どうも。大好きな小説の話をしよう。
遅筆作家が仕上げた一大叙事詩
貴志祐介と言えば、小説好きの中では「遅筆」として有名である。今回紹介する『新世界より』を発表するまでの間、なんと4年間も何も発表していなかった。2ちゃんねるではよく「エロゲのやりすぎで執筆意欲が無くなった」という話が持ち上がっていた。私には「貴志祐介=エロゲ」の認識がないのでよく分からないが、きっとみんなが言うのだからきっとそうなのだろう。大体、性欲を満たしちゃうと創作意欲って無くなるらしいしね!
ということで『新世界より』である。
Amazonの紹介文を引用させてもらう。
新世界より(上) (講談社文庫) | ||||
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ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
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いきなりファンタジー…?
この作品が発表されるまで貴志祐介はかなりリアル路線で作品を上梓してきた。ファンタジーの要素があったのはぎりぎりISOLA ぐらいだろうか?
なのでそれまでの貴志祐介テイストを楽しみに4年間沈黙に耐えてきたファンとしては、「貴志め…遂に才能を使い果たしたか…」と思わずにはいられなかった。作家の才能が枯渇することは仕方のないこととはいえ、あの禿頭を引っ叩きたくなったものだ。
とはいえこちらは完全なる「貴志中毒患者」である。ファンタジーという明らかに待っていたものとは違う作品であったとしても、読まない訳にはいかない。それくらい4年というのはファンには長すぎた時間だったのだ。
読んで興奮、読み終わって宣伝
結論から言うと、この記事のタイトル通りである。
あの禿げめ、まさかこんな傑作を練り上げていたとは…。信じて待った甲斐があったよ。
面白い本は世の中にそれなりに出回っているが、もっと希少な最高に面白い本である「徹夜本」というものがある。
翌日どれだけ重要な用があって寝なきゃいけない状態でも、それでも読書を優先させてしまう作品のことを指す。
私にとって、『新世界より』はそんな数少ない「徹夜本」の一冊である。
翌日、仕事が控えていることも忘れ、ひたすら物語を貪った。脳は異常なまでの興奮と快感にヒートアップし、自分が本を読んでいることさえも忘却の彼方であった。当時はワンルームのアパートに住んでいたのだが、私の存在はその場から完全に消え去り物語世界の中に溶け込んでいた。たぶん、麻薬をやっているときってのはあんな感じなのだろう。やったことないから分からんけど。
そして、それだけ興奮した後は熱狂的な信者がやるあれである。布教活動だ。
このブログでは再三『新世界より』をオススメし、これまでに100冊ぐらいは売っているんじゃないだろうか。それだけ私の文章に熱が篭っていたのだろう。
長い?いえいえ長いからこそ
この作品の良さを書き出すとキリがない。こんな駄文を読むような時間があるのであれば、さっさと本書を手にとって読んでもらいたい。人生は有限なのだ。ムダにしてもらいたくないと思う。
とは言うものの、皆さんはきっと評判の良い『新世界より』を読む前に、本当に読むべき作品かどうかを確かめたがっているのだろう。読書ブロガーの私としてはその期待に答えるべきだろう。ネタバレは限界まで排除した上で、紹介してみたいと思う。
まず『新世界より』を読む上でネックになるのはその分量だと思う。
ある程度の本好きになると分量はむしろセールスポイントになりえるのだが、初心者を追い払うのにこんなに効果的なポイントはない。
だが、あえて言おう。この作品は長いからこそ面白いのだと。上中下巻だからこそ、こんなにも読者を興奮のるつぼに叩き込めるのだと。
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面白さが加速していく
素晴らしい作品というのは、観客を運ぶのが上手い。どんどんのめり込ませる。映画やマンガでもそういう作品のひとつやふたつは思い浮かぶと思う。
『新世界より』はまさにそういった作品である。
上巻で物語に引きずり込まれる。謎が謎を呼ぶ展開となんとも怪しさに満ちた雰囲気にやられる。そして中巻で物語の中枢に切り込んでいく。一度火が消えたと思っていた部分から出火し始め、急速に物語が流転してく。そして下巻では最高潮に高まった読者のテンションに合わせるように最高の展開が繰り広げられる。
何が凄いって、作中を通してずっと面白いのもそうだが、上<中<下とどんどん面白くなっていく所だろう。
あまりにも振り回されたから読後はぐったりしてしまったぐらいだ。「どんな脳みそしてんだよ…」と貴志祐介の才能にひれ伏したい気分だった。
傷がないわけじゃない
褒め褒め一辺倒だと逆に怪しくなるかもしれないので、バランスを取るためにあえて苦言も呈しておこう。
くそ面白いのは間違いないのだが、傷がないわけでもない。これだけ面白い物語になると、ある条件が出てくる。これは面白いと評価される作品はどれもが持つ条件だ。
それは「舞台説明」である。
できるだけ自然に読者にとって負担にならない程度に舞台説明をするのが、1番なのだが、そうそう簡単にはいかない。
設定が突飛であればあるほど、現実世界とはかけ離れているいればいるほど、読者を未知の世界へと誘うことができる。より興奮させることができる。
そのためには舞台説明が大量になることはしばしばだし、それによって脱落者が出てくるのは仕方のないことだと思う。よく聞く話である。
弩級のエンタメをあなたに
とまあそんな瑕疵はあるものの、『新世界より』が紛うことなき傑作である事実は揺るがない。思う存分、脳汁を放出させながら小説的快楽に溺れてもらいたいと思う次第だ。
ちなみに言っておくが、この作品で何か得たり、学んだりしようなんて思わないことだ。ここまでエンタメど真ん中で、ただただ読者を楽しませるだけに特化した作品を、そんな不純な目で見てほしくない。素直に楽しめばいいのだ。ディズニーランドみたいなもんである。作者はただの禿だが、まあある意味夢の国だろう。意味はよく分からんが。
エンタメ小説のお手本のような作品である。ぜひとも味わって頂きたい。
以上。
新世界より(上) (講談社文庫) | ||||
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