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フィクションの役割とは。村山早紀『百貨の魔法』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回は「2018年本屋大賞ノミネート作品を読破したろうじゃねえか」の第三弾である。

 

※第一弾

www.orehero.net

 

※第二弾

www.orehero.net

 

内容紹介

さて、私が今回読んだのが、こちらの作品である。

 

時代の波に抗しきれず、「閉店が近いのでは?」と噂が飛び交う星野百貨店。エレベーターガール、新人コンシェルジュ、宝飾品売り場のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、創業者の一族らが、それぞれの立場で街の人びとに愛されてきたデパートを守ろうと、今日も売り場に立ちつづける――。百貨店で働く人たちと館内に住むと噂される「白い猫」が織りなす、魔法のような物語! 

 

私にとっては初の村山早紀作品である。

知らない作家の作品を読むのは、まるで知らない人と会話をするときのように、いつも若干の緊張を伴う。まだ作家との距離感の取り方が分からず、探り探りになるからだ。

 

村山早紀は前回の本屋大賞において『桜風堂ものがたり』で堂々の5位を獲得しており、新たな“泣かせの名手”として認知されてきている。私が知らなかっただけでかなりの実力者のようなので、胸を借りるつもりで本書を読み進めてみた。

 

今回紹介する『百貨の魔法』だが、連作短編集となっている。

時代遅れのデパートである星野百貨店を舞台に、そこで働く人たちの心温まる物語が繰り広げられる。

 

で、読み終わった私の『百貨の魔法』の評価なのだが、以下のようにまとめられる。

 

・全編に渡って常に物語が綺麗。心が浄化されます

・でも汚いものが無さ過ぎて、自分の汚さを意識せざるを得ない。

・気持ちの良い登場人物たちばかりで、読んでいて安心。

静かに泣ける

・インパクトは弱め。

 

では以下に詳しく説明していこう。もちろんネタバレはしない。

 

エンタメの要素を全排除

あとがきで村山早紀本人が「時間をかけて丁寧に書き上げた」と語っている通り、非常にまとまった作品である。全編を通して、作品に流れる空気感というか、筆運びというか、とにかく物語に関わるすべての要素が“綺麗”である。

昨今のエンタメ小説は、面白さにブーストをかけるために、安易に“エロ”“暴力”“グロ”などを多用する。それが悪いとは言わないが、少々下品だと言わざるを得ない。物語を面白くするためとはいえ、手段にばかり意識が行き過ぎるのは、本末転倒である。もっと力を入れるべきところがあるはずだ。

 

また、エンタメ作品の基本として

 

読者にストレスを与える

解消する

 

の流れがある。

これはボケとツッコミみたいなもので、読者に分かりやすい快感を与えることができる。

 

しかーし、『百貨の魔法』ではそんな「読者にストレスを与える」ような要素も、エロも暴力もグロも皆無である。そんな汚い要素を完全に排除した、桃源郷のような作品なのである。

しかしそれでも『百貨の魔法』は読んでいて、非常に心地よい。

これはエンタメ作品にあるような「快感」とまで強烈なものではなく、もっと穏やかな感覚である。安堵感、幸福感といった、優しく包まれるような、日常の喧騒を忘れさせるような、そんな優しい感覚を得ることができる。

 

ある意味でこの作品は“アンチエンタメ作品”である。

昨今の行き過ぎた過激な描写ばかりが蔓延るエンタメ業界に、真っ向から殴りかかるような作品なのである。

しかしそこは優しい優しい『百貨の魔法』である。殴りかかるのは拳ではなく、猫パンチだ。殴られると逆にちょっと嬉しくなっちゃうやつである。優しい。

 

フィクションの役割

三浦しをんの『舟を編む』にも似たような要素があったのだが、『百貨の魔法』のような優しさ100%の作品というのは、特有の効果がある。

 

それは、日常の毒を浄化できる、という効果だ。

 

フィクション作品全般に言えることだが、架空の物語に人々が求めるのは、「如何に現実を忘れさせるか?」という点に尽きる。現実に反旗を翻すのがフィクションの役目である。

現実を忘れることで、私たちは一時的にしろ、背負っているものから意識を離れさせることができる。決して荷物自体がなくなるわけではない(問題が解決するわけではない)のだが、少しの時間でも荷物を下ろすことができれば、人はそれだけで再び前に進む力を得られる。また歩み始められる。

そんないい意味での“気休め”がフィクションの最大の効果だと私は思っている。

 

それに加えて、現実離れした綺麗なキャラクターや物語に触れることで、より現実とは違う体験をすることができる。頭の中に溜まった日常の毒が浄化されることだろう。

 

物語とは対立構造

普通のエンタメ作品であれば、善と悪のような対立構造になっており、どちらかが打倒されることで物語になる。

しかし、『百貨の魔法』や『舟を編む』のように、作品にエンタメ特有の毒が無く、対立構造が存在しない場合、読者はどこに対立を見出すか。

 

現実離れした美しさで構築されたフィクション作品というのは、読者が自分自身を意識するようになる。『百貨の魔法』に出てくる登場人物たちは、内面も外見も美しい方々ばかりで、まるで隣にモデルに立たれたときのように、普段であれば意識しない自分の醜さを意識せざるを得ない。

人が違いを見つけることが大得意である。なので、比べる対象があると自然と自分との違いを探してしまうのだ。なので、読者は『百貨の魔法』を読みながら、そこに自分の姿を浮かび上がらせることだろう。「自分と比べてこの人たちはなんて立派なんだ…」と。

これは絵本にも似たような効果がある。

 

インパクトは弱めです

『百貨の魔法』は品の良い物語である。ドンパチや派手なドラマは起こらない。でも、静かで確かな感動がそこにはある。

感動作として謳われているが、ボロボロ泣ける的なものではなく、もっとしんみりと静かにほろりとさせられる感動である。

 

とにもかくにも派手さをこの作品に求めてはいけない。

村山早紀が時間をかけてじっくりと練り上げた物語を、読者である皆さんもじっくりと味わうべきだ。

 

我々の生きる現実からは少し浮いた所にある星野百貨店。そこで繰り広げられる、柔らかな奇跡の物語。

日常に疲れた人にオススメの解毒剤のような作品である。

 

以上。

 

 

 

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