伊坂幸太郎がこんなに多彩な作品集が書けるなんて知らんかった。
伊坂幸太郎による多彩な短編集
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
さて今回紹介するのは、伊坂幸太郎の『首折り男のための協奏曲』である。なんとも不可思議なタイトルである。どんな内容なのかまったく想像できないが、いつも通りの伊坂テイストだろうと高をくくって読んでみた。
そしたら、意外や意外。良い意味で伊坂幸太郎らしくない作品ばかりじゃないか。
なんでも本書は、出版社の方から「こういう話を書いてほしい」というオファーを受けた形で書かれた作品ばかりを集めたものらしい。どおりで多彩な作品集になってるわけだ。
被害者は一瞬で首を捻られ、殺された。殺し屋の名は、首折り男。テレビ番組の報道を見て、隣人の“彼”が犯人ではないか、と疑う老夫婦。いじめに遭う高校生は“彼”に助けられ、幹事が欠席した合コンの席では首折り殺人が話題に上る。一方で、泥棒・黒澤は恋路の調査に盗みの依頼と大忙し。二人の男を軸に物語は絡み、繋がり、やがて驚きへと至る!伊坂幸太郎の神髄、ここにあり。
いつものミステリーもあれば、ホラー、青春、恋愛ものもあったりする。
正直、私は伊坂に怖さも色恋沙汰も期待していなかったのだが、それなのにけっこう“やられて”しまった。何にやられてしまったのかを書くと、ネタバレになってしまいそうなので秘密にしておく。
とにかく大満足な作品集だった、とだけ書いておこう。
感慨深くなってしまうファン
でも、本当にあの伊坂がこんな作品集を書けるとはなぁ。なんだか感慨深いというか、10年来のファンである私からすると驚きの事実である。
確かにこれまでもミステリー以外の作品は書いてきたが、それでもどこか抜け切らないと言うべきか、同じような作品になっていた。もちろんそれが伊坂幸太郎の良さであるのは間違いない。安定した伊坂エンタメを提供してくれるからこそ、彼はここまで売れっ子になったのだろう。
しかしながら、今作ではかなり大胆なモデルチェンジを施している。いつもの伊坂では味わえない作品が揃っている。出版社からのオファーを素直に受けた形なので、つまりこれは非常にプロフェッショナルな作品集なのだ。作家は書きたいものを書くべきでもあるが、それと同時に書かされることも必要である。ときにそれは作家の幅を広げることになる。
でもやっぱり伊坂作品
当然、あの伏線マスターである伊坂幸太郎の手による作品集である。多彩とはいえ、彼のいつもの技のキレは炸裂しているし、そうでない作品でも彼の味をちゃんと感じさせてくれている。
これだけ色んなジャンルに手を伸ばしているにも関わらず、それでもやっぱり「こりゃ伊坂だ」と感じさせてしまうのは、それだけ彼のオリジナリティが確立されているとも言えるし、彼の芸風が呪いになっているとも言えよう。きっと彼の作品なら、文章だけ見せられても判別できる気がする。
大体にして今作ではあの“黒澤”が大活躍している。私からしたら「黒澤=伊坂」である。文句なしに『首折り男のための協奏曲』は伊坂作品である。誰も文句なんかないだろうけど。
黒澤が大活躍とか書いてしまったが、そもそも黒澤はキャラクター的にそこまで見栄えのする“大活躍”をするタイプではない。でも、作品集の中で複数の物語に関与してくれている。これは伊坂のファンであればかなり嬉しい要素じゃないだろうか。
実験的な作品もあり
かなり粒よりな作品集なのだが、最後に収録されている『合コンの話』だけは、ちょっと腑に落ちないというか、非常に凝った構成になっているにも関わらず、その構成が活かされていなかった。なんだったのだろう?まあ面白かったからいいのだけど。実験的にやってみたかったのかもしれない。確かにあの手法はちょっと他ではあまり見ないし、ミステリー的見地からすると、新たな驚きを生み出せそうな雰囲気がある。あえて似た作品を挙げるならば、鮎川哲也の『達也が笑う』だろうか。
※『達也が笑う』が収録されているのはこちら。
最強は『月曜から逃げろ』
色んなジャンルの作品が収録されているので、どれが一番とかはなかなか決めにくい。だが、伊坂をミステリー作家として評価するならば、やはり白眉は『月曜から逃げろ』だろう。
これは凄い。我ながらアホみたいな紹介文句だとは思うが、本当に凄いのだから仕方ないだろう。
過去の偉大なミステリー短編と比べると驚きの趣向が違うかもしれない。人によっては「なんじゃこりゃ?」と思うかもしれない。
しかしながら、私のような極度のミステリー小説マニアからすると、『月曜から逃げろ』は「とんでもない作品」である。読みながら思わず「おおっ!」 と声が出てしまった。上質なミステリー作品に出会うとたまに出るやつである。この発想は凄いと思う。こればっかりは似たような作品を私は知らないし、むしろこんなトリッキーな作品、再現することはできないんじゃないだろうか…?
他の作品だと『ぼくの舟』もかなりお気に入りである。黒澤が活躍しているのもいいし、大体にして話がめっちゃいい。まさか伊坂の作品で泣かされることになるとは…。
終わりに
『首折り男のための協奏曲』のポイントをまとめておこう。
・出版社のオファーに応える形で書かれた作品を集めた短編集
・ジャンルは多彩。それぞれが意外にも出来が良い。
・『月曜から逃げろ』がミステリーオタクからすると堪んない。
・『ぼくの舟』が泣ける。伊坂に泣かされるなんて思ってなかったから、余計に印象的。
こんな感じで、色んな意味で一読の価値がある作品集である。
伊坂幸太郎は同じような作品しか書けないと決めつけているそこのあなた(私のことである)。そんなあなたにこそ読んでもらいたい作品である。きっと伊坂幸太郎の印象がまた少し変わることだろう。
以上。
※10年来のファンが自信を持ってオススメする伊坂幸太郎の作品をまとめた記事がこちら。
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