俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

最悪に魅了されよう。中村文則『掏摸(スリ)』

f:id:summer39191628:20200110193252j:plain

 

人に勧めたいと思わせる小説

どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回は私がハマりにハマっている作家の出世作にして代表作を紹介したい。

実は、中村文則には本当の代表作である『教団X』という子がいるのだが、ちょっと人付き合いが苦手なタイプなので、今回はそっとしておくことにする。

 

※参考記事

www.orehero.net

 

こちらの『掏摸』は、発売当初から書店員の評判の良かったようで、いたる所で手書きのポップを見かけていた。当時、アメトーークの読書芸人で又吉が勧めていたのも、爆発した大きな要因だろう。

私が書店で『掏摸』を目にしたとき、正確には『掏摸』の手書きポップを見たときに、小説マニア特有の勘で「これは絶対に面白いぞ!」とピンときたことをよく覚えている。

 

今じゃ店員の手書きポップなんて珍しくなく、むしろポップがされていない作品の方が少ないレベル。本を見に来たんだか、ポップを見に来たんだか分からなくなるのは私だけではないはずだ。別に私だけでも構わないけれど。

それだけ本屋に溢れかえっているポップ。あの手この手で客の心をつかもうと必死に綴られる言葉、デザイン。色んなテクニックはあるだろうけれど、不思議と情熱が乗っているポップかどうかはすぐに分かる。「あ、これ本気のやつだ」って。

で、この『掏摸』は書店員の本気の圧力、”推し”を感じられた。

熱狂している人の、暑苦しくて押し付けがましくて、人に勧めずにはいられない布教魂を感じたのである。 

つまりこれはそれだけ、『掏摸』に人を動かす力が備わっているということだ

『掏摸』の作者中村文則はこんな人

作者の中村文則は、暗い雰囲気の重厚な作風を得意としており(それしか書けない、とも言える)、特異な世界観と妙な中毒性のある文章で、多数のファンを獲得している作家である。ダーキーな世界に没頭したい人には、最高におすすめしたい作家である。

私は彼の作り出す、絶望に満ちた空気感が大好きで、鬱々としながらその世界に潜り込んでいる。彼の作品を読んだあとは、部屋の電気がいつもよりも暗くなったように感じる。それぐらい気分を落ち込ませてくれる。いや、褒めてんのよ。これでも。

 

そもそも見た目からしても、確実に闇寄りな御方である。しかしインタビューや対談を見る限りは、だいぶ明るい人らしい。

 

※参考画像

f:id:summer39191628:20200114001812j:plain

(この疲れた陰茎みたいな風貌も大好きである)←だから褒めてんだって

 

ファンは日本国内だけに留まらず、この記事を執筆している2020年1月現在、16の国で販売、15の言語に翻訳されている。

特に今回紹介している『掏摸』はアメリカで高く評価され、あのアメリカの新聞「ウォール・ストリート・ジャーナル」で、2012年のベスト10小説に選出されている。ちなみに私は「ウォール・ストリート・ジャーナル」を知らない。でもなんか凄いのは分かる。



スポンサーリンク
 



『掏摸』の概要

 

お前は、運命を信じるか?

東京を仕事場にする天才スリ師。彼のターゲットはわかりやすい裕福者たち。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。
男の名は木崎―かつて一度だけ、仕事を共にしたことのある、闇社会に生きる男。木崎はある仕事を依頼してきた。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。もし逃げれば…最近、お前が親しくしている子供を殺す」
その瞬間、木崎は彼にとって、絶対的な運命の支配者となった。
悪の快感に溺れた芥川賞作家が、圧倒的な緊迫感とディティールで描く、著者最高傑作にして驚愕の話題作。

 

うーん、なんて愛に溢れた紹介文。すでに読み終わっている私でさえも、もう一度読みたくなるレベルだ。

 

『掏摸』のここが凄い

作品を紹介するときには、ネタバレを一切しない主義なので、『掏摸』の魅力をざっと箇条書きにしてみた。

 

・キャラクターそれぞれが苦しみを抱えており、血が通っている。共感させる力がすんごい。

・ダークな雰囲気にも関わらず、ストーリーはエンタメ性抜群で、ハラハラドキドキがヤバい。先が気になって仕方なくなる。

手触りさえも伝える圧倒的な“表現力”。冒頭などで見られる主人公のスリの描写では、読んでいる私たちにもスリ師の手の感覚が伝わってくる。ゾワッとするくらいに。

 

こんな感じで、十分に最高な作品なのは伝わったと思うが、もうひとつ『掏摸』最大の魅力がある。

それは、作中に出てくる”最悪の男”と呼ばれる木崎だ。

最悪と紹介されているが、キャラクターとしての魅力は最高だ。登場の仕方からして今まで読んできたどんな悪役よりもインパクトがある。

 

そんな“最悪の男”木崎に、我々がこんなにも魅了されてしまうのには、ちゃんと理由がある。

それは、読者の”想像力”を駆使していることだ。

木崎の行動や言葉の端々から、彼が牛耳っているものの大きさや深さが、じわりと伝わってくる。また、彼の周囲で起こるきな臭い事件などは、木崎という人間の底なし感を煽ってくる。

でも彼の人間性や風貌などは、ほとんど語られることはない。あれだけ作中で何度も出てくるのにも関わらず、彼だけ黒く塗りつぶしたかのように、正体がつかみきれない。

 

我々の前にぽっかりと開いた漆黒の穴。それが最悪の男、木崎なのである。

 

この”底なし”の悪に対し、私たち読者は想像力を刺激されてしまう。

限られた描写だからこそ、それぞれが最悪の男を自分の頭の中に創り出してしまう

作者の中村文則が、一体どこまで計算して木崎を創り出したのかは分からない。これが狙ってやっているのであれば恐ろしい限りである。

読者の想像に委ねる。これ以上にキャラクターを魅力的にする方法はないのだろう。



あなたの創り出す”最悪の男”はどんな顔をしているのだろうか?

さあ、会いに行こう。