群を抜く美味さである。
衝撃の出会い
先日旅行に行った。富士山である。行ったのはいいのだが、別に山に興味なんぞ1ミクロンもないことを思い出し、富士山の裾付近まで行って引き返してきた。ちなみに富士山の高さは3,776mである。
まあそれはクソどうでもいい話なのだが、本題はその帰り道のことである。
奥様の希望で御殿場アウトレットという人がうじゃうじゃいる場所に行った。人混みは大嫌いなだが、奥様が不機嫌になることはもっと大嫌い(怖い)ので、仕方なしに私もうじゃうじゃの一部と化してきた。
苦痛の時間を過ごしてた私。少しでもその苦痛を和らげるものがないかと周りを見渡すと、目の前にはソフトクリーム屋があるではないか。
私はこの道15年以上お菓子作りをしている人間で、いまだにお菓子大好きという生粋のお菓子狂いである。文句なしの糖分中毒者だ。
僅かな快楽を求めてソフトクリームを買うことにした。
本当に何気なしに選んだ店だった。
※イメージ画像
見た目はふつうのソフトクリームそのもの。
ひとくち頬張ってみる。
その瞬間、私の口腔に衝撃が広がる。
え!?
なにこれ。
これは…美味すぎる。
旅行のとき特有のハイテンションで何でもかんでも「うめえww」となるあの現象では決してない。こちとら人混みせいでむしろローテンション。すべてが不味く感じるぐらい不機嫌であり、味覚的には最低のコンディションだ。
なのに美味い…。なんなのだ、こいつは。思わず私は手元で白く輝く物体を見つめてしまった。
すると横から手が出てくる。「ちょっと頂戴」
奥さんにソフトクリームを奪われた。お菓子の開発部門で10年以上のキャリアがある奥さんはこのソフトクリームをどう評価するのか。その顔を伺ってみた。
ひとくち食べた瞬間、驚きの表情。確実に私と同じ感想を抱いたようである。
私「こんなに生乳の風味を感じるソフトクリームって、今まで出会ったことないよね?」
奥様「うん、この濃さはヤバイね」
私「牛をそのまま吸ってる感じ」
奥様「子牛になった気分」
などと製菓業界に身を置くプロふたりが大絶賛してしまったのだった。
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ソフトクリーム界の女王の正体
そのソフトクリームを販売していた店舗がこちら。
IDEBOK(いでぼく)である。
この何の変哲もない見た目の店舗から繰り出される極上のソフトクリーム。クラスの地味な女子がめちゃくちゃ歌が上手かった、みたいなギャップでさらに高感度が上がる。
今まで旅行先で腐るほどソフトクリームを食べてきたけど、マジで群を抜いて美味い。こんなにしれっと存在していいようなシロモノじゃない。田舎の学校で広瀬すずを見つけたときのような気分になった。おい、お前の場所はそこじゃないぞって。
ひとくち食べた瞬間に広がるミルクの香り。
濃厚な味わい。
独特の柔らかい舌触り。
すげぇ…。本当にすげぇ。
ここまで感動してしまうと、プロ根性が出てくるというもの。
一体このソフトクリームの美味さの秘密は何なのかと興味が湧いてくる。
「公式サイトを見てみよう」
そんなことを思った。私のようにお菓子のプロを長く務めていると、成分表などを見るだけでも、それなりにそのお菓子の秘密が分かったりするからだ。
それにこうやって絶賛の言葉を書き散らかしているが、 文字よりも実際のソフトクリームの画像が欲しかった。このままでは魅力が全然伝わらない。
いざ、公式サイトへ
で、公式サイトを見てみたらソフトクリーム以上の衝撃を受けた。
そしてそれと同時に、なぜこんなに美味いソフトクリームが生まれたのか、その理由を片鱗を感じた。
というのも…
画面いっぱいの牛。
なにこれ。
普通サイトのトップ絵って、商品の綺麗な画像とかじゃないのか。
いやいやちょっとまて。牛の横に矢印があるじゃないか。あぁ、あれね。画像がスライドできるのね。いやー勘違いして申し訳ない。いきなり牛が出迎えてきたもんだから、もしかして生粋の牛狂いの集まりなのかと思ったよ。
はい、じゃあここをクリックっと。
そうすると無駄なアニメーションが入り…
(牛の短冊切りという非常に珍しい描写。後ろのホルスタイン種も心なしか心配そうである)
で、現れたのがこの画像。
結局牛かい。
懲りずにもう一度クリックしてみる。
またしても牛。
…このサイト、どこを切っても牛しか出てきません。
あれかな?マジシャンが使う同じカードしか入ってないトランプかな?
公式サイトを隅から隅まで見たが、私が知りたいような情報はまったくなかった。とにかく牛だらけ。
あれだけ美味いソフトクリームを提供しておきながら、出している本人はまったく気にしていないらしい。客が勝手に熱狂しているだけだ。
ただサイトを読む限り、IDEBOKが牛の育成にクソほどこだわっていることは間違いないようだ。商品紹介があまりにもおざなりなのは、ただ単に商売っ気がないだけで、情熱がないわけではないのだろう。むしろその牛愛は異常なほど。
だって、
社員「公式サイトを作っているのですが、どんな画像を載せましょうか?」
偉い人「牛でしょ」
社員「ですよね。でもアニメーション技術を取り入れて、何枚も載せられるのですが?」
偉い人「じゃあ牛いっぱい載せればいいじゃん」
社員「ですよねー」
というような会社だ。どうしようもない牛狂いだ。
ということで、結局私はIDEBOKのソフトクリームについて、詳しいことは何一つ分からなかった。
しかし、あのソフトクリームがなぜあそこまで飛び抜けて美味いのか、その理由の片鱗に触れることはできた。
つまり、
ただの「牛バカ」。
それが答えなのかもしれない。
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トップアイドルとの比較
さて、ここでこの記事を終わりにしても良かったのだが、あまりにも情報量が足りないと感じた。
なのでおまけとして、現時点で最強と言われているソフトクリームとの比較をしてみることにした。
それがこれ。
ソフトクリーム機械シェア日本一を誇る日世が生み出した悪魔の如き美味さを誇るソフトクリーム“クレミア”だ。ちなみに全然関係ないが氷の妖精と呼ばれるクリオネは和名をハダカカメガイと言う。
クレミアの実力はひとくち食べれば分かる。
濃ッ…!
バキが攻撃を食らったときのようなリアクションを取ってしまうだろう。
乳脂肪分12.5%という異常な数字から叩き出される濃厚さは、全人類を平等に狂わせる力を持つ。
そして、なんとコーンにラングドシャクッキーを起用するという、まるでひな壇に明石家さんまを座らせるようなことをしでかした。
ラングドシャクッキーなんて、それだけで主役を張れる存在である。それを脇役扱いにするとは、まさにお菓子界の暴君。
高脂肪分に高糖分。人を狂わせるだけの理由がこいつにはある。
ネットで検索してみれば、狂わされた人たちの声がそこには溢れている。
クレミアは言ってみれば、「可愛くて、歌もダンスも上手い」的なトップアイドルである。乳脂肪分、糖質、食感、全てが揃っている。
ただ食べると分かるが、あまりにも揃いすぎている。人を満足させすぎてしまう。
そしてそれと同時に何かが足りない…。
クレミアは確かに美味い。だけどその美味さはあくまでも、高い乳脂肪分や、ラングドシャクッキーなど、きらびやかな装飾によって生み出されているものだ。化粧や衣裳、そして事務所のバックアップによって輝いているアイドルなのだ。
美しさは認めるがあまりにも人工的すぎる存在。それが私のクレミアに対する印象である。
ではIDEBOKのソフトクリームはどうか。
彼女は非常に自然だ。上の方で書いたが、田舎にいる広瀬すずみたいな感じである。
自然体で飛び抜けて美しい。そこに装飾は必要ない。ただそこあるだけでいい。そんな存在。
用意されたものを身にまとって価値を高めようとするクレミアに対し、IDEBOKのソフトクリームはすべて自前である。作詞作曲、パフォーマンスまですべて自分でこなす美味さがある。あぁ、もう何を書いているのかよく分からなくなってきた。
とにかくIDEBOKのソフトクリームは美味い。機会があったらぜひ一度食べてみてもらいたい。その衝撃は確実にあなたの脳に優しく焼き付けられるはずだ。
以上。
蛇足。
奥さんと話したのだが、IDEBOKの美味さのカギは飛び抜けて強い“ミルクの香り”だ。
これのおかげで、ひとくち食べた瞬間に「美味い!」と感じてしまうのだが、実はこのミルクの香りは人工的に生み出すことができる。そういう香料が存在するのだ。
IDEBOKのソフトクリームを「装飾が必要ない美人」だと書いたが、実はただ単に香料を入れただけ、という意外な事実もありえるということだ。
まあこれはプロがひねくれた見方をしているだけで、本当のところはIDEBOKしか知らない。