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舐めたらアカンぜ。隠れた名作『有頂天家族』森見登美彦

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どうも。

日本で一番毛深い小説を紹介しよう。

内容紹介

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

森見 登美彦 幻冬舎 2010-08-05
売り上げランキング : 4994
by ヨメレバ

第20回山本周五郎賞受賞第一作!著者が「今まで一番書きたかった作品」と語る渾身の作。

「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。

私は森見登美彦の強烈なファンである。彼の著作は発刊されたら即刻手にするようにしている。ふざけた作品も奇々怪々な作品もどちらも愛している。私の文章に似通った部分を感じる方も少なからずいるんじゃなかろうか。

そんな彼の作品の中でも特に異色を放っているのが今回紹介する『有頂天家族』である。

 

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森見作品の中で一番面白い!

森見登美彦作品で一番を挙げろと言われたら、私は間違いなく『有頂天家族』を選ぶ。それくらいの傑作である。傑作というとちょっと言い過ぎか。毛深い作品ぐらいにしておくか。まあそれくらいの作品である。よく分からんか。それは私も同意見である。

ふざけた紹介はこの程度にしておくとして。

毎度毎度腐れ大学生を主人公に据えたがる森見登美彦だが、今回はなんと狸である。まあ結局変身して腐れ大学生になってしまうのだが。 

あなたが言いたいことはよく分かる。誰が狸の話なんか読みたいと思うんだと言いたいのだろう。

その通りだ。私もまったく同じことを考えた。毎回森見登美彦の新刊を買う私だが、『有頂天家族』のときはさすがに躊躇した。駄作の臭いがプンプンしたからだ。

私が森見登美彦に求めるのは、あのふざけた文章とクソみたいな主人公から出てくるクソみたいな物語である。それが堪らなかったのだ。

だから主人公が“狸”というのはマイナスポイントでしかなかった。

ごめんなさい、極上のエンタメでした

だが、私の予想は簡単に裏切られる。

やはり森見登美彦は只者では無かったのだ。

狸だけでこんなにも極上のエンタメ作品を創り出すとは恐れ入った。正確には狸だけではなく天狗も出てくるがまあそんなことはよろしい。

とにかく超絶のエンタメである。これを楽しめない人は日本に存在しないだろう。

切なさと感動もあります

笑いとドタバタが基本にありつつも、偉大な父との別れや狸としての本分を忘れてしまった兄など切なさの要素も含まれている。ここがポイントである。

ただのドタバタ劇であればそこまでの高評価は得られなかっただろう。だが森見登美彦はちゃんと物語に“切なさ”と“感動”のエッセンスを振りかけてあるのだ。それによって物語が締まったものになった。読後の満足感もひとしおである。

不覚にも狸に泣かされたし、奥さんに読ませたら「狸で感動すると思わなかった!」と興奮していた。

そんな異常な体験をさせてくれる作品である。ただ毛深いだけではないのだ。

 

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主人公の危うさが肝

主人公の矢三郎(もちろん狸)が物語を回す役目を担っているのだが、これがちょっと面白い。

基本的にこういったエンタメものは主人公が振り回され、翻弄されることで読者が擬似的に物語世界を楽しめるようにするのが王道である。

つまり主人公が揺さぶられれば揺さぶれるほど読者はそのジェットコースターを体感できるというわけだ。

だがどうだろうか、この主人公。なんだかブレなさすぎる。落ち着いているとは違う。

イカれた父親同様に「面白きことは良きことなり!」が全ての価値判断基準になっており、破滅志向さえも感じさせる。だからこそどんな危険な場面でもどこかそれを望んでいるように感じられる。

そんな危うさがあるからこそ、読者は逆に翻弄されてしまうのだ。「矢三郎、どこまで踏み込むつもりなの?」と。

そしてそれとはまた別の側面も矢三郎は持っている。

矢三郎はさきほど書いた通り恐れ知らずなので、どこまで行っても“平気”なのである。言い換えるならば“無敵”だろうか。ここが読者を魅了するポイントになる。

のび太的主人公の場合、読者は感情移入することで物語を楽しむ。

その一方で、ONE PIECEのルフィやベルセルクのガッツのように「感情移入させない」主人公も存在する。

ではその主人公に読者はどうやって付き合うのか。

依存である。頼るのだ。物語の行く末を託し、それを見守るのだ。

この信頼感が作品の信頼と直結する。無条件で受け入れるようになる。主人公が無敵であるメリットはここにある。

メディアミックスも展開されている

さあこれだけ極上のエンタメである。他媒体が放っておかないのはいつもの流れである。

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しかも作画が久米田康治とは随分豪華な作品である。 

私は基本的に映像化作品は観ないようにしているのだが、続編も制作されているぐらいなので、かなりの人気を博しているのだろう。

痛快無比!!

『有頂天家族』は現在二巻まで発表されている。一応、三部作と言われているが、今のところ森見登美彦が執筆している様子はない。非常に待ち遠しい限りである。

有頂天家族 二代目の帰朝

森見 登美彦 幻冬舎 2015-02-26
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これだけの作品である。そんなに簡単には終わらなそうなので、きっと森見登美彦もどうやって物語をしめようか悩んでいるのだろう。まあ毎度悩んでいるんだけどさ。

 

さあ、これで『有頂天家族』の紹介は終わりにしたいと思う。

こんなにも痛快無比な作品はそうそうない。狸たちの毛深い愛と冒険の数々に胸を熱くしてもらいたいものだ。

 

一人でも多くの人の手にこの物語が届きますよう。

 

以上。

 

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

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