいと思う。
以上になります
一応これで私が紹介する「麻耶雄嵩のオススメ作品」は終わりになる。
当初思っていたよりも遥かに文量が多くなってしまったことに我ながら驚いている。それだけ麻耶雄嵩作品に思う所があったのだろう。なにも良い感想ばかりじゃないしな。
こうやってまとめてみた今だからこそ言いたいことがある。
やっぱり、まとめられねえ。
それっぽく記事としてまとめてみたが、私の正直な感想は「こんな記事、麻耶雄嵩に相応しくない」である。全然、麻耶雄嵩っぽくない。
やはり彼はまとめなんていう綺麗に収められることを望んでいない。
常に混沌の中に存在し、読者を煙に巻き、そしていつまでも境地を目指して進み続けている。そんな男なのだ。私のような一介のポンコツブロガーがまとめていいような存在ではないのだ。
麻耶雄嵩。
その名を聞いて畏怖する者は多い。
そして、それと同じくらい怒り狂う者も多い。
彼の作品は常に読者に強烈なインパクトを与える。
それがどんな種類のものかは、その人次第であるが、強烈なのは間違いない。
あなたも麻耶雄嵩に狂わせてもらってはいかがだろうか。
読後、本を投げつけるも祭壇に飾るも、あなたの自由である。
異常。
いや、以上。