ただのサクセスストーリーだと思ったら大間違いです。
どうも、読書ブロガーのひろたつです。今回は最高にクレイジーな書籍の紹介。
不可能を達成した男の半生記
NHKのプロフェッショナルで紹介され、一大ベストセラーになった本書。
私は基本的に天邪鬼なので、みんなが読んでいる本というのは読まないようにしている。誰も知らないことにこそ価値があると思っている。
なので本来であれば、こんなベストセラーは読まないのだが、アマゾンプライムのサービスのひとつである『PrimeReading』でタダだったので試しに読んでみた。
まあ、こうやって読書中毒ブロガーとして他人に“面白い本”を紹介している手前、それなりに人気のものも読まなければならないという義務感もあったりする。経済活動の奴隷です、よろしくどうぞ。
で、本書の中身を説明したいのだが、Amazonの紹介文にはこのような説明がされている。引用させていただこう。
ニュートンよりも、ライト兄弟よりも、偉大な奇跡を成し遂げた男の物語。
雑すぎない?
そんな偉大な功績があるおっさんの半生を記した本なのに、紹介文が雑すぎやしませんか?
これだとあまりにも中身が伝わらないので、私の拙い文章で要約してみると、こんな感じである。
「ニュートンよりも、ライト兄弟よりも、はるかにクレイジーなおっさんのクレイジーすぎる物語」
これである。これ以外の説明は必要ないだろう。
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ノンフィクションです
物語とは書いてあるが、フィクションではない。ノンフィクションである。フィクションだと思いたくなるような内容だが、ノンフィクションである。
本書の主役である木村秋則が成し遂げたのは、“リンゴの完全無農薬無肥料栽培”である。
最初、これを目にしたとき私は、「無農薬無肥料なんて、そこら中で見かけるけど」なんて思ったものだ。なので、書店でこの本を見かけたときも特段興味を抱かなかった。悪いが「ありふれたこと」だと思っていたのだ。
しかし、本書を読み終わった今の私はまったく違う感想を持っている。
確かに奇跡だ、と。
あまり知られていないだろうが、リンゴというのは他の農作物に比べ、最も農薬や肥料に依存している。農薬も肥料も使わなければ、あっという間にリンゴの木は病気になり、虫に襲われる。そしてそのまま枯れ果ててしまう。
つまり、我々が食べているリンゴというものは、農薬や肥料を使うことが前提で成り立っている果物なのだ。
もちろん、農薬や肥料を使っていなかった時代にもリンゴはあったのだが、それは今のような甘いリンゴではなく、砂糖で漬け込んだりして食べるようなものだった。それ自体では甘さはまったくないシロモノである。まるで別物だ。
そんなデリケートな果物であるリンゴをふとしたキッカケから「完全無農薬無肥料で栽培してみよう」と思い立った木村秋則。
そして実際に行動に移すのだが、これがもうクレイジーすぎるエピソードの連発である。小説を読んでいるような気分になった。現実感が無さ過ぎである。
ありふれたサクセスストーリー?
詳しい内容は本書を読んでからのお楽しみ、ということであえて触れない。
ただこれは、巷によくあるような苦労した農家のサクセスストーリーなんかではない。
確かに挫折を経験し、最終的には“リンゴの完全無農薬無肥料栽培”を成功させるのだが、そこはあくまでも物語の結末なだけで、この本の価値とはまた別のものだと私は捉えている。
ちょっと話がずれるかもしれないが、この本を読んでいたとき、私が働いている会社はいわゆる“繁忙期”というやつで、とにかく忙しかった。寝る暇がないとまでは言わないが、とにかく余裕のある時間がない。仕事、食事、風呂、トイレ、だけで起きている時間を使い切ってしまうような生活サイクルである。
日々の業務は苛烈を極めている。休息の時間である睡眠時間は少しでも確保するべきだ。
なのにも関わらず、私は本書『奇跡のリンゴ』をわざわざ睡眠時間を削ってまで読んでいた。それくらい面白かったのだ。
今まで小説での一気読みは、幾度となく経験してきた私だが、ノンフィクションでは初めての経験である。本当に強烈な読書体験だった。
クレイジーな人は面白い。…離れていれば
“リンゴの完全無農薬無肥料栽培”を成功させた木村秋則という男は偉大である。しかしそれと同時にあまりにもクレイジーすぎる。無謀な挑戦をするのはその人の勝手だろうが、それでも奥さんも子供もいるのにも関わらず、これだけの挑戦をしてしまうのは、やはり常人ではない。言葉は悪いが、完全にイカれている。
で、本書最大の面白さはこのクレイジーさにある。
結局、私のような普通の殻から出られないような人間は、非日常をどこかしらで欲しているのだ。安全な場所を確保しながらも、危険を覗き込んでみたい。あわよくば疑似体験してみたい。
そこに、正真正銘にクレイジーな木村秋則という男は、我々の欲求にすっぽりと当てはまる。
テレビ番組の『クレイジージャーニー』をご存知だろうか。あの番組と同じ魅力がこの男にはある。
自分とはまったく違う世界に生き、そしてまったく違う行動基準を持つ人間。そんな人間の生き様は、ただ生きているだけでエンターテイメントになりえる。クレイジーな人は面白いのだ。
ただやっぱり、すぐそばにこんな人がいたら迷惑だと思う。
あなたの近くにもいないだろうか。話を聞く分には面白いけど、実際に接するとウザくて仕方ないようなクレイジーな人が。
他人事だから笑えることは多い。
一気読み必至!
リンゴ栽培、クレイジーな主役、読みやすい文章、テレビで取り上げられた、などなど、普段本を読まないような方にも自信を持ってオススメできるのが本書である。間違いなく一気読みをすることになるだろう。
ちなみに、この本を読んだあとは
「じゃあ、その奇跡のリンゴとやらを食べてみようじゃないか」
と思う。
しかし「奇跡のリンゴ」で検索しても、残念なことにろくな結果が得られない。
まあそれは読み終わった後にでも試してもらいたい。まずは本書を読んで、興奮の読書体験を味わってもらいたいと思う。
きっとそれは、奇跡のリンゴを食べるに等しい経験になることだろうから。
以上。
蛇足。
奇跡のリンゴについて、ネットで腐るほど批判の記事が出ているが、どれも的を射ていない。笑ってしまうほどに。
中には農業に詳しい専門家みたいな人の記事もあって、知識を元にした批判をしていが、それも完全に本書が売れていることに対しては意見なのであれば、見当違いも甚だしい。
もしかしたらこうした人たちは、「奇跡のリンゴ」で検索した人を少しでも誘導しようと思っているのかもしれない。ブログを読んでもらうための餌なのかもしれない。せっかく書くならPVを少しでも上げられるような記事だろう。それは分かるし、別にそんな方法を使うことが悪いと言うつもりもない。ただ、ちょっと下品だと思うだけだ。
本書の魅力は記事の中でも書いた通り、“リンゴの完全無農薬無肥料栽培”がどうの、ではなく、木村秋則というクレイジーな男の生き様をエンタメとして楽しみことである。
重箱の隅をつつくような真似をしても、本書の価値は変わらないことを記しておく。