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すげえ面白いんだけど、タイトルが酷い。雫井脩介『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

雫井脩介といえば『犯人に告ぐ』だが、続編が出たということで確認させてもらった。これがなかなかの良作だったのでご紹介したい。

 

内容紹介

 
 
神奈川県警がその威信を懸けて解決に導いた「バッドマン事件」から半年、
特別捜査官の巻島史彦は、刑事特別捜査隊を指揮し、特殊詐欺集団の摘発に乗り出していた。
そんな中、振り込め詐欺グループに属していた砂山知樹は、指南役の天才詐欺師・淡野から
これまで日本の犯罪史上に類を見ない新たな誘拐計画を持ちかけられる。
標的は横浜の老舗洋菓子メーカー〔ミナト堂〕。その〔ミナト堂〕と知樹には浅からぬ因縁があった――。
2004年のミステリーランキングで軒並み第1位を獲得した警察小説の傑作、待望のシリーズ第二弾! 
 
めちゃめちゃ売れた『犯人に告ぐ』の続編なので、前作で担保されている要素もあり、なかなか安心して読めた作品である。
『犯人に告ぐ』を読んだ方であれば、巻島に確実にヤラれているはずである。今回も巻島の活躍を期待したいところだが、そんな安易な手法を繰り返すほど、雫井脩介は素直な作家ではない。
前作と大きく違うのは、今回は警察側だけでなく、犯人側からの視点が多用されていることだ。いわゆる倒叙ものである。
倒叙ものの肝になるのは、犯人側への感情移入である。
擬似的に犯罪者を体験する。日常生活ではあまりできないことだ。
で、そんな感情移入しちゃう犯人と敵対するのが我らが巻島である。日本ミステリー史上、もっともかっこいいセリフを吐いた男だ。
なので前作で大いに巻島に感情移入した我々だが、今度は巻島を敵として見てしまうように仕向けられる。うーん、なんて意地悪な作家なんだ、雫井脩介。
 
 

続編だけど大満足です

 
基本的に私はあまり続編モノが好きではないのだが、今回は存分に楽しめた。
雫井脩介お得意の濃厚な人間ドラマもあれば、入り組んだミステリー要素に、息詰まる攻防や頭脳戦。続編として紹介するのがもったいないと思えるぐらいに楽しめた作品だった。
前作よりも完成度が高いと素直に評価できる。『犯人に告ぐ』は確かに超面白かったし、あのセリフも堪能できたしで、大満足の一冊だったのだが、惜しむらくはオチが弱い。「犯人お前かよ…」と思ったのは私だけじゃないと思う。
その点、今作『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』は、かなり文句なしの出来だ。無駄に暴力性やエロを使って盛り上げるような下品なことはせず、ちゃんと筋を通した面白さを展開している。
 
ということで、超オススメ。それをここに明言しておこう。
 
で、だ。
 
ここからが蛇足、というか本題である。
作品の面白さは保証した上で、私は読書中毒者として、いや小説マニアとして、とてもマニアックな話をしたい。もしかしたら誰にも需要がないかもしれないが、綴ってみよう。
 
 

タイトルクソ問題

 
ここでやっと、この記事のタイトルの話題である。
ちょっと一回冷静になってこの字面を見てほしい。そして味わってほしい。
 
 
『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』
 
 
 
 
 
 
 
『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』
 
 
 
 
…ダッセえ…。
 
 
 
 
 
いや分かる。読み終えている私は分かってる。中身を考えたら、こんなにぴったりなタイトルはないよ。でもだ。さすがに酷すぎない?
 
 
まず一番のダメポイントから話そう。
『犯人に告ぐ2』の「2」の部分。なにこれ?
前作の名タイトルをそのまま踏襲しているのはいい。そもそも『犯人に告ぐ』っていうタイトルは秀逸すぎる。タイトルだけでワクワクできる。面白い物語のニオイがプンプンする。ほぼ正解のタイトルである。
しかし今回はそんな名タイトルに「2」を付けただけ。下品すぎるだろ。まるで綺麗なケーキにブルドックソースをぶっかけているような、ダイヤモンドに落書きをするような、温水洋一にカツラをかぶせるような所業である。つまり台無しだ。
『犯人に告ぐ2』に限らず、私はこの「2」が大嫌いだ。2が付いているだけでちょっとウンザリしてしまう。読む気が若干失せる。
「犯人に告ぐ」と「2」の組み合わせは特にダメだろう。
重々しく響く「犯人に告ぐ」と、軽薄な印象の「2」。全然ダメでしょう。食い合わせが悪すぎる。大丈夫か、みんな付いてこれているか。
 
2」の軽薄さが分かりにくいようであれば、ちょっと例を出してみようか。
 
 
「人間失格2
 
 
「こころ2
 
 
1Q842
 
どうだろうか。素晴らしいタイトルが一気にチープになる感じがよく分かってもらえると思う。
「人間失格2」とか、いつまで失格し続けてんだよって感じだし、「こころ2」は「こころ2.0」すると最近のビジネス本にありそうな感じがするし、最後の村上春樹作品は暗号感がすごい。勝手に決められた初期パスワードみたいだ。
 
大体にして「2」の音も気に入らない。なんだ「ツー」って。「犯人に告ぐツー」だぞ。間抜けすぎでしょ。途中で切られた電話かよ。なんでみんな耐えられるの?僕ムリ。かと言って「犯人に告ぐトゥー」にすればいいってもんじゃないからな。「こころトゥー」とか酷すぎだから。
大体にして『犯人に告ぐ2』って、上下巻に分かれているから、正確には『犯人に告ぐ2上』になる。識別情報が多すぎるだろう。ややこしい。やっぱりこれはダメだ。 
 
こうやって文句を書き連ねていると、私の中の冷静な部分が「そんなに文句を言うなら、解決策を出せや」と言ってくる。
今書いたように「2.0」や「トゥー」で逃げたいところだが、いかんせん私自身がまったく納得できない。
現実的な超つまらない解決を挙げるならば、やっぱりありがちな「巻島警部シリーズ②」という副題を付けるとかだろうか。
 
そういえば、副題の『闇の蜃気楼』も凄いセンスだと思う。もちろん皮肉である。
「闇」という言葉に対して私が偏見を持ち過ぎなのだろうか。中二病臭が半端じゃない。「闇」て。しかもそこへ「蜃気楼」て。くさすぎませんか。
タイトルは人の名前と同じようなものだ。名は体を表すは大嘘で、名前なんて人間の本質には何の影響も及ばさない。キラキラネームが黒歴史を生み出すことはあるかもしれんが。
で、小説のタイトルがどれだけ酷くても、中身が面白ければまったく問題ない。タイトルがくそダサくても中身で魅了すれば、読者は十分に満足する。
ではなぜ『犯人に告ぐ2』を読み終えて満足したはずの私がこんな記事を書いているのかと疑問に思われる方がいるかもしれないが、それはただ単に私の変態性によるところである。美味しい料理を堪能しておいて「皿の柄が気に入らなかったな」という感想を書いているようなもんである。クズだ。好きなだけ罵ってくれ。でも私に聞こえないように頼む。
 
ちなみにだが、この「続編のタイトルがダサくなっちゃう問題」の解答を、私なりに持っている。
それは「続編として発表しない」である。
続編だけど別の作品として扱うのだ。これを推奨しているのが私の偏愛する森博嗣である。『朽ちる散る落ちる』と『月は幽咽のデバイス』が同じシリーズの本として発表されていることは、もうちょっと多くの作家が真似をしてもいいと思う。
 
以上。局所的な話題にお付き合いいただき感謝。
 
 
 
 
 
『犯人に告ぐ2』の逆パターンとして、タイトルはまあまあだけど中身はイマイチだったのがこちら。前作の『孤狼の血』が名作だっただけに残念である。
 

 

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