どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
素晴らしい作品と出会ってしまったので、ぜひ皆さんに知ってもらいたい。
内容紹介
受刑者たちが、そっと心の奥にしまっていた葛藤、悔恨、優しさ……。童話作家に導かれ、彼らの閉ざされた思いが「言葉」となって溢れ出た時、奇跡のような詩が生まれた。美しい煉瓦建築の奈良少年刑務所の中で、受刑者が魔法にかかったように変わって行く。彼らは、一度も耕されたことのない荒地だった──「刑務所の教室」で受刑者に寄り添い続ける作家が選んだ、感動の57編。
奈良少年刑務所で行なわれた詩の授業で提出された、受刑者たちの詩を編集した本である。
彼らの多くが強盗・殺人・レイプなど凶悪犯罪を犯している。世間一般の人からしたら、「残虐」で「理解不能」な「別世界の人間」だと思う。現に一般人の私がそう思っている。犯罪と自分は一生が縁がないと思っているし、犯罪者なんかとはまったくもってお近づきたくない。犯罪者は遠い世界の人間。いつまでも遠くにいてほしい。
そう思っていた。
でもこの本を読んで、…いやこの“作品”と出会ってしまったことで、私の考えは強烈に変わった。変わらざるを得なかった。
鳥肌が止まらない
この作品集を読めばすぐに分かることがある。
犯罪者は紛れもなく、我々と変わらない人間であると。
怪物だと思っていた凶悪犯罪者から出てくる、宝石のような詩たち。上っ面の言葉だけじゃないと、彼らの作品は大きな説得力を持って、私の心へと迫ってきた。
今までに体験したことのない衝撃が、激しく心を打つ。感動なんていう分かりやすいものじゃなくて、もっと…なんだろう…人間の根本的な部分を見せられた気がした。うーん芯を食ってないなぁ。
いや、まずは実際に体感してもらおう。
本来であれば作品の紹介をするときは、読んだときの面白さを少しでも失いたくないので、引用は極力控えたいのだが、ひとつだけ紹介しよう。
覚醒剤依存のAくんが書いた詩である。
普段の彼は言葉をまともに発することがないほど無口。受刑者の中でも浮いた存在だ。また、覚醒剤依存の後遺症によって、自分で書いた文字をスラスラと読むことができない。
そんなAくんなので、授業だからといって「詩を書いて」と言われても、何を書いていいのか分からない。表現する力も、方法も知らないのだ。
それでも「なんでもいいから。本当に書けることがなかったら、好きな色を書くだけでもいいから」と言われ、Aくんが最初に紡いだ詩がこれだ。
どれくらいの人に共感してもらえるのか分からないが、この詩を初めて目にしたとき、鳥肌が立った。
素直に凄い発想だと思った。そしてこの短い文章を、何度も味わった。
今もこうして文章を書きながら、またもや鳥肌が立つ。それくらいの衝撃を受けた。
湧き上がる疑問
Aくんの作品も素晴らしいのだが、収録されている他の作品たちも、どれもこれも素晴らしい。何度も鳥肌が立ったし、考えさせられるようなものも多かったし、感動して思わず泣いてしまったものもあった。
そんな素晴らしい作品集だ。だからこそ読みながらずっと思っていた。
「なんでこんな素晴らしい詩を書ける子たちが、凶悪な犯罪を犯してしまったのか?」
2つの可能性が考えられると思う。
まず、少年刑務所というのは、罰を与える場所ではなく、心に可塑性がある若い受刑者に教育をほどこし、更生させる場所だという。
なので、奈良少年刑務所の教育が素晴らしく、元々は凶悪な犯罪者だった彼らが更生したから。
という考え方。
もうひとつは、もっと希望を持った考え方である。
彼らには、もともと素晴らしい詩を生み出すだけの心を持ち合わせていた、ということ。
実際に彼らと生活していたわけでもなく、ただ彼らの作品を読んだだけの私にはどちらが真実なのかは分からない。もしかしたらもっと別の答えがあるのかもしれない。
だがどういった理由があろうとも、私からしたら「別世界に生きる残虐な人間」であるはずの彼らから、私は感動させられてしまった。これは揺るぎない事実だ。
人間って一体…?
陳腐な問いで申し訳ないのだが、こうやって彼らの作品を眺めると、本当に思わずにはいられない。
「人間とは一体なんなのか?」と。
残虐な犯罪を犯す一方で、親への甘えを吐露し、人の心の襞を撫でるような言葉を紡ぎ出す。人間の複雑さを垣間見る思いだ。
行動は人の一面を表すかもしれないが、行動が人格そのものではない。それを改めて実感した。
人は簡単ではない。表面に見えるものなんて、その人のほんの一部分でしかないのだ。
残虐な犯罪者をニュースなどで見て、自分とは遠い存在だと思ってしまいがちだが、それは違う。彼らは間違いなく自分の延長線上にいるし、別の生き方を選ばざるをえなかった自分なのだ。
型を知らないからこそ伝わる、言葉の力
それにしても、この詩集はなぜこんなにも人の心を打つのだろうか。
受刑者の多くがまともに教育を受けていない。文字を読み書きできない子だっているそうだ。
それくらい我々と違う常識で生きている彼ら綴る言葉。
たぶんだが、彼らに知識がなく、言葉を飾る術を知らないからこそ、言葉そのものがが直に届いているのだと思う。
読んだときの伝わる言葉の力が、やけに新鮮なのだ。
加工されていないというか、気取っていないというか、言葉が裸なのだ。
そのままだからこそ、どストレートに読む人の心を射抜いてしまう。他の作品では体験できないものが生まれているのだ。
できることなら、この作品を生み出した彼らに伝えたい。「君たちの言葉は、本当に素晴らしい」と。
多くの人に知ってもらいたい
日常的に本を読んでいる私だが、ごくごくたまに「一人でも多くの人に知ってもらいたい作品」と出会うことがある。1年に1冊もないレベルだ。
この『空が青いから白をえらんだのです』は間違いなくそんな本。
作品として楽しめるのはもちろんのこと(この点は商業作品として譲れない)、犯罪者や人間というものに対しての理解を深めることもできるし、他の作品では絶対に味わえない体験ができる。
きっとこの作品を読んだら、次の日から世界の見え方が変わるはずだ。
それくらい力を持った作品である。強くオススメしたい。
以上。
続編はこちら。