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世界一面白い密入国記。高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

日本を代表するクレイジージャーニー、高野秀行による世界一面白い密入国記の紹介である。

 

内容紹介

 

 

悲惨で絶体絶命で、しかも滑稽な旅がある!

中国四川省の成都を出発し、ビルマ北部を通って、最後にはインドへ――幻の西南シルクロードに挑む著者の前には、圧倒的なジャングルと反政府少数民族ゲリラの支配する世界屈指の秘境がたちふさがっていた。混迷と困難を極める旅なのに、これほど笑えるのはなぜか。究極のエンタメ・ノンフィクションついに登場。

高野秀行の世界はテレビカメラはついていけない。――関野吉晴(解説より)

 

別の本で見たのだが、人の知能は周りの影響をあまり受けないのだが、行動に関してはすぐに影響を受けるらしい。クラスの悪い子と付き合うと非行に走りやすいってのと同じである。

それと同じ効果が高野秀行の著作にもあるかもしれない。

『西南シルクロードは密林に消える』は、本当に笑ってしまうぐらい犯罪行為の連発。しかも読んでいるうちに、読者の方もそれに慣れてきてしまうんだから困る。こうしてモラルは低下していくのか。

 

犯罪記録かな? 

面白ければなんでもいいでしょ、と豪快に言い切れるほど私は常識から外れた人間ではない。どちらかと言えば、常識を愛し、法律に遵守し、平和で静かに暮らす小市民である。

しかしそれでも高野秀行の著作は面白いと感じる。

それはなぜか。

 

高野秀行がべらぼうなバカだからだ。

 

大事なことなのでもう一度書こう。

 

バカだからだ

 

 

もともとの旅の目的は「幻と消えた西南シルクロードを陸路を使って踏破する」というものだった。

それがなにやら密林やゲリラにもみくちゃにされているうちに、視野狭窄に陥り、気が付けば犯罪行為のオンパレードになっていた。文書偽造・身分詐称・密入国などなど犯罪行為を挙げていったらキリがないほど。

天下の講談社から出版されている本とは思えない内容である。もしかしたらフィクションのジャンルで出版されているのかもしれない。

 

惹きつけられる理由

それだけ犯罪行為にまみれた本書だが、それでも私のような小市民が悪感情を抱かないのは、さきほども書いたとおり高野秀行がバカだからだ。←3回目

というのも、高野秀行の行動原理が非常にあっけらかんとしているのだ。

「 誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」。それだけなのだ。

そこには世にはびこる犯罪行為に見られるような私利私欲はまったく絡んでいない。

犯罪行為に不快感があるのは、そうした「己の欲望のために他人に迷惑をかける」という点にある。

高野秀行の場合、ただただ「面白い体験がしたい」「バカをやりたい」「知りたくて仕方ない」という少年のようなキラキラした純粋な欲求がある。まあ、それも私利私欲みたいなもんか。

高野秀行の他の著作のレビューでも書いたが、彼の場合、とにかく欲求が凄い。欲求に突き動かされるとはよく言うが、我々一般人はそこまで動かされない。動いたとしても近所の範囲内である。それが高野秀行の場合は「密林」「ゲリラ」「ゾウの上」みたいに規格外もいいところな場所まで突き動かされてしまうのだ。正直言って、どうしようもない男である。

しかし、そんな規格外な存在だからこそ、彼の体験は誰しもをワクワクさせるし、ひどくパーソナルな作品にも関わらず、何か凄いものを見たような気持ちにさせられるのだろう。

 

西南シルクロード?なにそれ?

一応本のタイトルにも冠せられている「西南シルクロード」だが、本書の中身を見たときに、それほど重要な要素として取り扱われていない。なんなら高野秀行も目の前の苛烈を極める行軍で頭がいっぱいになって忘れていたりするほどだ。(逆に現地のゲリラが親切で調べてくれていたりする)

作品の中で西南シルクロードはを見渡すような見解はほとんどなく、目の前に迫りくるピンチをひたすら切り抜けているばかりだ。そしてそれが最高に面白いんだから困る。

 

なので「謎多き西南シルクロードを解き明かす」的な、歴史探訪記を期待されると肩透かし食うかもしれない。

この作品の楽しみ方は「バカやってる大人の変態冒険記」で十分だと思う。

その旅程の過酷さもさることながら、無計画さ、命の懸けっぷり、ピンチになる頻度が凄まじい。よく生きていられたもんだと感心してしまう。

 

平和に日本で暮らしていたら想像すらできないような強烈な体験が、この本にはこれでもかと盛り込まれている。

作者の高野秀行はそれこそ死ぬほど苦しんだだろうが、そんな彼の体験を、エアコンの効いた快適な部屋でお菓子でも頬ぼりながら読むのは、最高の楽しみである。

 

以上。

 

 

 

 

強烈な探検記もいいけど、ちっちゃい話題も最高である。