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これは最高のキャラ小説である。冲方丁『天地明察』

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どうも。

時代小説のフリをした最強のキャラ小説を紹介しよう。

内容紹介

天地明察(上) (角川文庫)

冲方 丁 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-05-18
売り上げランキング : 10250
by ヨメレバ

徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。 

本屋大賞を受賞するだけじゃ飽き足らず、V6岡田、宮崎あおいで実写化までされた『天地明察』。その魅力は小説世界だけじゃ収まらなかったのだろう。

というか、これを実写化しなかったら日本の映画界はダメでしょ。これだけ映像化する上でメリットの多い作品はそうそうないからね。

 

全然関係ないけど、宮崎あおいが可愛すぎて困る。

 

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本屋大賞は信用できる!

まず私が有権者の皆様に訴えたいのはこの作品が「第7回本屋大賞受賞作」であるということでございます(怒り新党風)。

これを最初に話題にしたのにはもちろん理由がある。そりゃあもう「本屋大賞」の素晴らしさを布教したい。その一心に他ならない。

他の記事でも書いているが、私は本を選ぶときに「〇〇賞受賞作」という文言は気にしないようにしている。最近じゃむしろ避けているぐらいだ。

もちろん書評家のコメントなんかクソほどにも参考にならんし、芸能人が書いた帯もノイズでしかない。むしろ不快である。

そんな中、私の中で面白い本を見つけるために指標となるのが「本屋大賞」なのだ。

このランキングには余計な力が加わっていない。日本中の愛すべき読書バカ(=

書店員)が本気で選んだ本たちなのだ。面白くないわけがないし、ランキングなのでそこまで極端な作品が選ばれることも少ない。だから信用できるのだ。

…まあその書店員たちが一生懸命勧めた作品が、けっきょくAmazonで売れるというのは悲しい現実だと思う。お願いだからAmazonは本屋大賞にお金を回してほしい。

キャラ小説だからこれ

このままだと本屋大賞を崇め祀るだけの記事になってしまうので話題を変える。

『天地明察』のあらすじは上の紹介文を読んでもらえばその通りである。

そうそう、話が逸れるがあの紹介文もちょっと狙いが入っているのにお気付きだろうか。時代小説にも関わらずあえて「プロジェクト」というカタカナ言葉を使っている。

これはその違和感で目を惹くという効果もあるだろうし、時代小説というと野蛮だったり単純といったイメージを持っている人が多いが、それを「プロジェクト」という文言を打つことによって、「何か知的なものがそこにある」と期待させるし、「江戸時代にそんな壮大で緻密な計画が行なわれていたって、どうやって?」と興味が掻きたてられる。たった一言にカッコを入れただけだが、上手い手だと思う。

で、そんな壮大で緻密な物語なのだが、読んでびっくり。これ完全に「キャラ小説」じゃん!

出て来る登場人物がどいつもこいつも最高で、とりわけ異彩を放っているのが水戸光圀。虎と呼ばれるほど凶暴な男が、主人公の「改暦プロジェクト」に魅了される様は秀逸。なんだろうあの感じ。ジャイアンが少女漫画にメロメロになっているのと同じ感覚かも。あぁ、そこには弱いのねと、思ってしまう。屈折したツンデレであろう。私は完全にやられた。

あとは算術の天才関孝和とかね。この人の優秀さは物語の中でも飛び抜けているのだが、もう興味が止まらない!速攻でwikiを読んでしまった。あんな漫画みたいな天才が実在してたという事実に、脳内に何かよく分からん物質が大量に放出されてしまう。←きっと伝わらない表現。

とにかくね、キャラがみんな最高。それだけ伝わればよし。

主役が食われても全然おk

振り返ってみると一番の偉業を成し遂げた主人公“渋川春海”は全然印象に残らなかったりする。完全に脇役に食われていた。

だが、それでこの作品の魅力が損なわれたかと言うと、全然違う。むしろ“引き立った”と言える。そこに私がこの作品を「キャラ小説だ!」と言い切る理由がある。

結局のところ、物語なんてのは読者を楽しませればそれでいい。ドキュメンタリーとはそこが違うと思う。別に物語の中に教訓や考えさせるもの入っていても構わないのだが、あくまでもそれはおまけだと思うし、教訓はその人の感性しだいでいくらでも見つけられるものだ。

で、これだけの強烈なキャラが揃った作品の中で、実は一番凄いことをするはずの主人公が一番地味ということの意味を説明したい。

まず前提にあるのは「人は比較対象があることで評価ができる」ということ。

そして「物語の中に読者を映し出す存在がいることで、物語世界に没頭できる」ということ。

このふたつの役割を担うのが主人公である渋川春海なのだ。

彼が脇役に食われるのは当然だ。なにせ、そのように配置されているのだから。渋川春海のおかげでこんなにも面白い作品になっているのだ。

魅力的なキャラクターたちははっきり言って、「非現実的」な存在である。実在しているし、性格や実績も事実通りだと思う。だがあまりにも普通の私たちはかけ離れた存在である。あまりにも強烈である。

そこを、物語の中に渋川春海というクッションが受け止めてくれることで、私たちは心置きなく濃ゆいキャラクターたちを楽しめるのだ。まるで檻越しに猛獣を眺めるように。

ちなみに私が最高に大好きになった江戸時代のジャイアンこと水戸光圀は、作者自身も気に入ったのか単独で作品になっている。あれだけのキャラを生み出したら、そりゃあ放っておけないだろう。

光圀伝 (上) (角川文庫)

冲方 丁 KADOKAWA/角川書店 2015-06-20
売り上げランキング : 27377
by ヨメレバ

 

壮大なストーリーを組み上げた作者に拍手

実は私はあまり時代小説を読まない。読まず嫌いだった。

しかし冲方丁によるこの壮大な物語に触れてからは、完全に時代小説の面白さにやられてしまった。どうしてくれるんだ冲方丁!ただでさえ読みたい本が溢れているというのに!

キャラクターの話ばかりを取り上げてしまったが、もちろんストーリーも素晴らしい。これだけ壮大で緻密な物語は、簡単に書けるものじゃない。元々、小説は簡単に書けるものじゃないのだが、それでも時代小説、しかもこんな国家プロジェクトを題材に書くのは並大抵の苦労じゃなかったと思う。素直に拍手を送りたい。

ネタバレをする気はないが、こんな物語なので結末はきっと皆さんの予想通りのものになると思う。

最近はやたらと「予想外の結末」が持て囃されている。確かにそれも物語の魅力だとは思う。

だけども、魅力的なキャクターが出てきて、普通の主人公がいて、壮大なプロジェクトに立ち向かい、きっと想像通りの結末が待っている、なんていう物語でも人は十分に楽しめるし、むしろ余計な小細工に頼らない分、健全だとさえ思うのだ。

 

だって、水戸黄門だっていつも同じ結末だけど、楽しみにしてる人がたくさんいるでしょ?

というのはきっと全然関係ないと思う。

 

本屋大賞に相応しい素晴らしい作品である。ぜひご賞味あれ。

以上。

天地明察(上) (角川文庫)

冲方 丁 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-05-18
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