どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
今回は大好きな作家の作品を紹介しよう。めっちゃ嬉しい。
概要
昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける―。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティーで描く傑作ミステリ。
まずは率直な評価を。
傑作です。
うん、読書ブロガーとしてはあんまり軽々しく使うべき言葉じゃないのは分かってる。
でも正直な感想だ。
毎日のように小説を読み漁ってる私でも、1年に1回出会えるかどうかのレベルの作品だ。これを傑作と呼ばずに何が傑作だ。『リアル鬼ごっこ』か?
深みと濃さが桁違い
奥田英朗の真骨頂を存分に味わえる本書なんだけど、やっぱり一番凄いのは“人物描写”。人間を書かせたら日本屈指の実力を持った御方なので、こういう超長編だとやりたい放題ですな。面白さでボッコボコにされる感じ。あー、幸せ。
このブログでは何度も書いているが、奥田英朗は物語のプロット自体には実はそこまで固執してなくて、「人物を書き込めれば、勝手に面白い物語ができる」と豪語している。
実際、作品の傾向を見てもプロットでねじ伏せる系の作品ってのは、ちょっと思いつかない。『真夜中のマーチ』ぐらいかな?
奥田英朗の場合、尻切れトンボだとか、風呂敷が畳めてないと言われてもおかしくないような作品が、「傑作」と評価されてることが多い。
それはやっぱり、人物の魅力とか説得力で読者を楽しませているからだろう。物語がどれだけとっちらかってても素直に受け入れちゃうのだ。
で、今回の『罪の轍』も、とにかく人物描写の深みと濃さが桁違い。作品世界にどっぷり浸からせてもらおう。
ギアの入り方は遅め
『罪の轍』でひとつ注意してもらいたいことがある。
人物の書き込みが綿密な分、物語がとてもスロースターターなことだ。
読み始めはちょっとじれったいと思うかもしれない。実は私も思った。「どっから面白くなんだ?」って。
でも奥田英朗と私を信じでぐっとこらえてほしい。
後半で尻上がり的に面白くなるための布石を、ちょっとずつ確実に打っているのが前半なのである。読者の中に「面白さの土壌」を育む必須工程だ。ぜひじっくり付き合ってほしい。そんなんで挫折したら超もったいない。こんなに面白い作品、そうそうないからな!
最初がスローな分、後半の加速度は半端ではない。振り落とされないように気をつけてほしい。面白さで気絶しないようにしてほしい。読めば読むほど、のめり込んでくから。のめり込みすぎて、ページに顔が埋まらないように気をつけてくれ。私はもう埋まってしまったので、このまま『罪の轍』と一生を添い遂げる覚悟だ。
『オリンピックの身代金』の影がちらつく
これはどうしても避けられないと思うんだけど、『罪の轍』を読んでいる間、『オリンピックの身代金』をどうしても思い出してしまった。影がちらつく。
というのも、時代背景は完全に同じだし、人物に狭く深く焦点を当てて濃く描いている部分とか、警察の熱い攻防とか、とにかく重なる部分が多い。もしかしたら、『オリンピックの身代金』を書いているときに出てきたアイデアが使われてるのかもしれない。そう思っちゃうぐらい作風が似通ってる。
でもその結果、『オリンピックの身代金』という超名作と双璧をなす作品になった。なりやがった。
私の中で『オリンピックの身代金』は人生ベスト10に入る作品だったので、正直ね、「もうこのレベルはもう読めないな…」って諦めてたんだよね。だから嬉しい誤算。めっちゃハッピー。テンションが上りすぎて駅のホームから飛び降りたい気分だ。
やっぱり奥田英朗は偉い。あの皮膚面積の比率が高い頭部にキスをしてあげたい。ぜひ連絡を欲しい。リップクリームを塗って準備しておくから。最高の接吻をお見舞いしてやろう。
苦しんだ最後
物語的に最後の方はかなり苦しい展開なんだけど、それに輪をかけて辛かったことがある。
読み終えたくないのだ。面白すぎて。
分かるだろうか。そしてそんな経験をしたことがあるだろうか。こんなブログを読んでくれている変態たちなら共感してくれると信じている。自分のツボに嵌った作品に出会ったときに、左手のページ数が減っていく切なさを。
だから、「早く先が読みたい!」っていう欲求と、「もったいないから読み終えたくない!」っていう欲求がぶつかり合ってしまい、真夜中に何度も本を閉じたり開いたりしたよ。無駄に散歩に行ったりね。欲求が完全にバグってた。
あと、私が『罪の轍』を読み終えた日は、全然そんなつもりはなくて「寝る前にちょっと読むか」ぐらいだった。翌日仕事だったし。
なのに、ちょっと読んだだけでのめり込んでしまって、本の中に顔が入っちゃったから、気が付けば寝なきゃいけない時間から4時間押し。ヤバい。脳内でサイレンが鳴り響いたよ。明日の仕事はどうするんだって。リアル馳星周だ。
でも無理。面白い作品の前では、こんなオッサンも従順な雌犬ですわ。別に牡犬でもいいけど。大人しく睡眠時間を差し出したよね。献上させていただきましたよ。
しかも、読み終えても興奮で目が冴えちゃって、全然寝れねえでやんの。翌日キツかったなぁ…。でもその価値があったなぁ…。
つまり、『罪の轍』は健康を損なうレベルの面白さってこと。 罪深いにもほどがある作品なのである。
以上。