森絵都作品はどれも好きだけど、これが一番好き。
児童文学が主戦場の直木賞作家
どうも、森絵都信者ブロガーのひろたつです。
今回紹介するのは私が敬愛して止まない作家、森絵都の“最高傑作”と私が勝手に決めつけている作品のご紹介。
森絵都と言えば第135回直木賞を『風に舞いあがるビニールシート』で受賞している、直木賞作家様でございます。そういえば、過去の直木賞受賞作家の中で児童文学を主に書いていた人ってあんまりいないんじゃないかな?
紹介しておいてなんだけど、正直売れ線の作家ではないかも。派手なドンパチやドロドロした恋愛があるわけでもなく…。それこそエンタメ的な面で見れば、“地味”な作風だと思う。
だけど実力のほどは直木賞受賞という肩書が保証している。一応、直木賞は作品に対する賞と謳ってはいるけど、本読みの中では作家自身に贈られる賞だともっぱらの噂。過去の受賞作品を見れはそれは一目瞭然だし。東野圭吾のあれとか、宮部みゆきのあれとか…。
児童文学で華々しい経歴
そんな話はいいとして。
今回紹介している『カラフル』は、実は正確に分類するならば「児童文学」のジャンルに含まれる。なぜわざわざ大人たちに児童文学を勧めるのか。それには理由がある。
児童文学を大人になってから読むのは少数派だとは承知している。子供の頃に読んで面白かったからと言って、大人になってから読んで面白いとは限らない。私だって今更『学校の怪談』とか『かいけつゾロリ』とか読む気にはならん。
しかし、児童文学に馴染みがないからといってこの作品を知らないまま人生を終えるのはあまりにも勿体ない。酒を知らないよりも勿体ない。(私は下戸)
そしてこの森絵都という怪物作家の恐ろしさ、その魅力を一人でも多くの方に伝えたい所存である。
森絵都は児童文学の世界で非常に華々しい経歴を持っている。
以下、ウィキより抜粋。
1990年(平成2年) - 『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞。
見ての通り彼女のほとんどの受賞作品は児童文学作品となっている。
児童文学に触れる意味
仰々しく書いてみたが、簡単に言うと「それあるわ~」というあるあるネタ的な手法が非常に巧みな作家なのだ。特に思春期特有の痛々しさや心のゆらぎなどを切り取るのが上手すぎて、読んでいて己の黒歴史が蘇ることもしばしば。本当に恐ろしい女である、森絵都は。
※参考記事
圧倒的リーダビリティ
森絵都のもうひとつの武器が、圧倒的なリーダビリティの高さである。とにかくすらすら読める。するする脳内に言葉が入ってくる。
小説家なんだから当たり前だと思った方は甘い。甘すぎて吐きそうである。
読者にすらすら読ませることがどれだけ難しいことなのかは、自分でやってみるとよく分かる。こうやって日々、ゴミみたいなブログを書いている私は身に染みて理解している。
自分の頭の中に浮かんでいる情景を伝えるために文章を綴るが、本人の頭の中のことなので「これくらいの説明でいいだろう」とか「もうちょっと詳しく書いた方がいい」というのは感覚でしか分からないものなのだ。
読み手にストレスなく的確に伝えるというのはある種、文章を書くバランス感覚に優れているとも言い換えられる。
数多くの作家に触れてきた私だが、森絵都はその中でもトップ3入るぐらい、リーダビリティに優れた作家だと評価している。←偉そう
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本の紹介
なんだか御託が多すぎて、本自体の紹介をまったくしていない気がするが、まあいいだろう。本好きは得てして、本自体よりもその背景や、影響なんかを論じたくなるものだ。ええ、その習性が迷惑なのは百も承知でございます。
生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。
児童文学作品らしく、非常にシンプルなストーリーである。しかし、ありきたりな内容だと侮ってはいけない。いや、もしかしたら侮っているあなたは幸福かもしれない。
きっと綺麗なまでにこの作品に足元をすくわれることだろう。そして読み終わり、本を閉じるときには、涙で滲んだ視界の中で『カラフル』とこんな傑作を生み出してくれた森絵都に感謝することだろう。そう、カラフルな世界を見ながら。
『カラフル』にしかないもの
1000冊以上の小説を読んできた私だが、こうやって良作を紹介しているとある共通点に気付く。
それは何かと言うと”その作品にしか成せないことをしている”ということだ。
作風やジャンルという括りの中の話ではなく、その物語と接したことで体験した感情の動きが他の物語と一線を画しているかどうかが良作かどうかの分かれ目になっているのだ。
そしてそれは『カラフル』にも言えることだ。ひたすらに心を動かす力に溢れた作品。二度も映像化されているのだが、そこにもこの『カラフル』という作品の”人を動かしていまう力”を感じ取らずにはいられない。
中身を切り出すのはあまり好きな紹介の仕方ではないだが、この作品の魅力が少しでも伝わると思うので一部抜粋して貼っておこう。
主人公の独白の一部である。
この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷ってる。
どれがほんとの色だかわからなくて。
どれが自分の色だかわからなくて。
なにこの文章?巧みすぎるんだけど。
“カラフル”という一見して、素敵なイメージばかりが先行する言葉を、こんな使い方してしまうのだ。これだけを読んでも、森絵都という作家の類まれなるセンスを感じられるじゃないか!(勝手に興奮中)
ではでは、素晴らしい作品が一人でも多くの人の手に渡りますように…!