どうも。
ハロルド作石はヒット作を連発できる稀有な作家である。
言わずと知れたバンド漫画の金字塔『BECK』。彼のデビュー作である異色の不良漫画『ゴリラーマン』。
そして新たなる傑作の予感が漂っているのが、今回紹介する『RiN』である。
この作品の魅力、そしてなぜこんなにも面白いと感じさせるのかを考えてみた。
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BECKの魅力
まず『RiN』の話になる前に、偉大な前作である『BECK』について少し話をしたいと思う。
BECK(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン) | ||||
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もうすでに知らない人なんぞいないと思うが一応紹介すると、平凡な高校生活を送る主人公のコユキが、帰国子女の天才ギタリストと出会いバンドに目覚める話である。
こうやってまとめると何とも味気ないが、中身は最高の青春ドラマが詰まっている。
『BECK』の魅力は簡単にまとめられる。
①普通の主人公が成長していく様
②女の子との三角関係
③危機を乗り越えるための武器
これに尽きる。
まさに王道である。はじめは大した魅力のなかった主人公が自分の才能に気付き、挑戦を繰り返し成長していく様は、サクセス・ストーリーとしての快感をもたらす。
女の子との三角関係は物語の安定感を失わせるための重要な要素だった。これによって読者に「どっちに転ぶの?」という不安な気持ちにさせ、目を離せないようにした。
そしてなによりも、コユキの歌声という才能である。これがあることで、数々の災難やトラブルに見舞われても、私たち読者は期待するのだ。「コユキの歌声があれば…!」と。
人はこのパターンが大好きである。「来るぞ、来るぞ、キター!」である。
引きつけて引きつけて、最後の押し返すパターンは王道であり、人が興奮する仕組みとして非常によくできている。
そういった意味で『BECK』が大きく受け入れられたのは、当然といえば当然なのだ。
細かいことを言うと、1巻の表紙にもなっているあの犬の存在も上手い。ブラックジャックよろしくツギハギだらけの犬なんて見た日には「なんだこいつ?」と思わずにはいられないことだろう。そして人は疑問があると解決したくなる習性がある。つまり本書を手にとってしまうということだ。
そして手に取らせることさえできれば、物語自体は人を惹きこむ構造になっているので、そのまま取り込んでしまうというわけだ。凄いぞ『BECK』。
基本的には同じ
RiN(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン) | ||||
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伏見紀人の学園生活は退屈そのもの。だが彼には、「漫画家になる」という夢があった。やってきた夏休み、渾身の一作を携えてあこがれの雑誌「トーラス」編集部を訪ねるも、評価はボロボロ‥‥。落ち込む伏見だったが、夢に懸ける思いは捨てず、ひたすら漫画に打ち込むのだった。
一方、不思議な力をもつ少女・石堂 凛。彼女もまた、自分の居場所を見つけようともがく日々を送っていた。
伏見と凛――ふたりが出会うとき、壮絶な運命の扉が開く!!!
今回の『RiN』も同じような構造をしている。ネタバレになるので多くは語らないが、主人公が大したことない生活を送っているところなど、まんまBECKである。
そもそも『BECK』 自体が同じような話の展開で34冊も保たせている。RHYMESTERの宇多丸が「これは水戸黄門だ」というのもよく分かる。
ただ、作者のハロルド作石自身も意識しているのか、あえて『BECK』では避けてきた表現や領域にまで踏み込んでいるところがある。私はここを評価したい。
たぶん、普通の漫画家であれば『BECK』で使った手法をそのまま漫画家バージョンにしていたと思う。
そこをハロルド作石はより深く、より過激に、より深刻に、より神秘に、より謎を提示することをこの作品『RiN』で挑戦しているのだ。
あれだけ売れるテンプレを使っておきながら、ちゃんと進化させることは怠らない姿勢は、作中で出てくる天才少年瀧君とかぶる。
やはり本物は違うということか…。成長を止めた時、人は老いると言うし。
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熱量に感化される
『RiN』は漫画家を目指すストーリーなのだが、登場人物たちの多くが主人公伏見と同じく漫画を愛し、漫画に情熱を傾けることしかしらない奴らばかりである。
これがもう堪らない。
私は高校時代吹奏楽部に時間の全てを捧げていたので、こういった「時間を犠牲にして何かを愛する」という姿がたまらなく、たまらないのだ。分かってもらえるだろうか。
ハロルド作石の絵の上手さもあるだろうが、作品を通して彼らの熱量がこちらまで伝わってくるのだ。読み終わって本を閉じた後、何か放心したような状態になり、そのあと何とも言えない高鳴りが胸に去来する。そして何かしたくてウズウズしてくる。
きっとこれを興奮というのだろう。
たびたびこのブログで語っていることなのだが、いい作品というのは触れた人に影響を与えることが条件になる。
その作品に触れたことで何か新しいことを始めたり、逆に何かを止めてみたり、またはその作品を映像化など別の媒体にしようと動いてみたり、さらにはもっと他の人にも知ってもらおうと勧めてみたり。
そうやって人生に影響を及ぼすのが名作と呼ばれるものたちだろう。
私は『RiN』にも同じものを感じた。今のままじゃダメだと思わされてしまった。
無事完結
そして何よりもこの作品をオススメできる理由として、完結していることが挙げられる。
『GANTZ』の例をわざわざ挙げるまでもないが、途中まで面白いのに途端につまらなくなったり作品を数限りなく多い。ひとえに、作品を作ることや物語を紡ぐことよりも、「連載すること」を目的にしてしまった結果なのだと思う。今の漫画はそういう作品があまりにも多すぎる。
どうしても人気作品というのは雑誌の編集部が甘えてしまう傾向がある。それが連載しているだけで雑誌が売れるのだ。内容の瑕疵はお金に比べれば瑣末な問題として捉えられているのだ。
まあこの辺りの問題を語りだすと結局、読者であり消費者である私たちにそういう傾向があるからこそ、出版社も「とりあえず連載第一!」というふうになるのだろう。
それゆえに連載中の面白い作品というのはなかなか勧めづらかったりする。
話が逸れてしまったが、『RiN』についてその辺りは全く問題ない。最後までハラハラドキドキして楽しんでもらいたい。ちゃんと物語として、作品としてつつがなく完結している。
ぜひこの作品の熱量に触れて、感化されてもらいたいものである。
以上。