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新感覚という言葉さえ生ぬるい。恒川光太郎『滅びの園』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

変態ホラー作家が生み出した、隠れた名作をご紹介しよう。

 

 

内容紹介

 

 

世界は終末に向けて暴走してゆく。 人類に、希望はあるのか――。

突如天空に現れた<未知なるもの>。 世界で増殖する不定形生物プーニー。 抵抗値の低い者はプーニーを見るだけで倒れ、長く活動することはできない。 混迷を極める世界を救う可能性のある作戦は、ただ一つ――。

 

 

恒川光太郎の魅力

 

作者の恒川光太郎は「読者をここではないどこかへ連れて行く作家」と評されている。

 

緻密に組み上げられた舞台設定。

日常からするりと非日常へと連れ込むストーリーテリング。

そして、読者の脳内に鮮やかに異世界を描き出す描写力。

 

それらが合わさり、読者を“ここではないどこか”へと誘う。

そんな恒川節とも言える彼の魅力は、デビュー作である『夜市』からいきなり発揮されていて、日本ホラー小説大賞を受賞した。素晴らしい才能を有した作家だと思う。

このレビューを書いている2018年11月現在、彼の最新作となる『滅びの園』も変わらず恒川光太郎の魔術が炸裂している。

ここまで徹底していると、なにか得体の知れないものを恒川光太郎自体に私は感じてしまう。
ちょっとバカバカしいかもしれないが、作品を読みながら恒川光太郎の存在が非現実的な、それこそ異世界の住人が書いた作品を読んでいるような、そんな想像をしてしまう。

 

 

正体不明の面白さ

 

で、『滅びの園』だが、私の率直な評価を記す。

なんで面白いのか分からない

これである。

決して「面白さが分からない」ではない。間違いなく面白かったし、ガリガリ読み込んだ。作品世界に入り込んだ。

なのにだ。読み終えたあと私の中に湧いてきた感想は「なんじゃこりゃ」だったのだ。

これまでさんざん小説のレビューを書いてきたし、ある程度作品の面白さの理由を解明することができるものだと思っていたが、この『滅びの園』に関しては、さっぱりだった。

面白かったのは間違いないのに、自分がなにを楽しんでいたのか分からない。

さっきまで手の中に確かにあったはずのものが、いつの間にか消え去っている。そしてどんなものだったのか、不確かになってしまう。

それこそさっきまで“ここではないどこか”に行っていたかのように…。

「恒川光太郎って、どんな話を書くの?」と聞かれたら私はたぶん答えられない。言葉を必死に探して、それっぽい言葉を選び出すかもしれないが、自分で語りながら「違う、全然違う!」と思ってしまうだろう。違うのは分かる、でも何が違うのか分からない。

とまあそんな感じなので、いつものように作品の面白さを分析して理由を挙げ連ねることは今回の記事ではできません。諦めました。

なので、自分なりに感じたこと、気づいたことをひたすら挙げてみる。それで少しぐらいは何か伝わるかもしれない、という淡い期待を持っている次第である。

 

 

世界の終わりなのに、悲痛さが全然ない

 

ネタバレをしない主義なので詳しくは書かないが、『滅びの園』は世界の滅亡を描いた作品である。もちろんそこは変態作家恒川光太郎なので、普通の終わりではない。誰も見たことがない終末が用意されている。

で、全編に渡って終末の世界を描いているのだが、それなのにあるものが足りない。普通のエンタメ作品であれば、必須とも言えるあれがない


それは、阿鼻叫喚である。

世界の滅亡とは切っても切れないマストイベント。それが阿鼻叫喚である。シーンを盛り上げることもできるし、作品に緊張感を持たせることができる、とっても便利な描写である。

でもなぜかそれが出てこない。あえて書いていないのだろうか。だとしたらなぜ?

正直、理由は分からない。だが恒川光太郎が書かなかったということは『滅びの園』において、この作品世界の終末において、分かりやすい阿鼻叫喚は必要ない、と判断したわけだ。理由は分からないけれども、それだけで何か伝わるものがあるんじゃないだろうか。

 

 

ドラマをあえて書いていない?

 

冷静に作品を眺めてみると、極端にドラマを排しているように思える

そういえば、考えてみればデビュー作の『夜市』にもそういう傾向があった。

もしかして、単純に人の心の機微とか、そういうのに恒川光太郎は興味がないのかもしれない。会話劇みたいなのも全然ないし…。

はたまた、感情を濃く描かないことで狙っている効果があるのだろうか。確かに独特の空気感がゴリゴリに出ているし、そういうことなのだろうか?

その一方で人間ドラマは控えめなのに、出来事はやたらと語られる。淡々と出来事を並べ立ててくる。濃い情報量で押してくる。出来事を語ることで、物語を進めている印象だ。

この辺りに恒川光太郎作品独特の読み味というか、血の通ってなさみたいなものを感じるのかもしれない。無表情で身体にナイフを突き立てられるような、そんな感覚があった。

でもそれだけ出来事を語るので、いちいち全ては説明しないものの「世界観を緻密に作りあげている」ということがよく伝わってくる。作品世界の奥深さにゾッとしてしまうぐらいだ。

 

 

やっぱり分からない

 

なんだか分からないばかりを書いているよく分からない記事になってしまっているが、どれもこれも作者である恒川光太郎が悪い。よく分からないのに面白いって、どうやって自分の中で整理を付けたらいいんじゃい。

泣き笑いとか感情の激しい起伏があるからエンタメになるはずなのに、そういったものが全然ないのに、それなのにドラマチックだし…。マジでなんなんだこれ。新感覚って言葉で括っていいレベルじゃねーぞ。

それにしても、デビュー作からして異色で、未だに異色の作品を書き続けているなんて、本当に世の中、色んな変態がいるんですね。

以上。

 

 

 

 

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