ほっしゃんではない。
どうも。読書ブロガーのひろたつです。
大好きな作家を紹介しようじゃないか。
直木賞受賞作家
今回のテーマは荻原浩である。
直木賞を受賞し、めでたくベストセラー作家に仲間入りしたわけだ。とは言っても、荻原浩は元々ベストセラー作家だったので、単に箔が付いただけだろう。そもそも直木賞自体が長年売れ続けた作家に贈られる賞だと言われている。
どちらにしろ、公式に荻原浩が認められたことはファンとして嬉しく思う。その反面、みんなのものになってしまったような一抹の寂しさを覚える。
荻原浩ってどんな作家?
直木賞を受賞しているぐらいなのだから、その実力は疑いようがない。
では、どんな作家なのか?と聞かれれば、こうである。
「笑いと泣き」の名手。
彼の作品の根底には、どんなことも笑い飛ばすような、シニカルな視点が存在する。
かといって、それは冷たく突き放すようなものではなく、人間というものを愛しているからこそ生まれるものだ。彼の作品は人間への愛情に溢れている。
愛に溢れた視点から、人間のおかしさ、愚かさ、そして美しさを、温かい筆運びで描いている。
そのため作品のクセが極端に少なく、読者を選ばない。誰にでもオススメできる作家であると言える。実際、私自身が周りの人に勧めまくっている。それはもう宗教の勧誘もびっくりなレベルである。きっとみんな迷惑していることだろう。望むところだ。みんな嫌いにならないで。
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オススメ作品を紹介!
そんな私がメロメロになっている荻原浩。こんな素晴らしい作家がせっかく日本にいて、日本語で小説を書いてくれているのだから、少しでも多くの方にその魅力を味わってもらいたいと思う。こんな幸運なことはないのだ。
ということで、今回の記事では荻原浩の膨大な作品群の中でも特に“これは必読!”という作品を選抜させていただいた。
本当に作家のファンであれば、どんな作品も分け隔てなく勧めるべきなのだろ。
だが、まだ荻原浩を体験したことない方、または数作しか読んでない方は、「どれから読めばいいか分からない」とお思いだろう。
正直、作品を選抜するなんて、こんな失礼なことを大好きな作家にしたくなどないが、これも布教活動の一環と捉え、涙を飲んで耐えている次第だ。
そんな私の涙にまみれた名作たちをぜひ手に取ってもらいたい。
絶対後悔させないから。
では行ってみよう。
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『ハードボイルド・エッグ』
フィリップ・マーロウに憧れ、
マーロウのようにいつも他人より損をする道を選ぶことに決めた「私」こと最上俊平。
だが、持ちこまれるのはなぜかペットの捜索依頼ばかり。
そろそろ変わらなければならない。しかるべき探偵、しかるべき男に。
手始めに美人秘書を雇うことにしたが、やって来たのはとんでもないナイス・バディ(?)な女で……。
くすりと笑えてほろりと泣けるハードボイルドの傑作。
名探偵フィリップ・マーロウをご存知だろうか。
世の中で名探偵といえば、真っ先に名前が挙がるのは、シャーロック・ホームズや金田一耕助、コナン君。あとはメルカトル鮎ぐらいだろうか。
今名前を挙げた彼らは基本的に、難事件を解決するタイプの探偵である。
フィリップ・マーロウも、もちろん探偵と銘打っているので事件の解決をするのだが、彼の魅力はそこにはない。生き様や、キャラクターそのものにある。
タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格がない
この名言はマーロウのものである。聞いたことがある人も多いんじゃなかろうか。
あの村上春樹もマーロウの熱烈なファンで、何冊か翻訳も手がけるほどの熱の入れようである。
フィリップ・マーロウの魅力が良く分かってもらった所で、荻原浩の『ハードボイルド・エッグ』である。
そんな超格好良いマーロウに憧れ、自らも探偵業を営む主人公。しかしどうしても彼の低すぎるポテンシャルが邪魔してなかなか上手くいかない。格好良く決めたいのだが、思い通りにならない。その様子がたまらなく笑えて、愛おしい。
身の丈に合わない憧れに手を伸ばそうともがく姿には、自然と感動さえおぼえる。この辺りの筆運びが素晴らしい。完全に荻原浩の得意分野である。
続編もあるので、合わせて楽しんでもらいたい。大好きなシリーズである。
『オロロ畑でつかまえて』
超過疎化にあえぐ日本の秘境・牛穴村が、村おこしのため、倒産寸前の広告代理店と手を組んだ。彼らが計画した「作戦」とは!?
記念すべき荻原浩のデビュー作である。小説すばる新人賞を受賞したらしいが、そんなことはどうでもよろしい。
どこかで聞いたことがあるようなふざけたタイトル。でも中身もしっかりとふざけている。ご都合主義も盛りだくさん。でも本当に素敵な気分にさせてくれる作品である。
何が良いって、普通のオッサンが主人公なこと。
特別な能力があるわけでもなくて、でも目の前には手に余りすぎる問題が立ちはだかっていて、逃げ出したいけど、でも生きるためには立ち向かわなくてはならなくて…。
と、まるで自分自身を見ているかのような気分になってくる。
書いているのがオッサンだけあって、オッサンの描き方が素晴らしいなぁ、と思うオッサンブロガーであった。
でも、これ読んで好きになったのは18ぐらいのときです。何の言い訳になるのか知らんが、一応書いておく。
で、こちらが続編。主人公の家族にもストーリーを広げているのだが、これがもう…荻原浩作品の中でも特に、笑って泣かせてくれる作品に仕上がっている。
倒産寸前の零細代理店・ユニバーサル広告社に大仕事が舞いこんだ。ところが、その中身はヤクザ小鳩組のイメージアップ戦略、というとんでもない代物。担当するハメになった、アル中でバツイチのコピーライター杉山のもとには、さらに別居中の娘まで転がりこんでくる。社の未来と父親としての意地を賭けて、杉山は走りだすが―。
前作の『オロロ畑』も素晴らしいのだが、やはりまだデビュー作だけあって、少々硬さが感じられた。だがこちらの『小鳩組』ではもう荻原節全開。面目躍如。八面六臂。…えーっとあと他に褒め言葉ってあったっけ?
とにかく面白くて泣けるから読みさらせ。
『噂』
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
心暖まる作品ばかりに酔いしれているところへ、こんなサイコな作品をぶち込んでくるのだから、荻原浩という作家は底が知れない。本当に器用な方である。
そうそう器用といえば、この作品では主人公の娘役として女子高生が出てくるのだが、その表現の上手いこと上手いこと。
オッサンが描く女子高生というのは、どうしても現実感のない寒々しいキャラになりがちなのだが、『噂』で描かれる女子高生は「まんま」。女子高生が書いたかのような女子高生。あまりにも自然で生々しいので、そこにもまた「荻原浩やるな…」と積年のライバルを褒めるかのような気分になってしまった。
これも彼が人を見る力に優れているからこそ、できる芸当だろう。それか単純に高校生の娘がいただけ。たぶん後者だと思う。
それぐらい血が通っていた、ということ。
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『砂の王国』
全財産は、3円。私はささいなきっかけで大手証券会社勤務からホームレスに転落した。寒さと飢えと人々からの侮蔑。段ボールハウスの設置場所を求め、極貧の日々の中で辿りついた公園で出会った占い師と美形のホームレスが、私に「新興宗教創設計画」を閃かせた。はじき出された社会の隅からの逆襲が始まる!
宗教をテーマに真正面からぶつかった作品。一流の作家にこんな一流の食材を渡したら、そりゃ面白くなって当然である。
ただし、お気をつけていただきたいのは、この『砂の王国』では荻原浩お得意の笑いの要素は封印されている。人間模様を描くのに徹しきっている。
上下巻という濃厚で長大な作品に託したのは、どん底にいる男の野望と悲しみ、そして人間の愚かさである。
『砂の王国』というタイトルからしてもう、色んなことが予見されるだろう。結末は見てのお楽しみだ。
『神様からひと言』
そしてこちらは『砂の王国』とはまた別の方向から宗教、神にアプローチした作品。
大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。
デビュー作で小説すばる新人賞を受賞したとはいえ、ほとんど無名だった荻原浩。そんな彼を有名にするきっかけになった作品だと思う。たしかドラマ化されたんだっけか。
直木賞を受賞する前の、荻原浩の代表作と言えるだろう。
作者が元々広告代理店にいただけあり、ハードな仕事っぷりの描写が凄まじくリアルで、読んでいるだけで疲れてきそうである。
紹介文にもある通り、普通の人である私たちに力をくれる素敵な作品である。
神様からのひと言。それがどんなものかは読んでからのお楽しみ。だが、決して脱力しないように。それもまた愛嬌であり、作品の味である。
『海の見える理髪店』
伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら…。母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。
直木賞受賞作である。そして、荻原浩が私の手元から離れてしまうキッカケになった作品。もう彼はみんなのものである(元からみんなのもの)。
みんなのものになったからには、好きなだけ荻原浩を弄んでほしい。彼の作品を読み漁ってほしい。その内に、荻原浩の手の平で踊っている自分に気付くはずだ。
こちらの『海の見える理髪店』は簡単に「感動作です!」とか「泣けます!」とオススメできるような作品ではない。もっと深くて、しっかりと受け止めずにはいられないような、重みのある作品である。とは言っても、そこはさすがの荻原浩で、高いリーダビリティで読者を鮮やかに連れてってくれる。
『二千七百の夏と冬』
受賞作品としては、こちらも忘れてはいけない。
ダム建設工事の作業中に、縄文人男性と弥生人女性の人骨が発見された。
二体はしっかりと手を重ね、互いに顔を向け合った姿であった。三千年近く前、この男女にいったいどんなドラマがあったのか?
新聞記者の佐藤香椰は次第にこの謎にのめりこんでいく――。
時代のうねりに翻弄された悠久の愛の物語。
こちらの作品は「山田風太郎賞」を受賞した作品である。
山田風太郎賞を知らない方のために簡単に説明すると、「とにかくその年、一番面白かった本に贈られる賞」である。
なんて分かりやすい概要だろうか。「オラ、一番強くなりてえ」とかほざいているどこかのサイヤ人と同じレベルである。でもだからこそ、単純でいい。
荻原浩はこの『二千七百の夏と冬』を書く以前にも何度か、歴史を絡めた作品を上梓しているが、縄文時代にまで手を伸ばした作品はなかった。というか、他の作家でもなかなか見ないテーマである。
しかし、新しい試みにこそ未開の面白さがあるわけで、荻原浩は勇気を持って開拓し、そしてこんな傑作を生み出すことに成功した。
上下巻である。心地よい文章は永遠に読んでいたくなるほど。
匠による筆を存分に楽しんでもらいたい。
『さよならバースディ』
霊長類研究センター。猿のバースディに言語習得実験を行っている。プロジェクトの創始者安達助教授は一年前に自殺したが、助手の田中真と大学院生の由紀が研究を継いだ。実験は着実に成果をあげてきた。だが、真が由紀にプロポーズをした夜、彼女は窓から身を投げる。真は、目撃したバースディから、真相を聞き出そうと…。愛を失う哀しみと、学会の不条理に翻弄される研究者を描く、長編ミステリー。
ミステリーかと言われると、まあそうなのだが楽しむのはそこの部分ではないように思う。
こちらの作品では非常にしっとりとした文章が綴られており、物語も切なさに溢れたものに仕上がっている。私は完全にヤラれた。泣いたよ。
私だけに限らず、日本人は桜に代表されるように切ないものが大好きだ。そんな切なさを存分に味わえるのが、この『さよならバースデイ』である。
ハッピーエンドではないかもしれないが、それゆえに胸にしっかりと想いを刻んでくれる作品である。
『明日の記憶』
さあ、これで最後の作品である。私は好きなものを最後に持ってくるタイプだ。
ということで、締めを飾るのは荻原浩の最高傑作である。
知っているはずの言葉がとっさに出てこない。物忘れ、頭痛、不眠、目眩――告げられた病名は若年性アルツハイマー。どんなにメモでポケットを膨らませても確実に失われていく記憶。そして悲しくもほのかな光が見える感動の結末。
上質のユーモア感覚を持つ著者が、シリアスなテーマに挑んだ最高傑作。
素晴らしすぎてこのブログではもう1万回ぐらいオススメしているのだが、懲りずにまたオススメしておこう。ここまで来たら日本人が全員読むまでは推し続けようじゃないか。
若年性アルツハイマーに罹患した主人公を、丁寧に、しかし非情に、でも温かく描いた作品。
主人公から色んなものがこぼれ落ちていく様子が、あまりも残酷で、悲しすぎて、本当に涙が止まらなかった。
私の長い読書歴の中でも数少ない徹夜本である。
※徹夜本とは…翌日に仕事や学校があるにも関わらず睡眠時間を削って読むこと
もし、「人生であと一冊だけ本が読めるとしたら?」と聞かれたら、迷わずこの作品を選ぶことだろう。
ぜひ皆さんにもこの感動を味わっていただきたいと思う。
以上。
荻原浩のおすすめ作品でした。