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キャラクターが生きてるって、つまりは。平田オリザ『幕が上がる』

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

今回はオススメ小説のご紹介。一味違う青春ものである。

 

内容紹介

 

地方の高校演劇部を指導することになった教師が部員たちに全国大会を意識させる。高い目標を得た部員たちは恋や勉強よりも演劇ひとすじの日々に。演劇強豪校からの転入生に戸惑い、一つの台詞に葛藤する役者と演出家。彼女たちが到達した最終幕はどんな色模様になるのか。涙と爽快感を呼ぶ青春小説の決定版! 

 

劇作家として活躍する平田オリザ(男性です)による、初の長編小説である。

氏のことはまったく知らなかったのだが、ももクロが主演でこの作品を映画化したのがきっかけで手にとったと記憶している。

で、これが大当たり。結構しばらく積んであった作品で、なかなか食指が動かず「このまま一生読まないかも」と思ったときもあったぐらいなので、読んで良かったと心底安堵している。やっぱり本ってのは運とタイミングですわ。

 

『幕が上がる』の魅力まとめ

では『幕が上がる』の大きな魅力を、ざっくりとまとめてみよう。選書の参考にしていただきたい。

 

・高校演劇というちょっとマイナーなテーマ。でもだからこそ「知れる」とか「覗ける」みたいな楽しみ方ができる。読書好きなら絶対に、知らない世界を覗くのって好きでしょ?

・高校生を描いてるから色んな葛藤は避けられない話題。青春モノの美味しい所はしっかり用意されている。

・キャラクターたちの生々しさが良い。本当にリアルかどうかじゃなくて、「ありそう」と思わせるところが大事。

・一番「すげえ!」と思ったのは、キャラクターたちが“演じて”いないということ。

 

キャラクターが生きてるってこういうこと

『幕が上がる』の最大の魅力は、登場人物たちの造形にある。

これが著者の劇作家としての経歴から来るものなのか分からないが、独特なキャラの描き方をしている。

後半に、ちょっと他の作品ではあまり見られない展開が待っているのだが、それも登場人物たちの“演じてなさ”に起因する。詳しくはネタバレになるので、言及は避ける。

 

当たり前の話だが、創作物において登場人物というのは、物語を紡ぎ出すためのアイテムである。ピースと言ってもいいだろう。卵が先か鳥が先か、みたいな話になってしまうがとりあえず、登場人物の行動の積み重ねが物語なのである。なので、物語側から見れば登場人物たちはピースであり、行動のひとつひとつは、要素でしかない。

どれだけたくさんの登場人物が出て、どれだけ多様な行動を起こそうが、それは物語という川の中にある、流れのひとつでしかない。

なので、読者である私たちも、当然ながら作者もまた、登場人物には「こういう役割だろう」と決めつけて見てしまう所がある。そうすることで、物語を把握しやすくなる。

しかし、それは登場人物が駒を演じているだけであり、本当に生きているとは言えない。生きてないから当たり前なんだけど。

 

演じてないから生まれるもの

そこで凄いのが『幕が上がる』である。繰り返すが、演じていないのである。確かにある程度の割り振られている感はあるが、7割ぐらいは「勝手にやってる」のである。

小説においてこれってなかなかない。だって、ONE PIECEでみんなが戦ってるときにルフィが「自分の時間がほしい」とかって引っ込んだら、訳わかんなくなるでしょ。物語が自然に流れているのは、それだけ登場人物たちが都合のいい働きをしているということなのだ。

 

自分自身の周りを見ればすぐに分かるが、自分に都合のいい動きをしてくれる人なんて、ほとんどいない。みんな勝手に生きている。

誰もが自分という物語を生きているつもりになっているけれど、映画や小説のような物語にならないのは、やっぱり周りが自分という物語において役割を演じてくれないからである。

 

そんな自然だけど、物語としてはとても不自然なものが『幕が上がる』では描かれている。そしてだから面白い。

 

以上。