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メフィスト賞なのに超傑作という異端児。『ハサミ男』殊能将之

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回は悪名高きメフィスト賞を受賞したにも関わらず、ちゃんと面白いという異端の作品をご紹介。

 

内容紹介 

 


美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。
 

 

この「猟奇殺人犯が犯人を探す」っていう設定がピリッと効いていい。いやー、本当に考えれば考えるほど、この作品がメフィスト賞だなんて信じられない。

 

さて、『ハサミ男』の見どころをざっと紹介しよう。

 

・どこか読者を小馬鹿にしたようなドライで皮肉な文体が心地良い

・猟奇殺人犯が推理をするっていう奇抜な設定

・作品全体を通して横たわる、ゾクゾクするような不気味さ

「あなたの好きな推理小説10冊は?」の質問に頻繁に登場するくらいの衝撃度

 

このように、どこからどう見ても面白い作品である。

で、例によってこの作品も前知識なしに味わうのが一番なので、余計な情報は入れずに読んでみてもらいたい。最高なのを食らえるから。

 

亡くなった著者

実は『ハサミ男』の著者である殊能将之は亡くなっている。まだ49歳だったそうだ。まだ若かっただけに、貴重な才能が失われてしまって残念でならない。

ミステリー好き以外の方には、ほぼ名が知れていないと思うので、一応紹介しておこう。



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殊能将之は1999年に本書『ハサミ男』でメフィスト賞を受賞してデビュー。

素性を全く明かさない覆面作家だった。私も顔を拝見したのはこれが初めてだ。っていうか、顔公表してたんか。全然覆面じゃねーじゃん。

 

ただ名前は完全にペンネームで、本名は公表されていない。

ちなみにペンネームの由来は、

『楚辞』の一編、屈原「天問」の“殊能将レ之”(しゅのうもてこれをひきいたる=特殊な才能でこれ“軍勢”を率いる)という言葉から取られた

…とwikiに書いてあった。訳わからん。

取りあえず、このペンネームに代表されるように膨大な知識と教養を詰め込みつつも、非常に皮肉的な文体が特徴の作家さんである。

寡作な中でも文句なしの最高傑作!

殊能将之はそもそも発表作自体が少ないのだが、その中でも『ハサミ男』はぶっちぎりの最高傑作である

 

…というか他の作品があまりにも挑戦的(奇抜)すぎて、普通のミステリーを求めている方が読んだら、

 



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こうなること請け合い。

 

 

なので、殊能将之が普通に作品を書くと、だいぶ浮世離れしたものになる。

しかし『ハサミ男』に関しては賞レースに応募することもあって、分かりやすく面白い作品を意識したのか、かなり大衆受けする仕上がりだ。

殊能将之独特のひねくり曲がった性格と、天啓のごとく生み出された極上のトリックが見事にマッチした結果、とんでもないことになっている。

 

繰り返すが、他の作品については完全にこじらせている。まあ、それはそれで面白いし、トラウマレベルで記憶に焼き付いているのだけれど…。

※こじらせの代表作

 

 

ミステリー初心者にこそ読んで貰いたい

内容を語ると台無しもいいとこなので、多くは書かない。

ただ、この作品は出来ればミステリー初心者にこそ読んで貰いたいと思う。

 

小説を面白さを損なう大きな要素として”慣れ”がある。

特にミステリーはトリックのアイデアがパターン化しているので、「またこれか…」となりがちである。

で、『ハサミ男』も同じような要素を持ち合わせているので、変にミステリー経験値を積んでから読んでしまうとガッカリする可能性が大きい。多くの人が勧めているからこそ余計にだ。

逆に言えばミステリー初心者がピチピチの状態で読んだら、今までに経験したことのないレベルの衝撃を受けること請け合いである。

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映像化もされてます

なんとメフィスト受賞作にも関わらず、『ハサミ男』は映像化をされている。はっきり言って正気の沙汰ではない。でも正気じゃない人の方が面白いから好きだ。

ちなみに主演は豊川悦司と麻生久美子。こんな変態作品を演じてくれるなんて、なんだからメジャーリーガーが草野球に参加してるみたいで好感が持てる。まあ、私は好きな小説の映像化作品は観ない主義なので、どんなクオリティに仕上がっているのか一生知ることはないのだけれど。

ただ、2ちゃんねるでの評価は概ね上々だった。批判しかしないあいつらが褒めるってことは、相当に出来が良いのかも知れない。

映像化されるということは、それだけストーリーに人を魅了する力があるってことだ。力のない作品は、そもそも人を動かすことができない。

「みんなにこの物語を伝えたい!」と思わされた人間がこうやって映像化にこぎ着けて行くのだろう。それが物語の力である

ただそれでも小説の『ハサミ男』を超えることは絶対にできないだろう。それは間違いない。

この作品を凌駕するには余程の才能と運がないと無理だ。

 

ここで言う運というのは、良質なアイデアと出会う運のことである。

数多くの表現者達はこの”運”と出会えずに一生を終えてしまう。

小説の『ハサミ男』では、著者の殊能将之が最高のアイデアと出会ってしまった。それを同レベルで映像化しようと思ったら、映画サイドも最高のアイデアを活かすためのアイデアを見つけなければならない。でもそんなにポンポンと良質なアイデアが出るとは思えないのだ。良くて、妥協案ぐらいだろう。

 

地味なのはタイトルだけ

地味なタイトルで内容が伝わりづらいだろうが、ページをめくればそこは刺激と企みに満ちた世界である。ぜひ堪能していただきたい。

これからこの作品を愉しめるあなたのことが、私は羨ましくて仕方ない。

以上。