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フリが最高なだけでは通用しないのが小説。薬丸岳『神の子』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

大好きな作家のハズレ作品にぶち当たると、妙な愛おしさが湧いてくる程度にはマニアです。

マニアは母性。これを忘れるな。

 

内容紹介

 

 

少年院入所時の知能検査でIQ161以上を記録した町田博史。戸籍すら持たぬ数奇な境遇の中、他人を顧みず、己の頭脳だけを頼りに生きてきた。そして、収容された少年たちと決行した脱走事件の結末は、予想だにしなかった日々を彼にもたらすこととなる―。一方、闇社会に潜み、自らの手を汚さずに犯罪を重ねる男・室井は、不穏な思惑の下、町田を執拗に追い求めていた。 

 

まずは素直な感想から。

 

駄作。

 

著者の薬丸岳には申し訳ないが、これは全然ダメである

ダメな子をわざわざけなす必要もないかもしれないが、これも読書中毒ブロガーとしての使命のひとつである。何がそんなにダメなのか、事細かにつぶさに執拗に粘着質にあげつらいたい。要は嫌われ役を買って出よう、という話である。我ながら思うが、一体誰が得をする記事なのだ。

 

構成がダメ

何がダメって、構成がゆるすぎる。同じ展開の連続。クライマックスをあれだけ煽ってくるから、どんだけ派手に盛り上がるのかと期待してたら、めっちゃ湿気ってるし。 あれだけ爆発力のないクライマックスもめずらしい。しかもこれ上下巻だからな。それだけの長さがあったら、見合うだけのクライマックスを期待しちゃうのは仕方ないだろう。

 

『神の子』は間違いなくダメな作品なのだが、だからといってネタバレをする気はない。ブスだからって、裸にしてイジメていいわけではないのだ。そもそもイジメていいのか、ということはまたの機会に考えるとしよう。来世あたりで。

 

連載ものは方向性を見失いやすい

たぶんだが、この『神の子』、ラストシーンをぼんやりとしか考えていなかったんじゃないだろうか。ストーリー的にはけっこう分かりやすくて、ラスボス的存在が明らかにいるので、そいつを倒せば終わりなのだが、それしか決めていなかったっぽい。

 

『神の子』は新聞連載の作品である。

以前にも新聞連載作品で似たような失敗を見たことがある。つまり、連載で読者の反応を見ながら書かれた作品は、方向性を見失う、というものである。

マンガを例に考えてもらえれば納得できると思うのだが、連載の人気を維持するためには、読者の反応をリアルタイムに参考にしなければならない。または、毎話ごとに盛り上がる箇所を作らなければならなくなる。そうでないと途端に読者は「今回はつまらない」と言い出すからだ。そのシーンが作品にとって必要だったとしてもだ。

連載の面白さと、単行本としてまとめて読むときの面白さは、まったく別物と言っても差し支えない。それぐらい相容れないものなのだ。

だからマンガではときに「連載中はあんなに面白かったのに、ラストはクソ」みたいな作品が多いのである。むしろ綺麗に終われる作品の方が稀である。

物語である以上、終わりがあることなんて作者は百も承知なのに、目の前の連載に余裕をすべて奪われしまうから、こんな悲劇が起こる。

 

※参考記事

www.orehero.net

 

無駄に途中までは面白い

途中までは面白かったことは認めたい。

設定も素晴らしいし、思わせぶりな展開が続いてたから、期待値はかなり高かった。この辺りはさすがだと思う。地力が高い作家なのだ。数々の名作を上梓してきたのは伊達ではない。

ただ、悲しいかな途中まで面白いがゆえにラストのショボさが引き立ってしまうのだ

マンガであればラストがクソでも連載中の面白さでガツンで売ることができる。

しかし小説ではそれは許されない。まるで逆だ。小説はほとんど場合、完成品を提供するのでラストの素晴らしさこそが評価の対象になる。だから「衝撃の展開」とか「感涙のラスト」みたいなものがウケるのだ。もっと言えば、ラストさえ素晴らしかったら、それなりの評価を永遠に受け続けることができる。『占星術殺人事件』とか『十角館の殺人』とか。

 

長編である意味

このブログでは何度も書いていることだが、長編作品というのは「その長さが必要だから長編」なのであって、だらだらと瞑想した挙げ句に「なんか長くなっちゃいました、テヘッ!」では話にならないのだ。

他の作品を引き合いに出すのは申し訳ないが、森絵都の『みかづき』なんかを見習ってほしい。数々のドラマを折り重ね、時間を経て生まれるものを表現している。これこそが「長編である意味」である。

 

※参考記事

www.orehero.net

 

物語とは簡単に言えば「問題の発生から解決」である。

長編にするのは、それだけ「難しい問題」だからだ。試行錯誤が必要な問題だからこそ、長きに渡って読者を付き合わせる必要があるのだ。

それを考えると『神の子』で語られる問題は、上下巻にするほどのものだっただろうか?疑問である。読者の時間だって有限であることを忘れないでほしい。

 

あと、一番ダメなのはこんなに面白そうなタイトルと付けたこと。なんだ『神の子』って。絶対に当たりでしょ。薬丸岳みたいな作家がこんなタイトルで本を出したら、そりゃ期待値も高まるよ。

 

こうやって余計にハードルを上げてしまったことが、この作品の敗因である。

 

以上。

 

 

ちなみに薬丸岳でオススメは、こちらの3作品。

 

少年犯罪の苦悩を真正面から描いた『Aではない君と』 

 

 

強烈なデビュー作『天使のナイフ』 

 

 

映画化もされた『友罪』

 

 

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