どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
芸人というのは、基本的に他人を楽しませることに飢えているので、書く本も面白くなる傾向にある。
今回紹介する『一発屋芸人列伝』はまさにそんな、芸人のサービス精神が貫かれた一冊である。
内容紹介
誰も書かなかった今の彼らは、ブレイクしたあの時より面白い!? レイザーラモンHG、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区……世間から「消えた」芸人のその後を、自らも髭男爵として“一発を風靡した”著者が追跡取材。波乱万丈な人生に泣ける(でもそれ以上に笑える)、不器用で不屈の人間たちに捧げるノンフィクション!
文章版“あの人は今”みたいなものだと決めつけていたし、皆さんもそれを期待されるだろうが、実はちょっと違う。
確かに一発屋としてブレイクした芸人たちの現況を伝える、という部分はあるものの、本書の最大の読みどころは別にある。
それは、本としては非常に単純極まりない部分。つまり、書き手の文章そのものである。
著者の山田ルイ53世は、芸人らしく非常にサービス精神に溢れた文章を綴ってくれる。正直彼のネタで笑ったことはないし、なんなら苦手な部類だったが、こと文章だけを見たら「上手いなぁ」と思わされることだらけだった。
同類相憐れむ、…でもない
本書を読んでいて特に印象に残ったのは、山田ルイ53世の芸人たちに対する冷静な視点だ。
基本的には一発屋が一発屋の現状を調べる、という血で血を洗うような内容なのだが、それよりも冴えるのは、全編に渡って繰り広げられる山田ルイ53世の冷静な視点から生まれる、観察や分析である。
文章の端々から、彼の地頭の良さを感じる。普段のあの風貌やネタからはとてもじゃないが想像できない。明らかに普段テレビで見かける彼よりも、はるかに魅力で輝いている。
そんな彼の筆が描き出すのは、落ちぶれた一発屋芸人の哀愁だったり、希望だったりする。芸人たちの多くは、過去の栄光を懐かしく思いながらも、今を生きている。
同じように一発屋である山田ルイ53世は、そんな彼らの心境が手に取るように分かる。だからこそ寄り添うような優しい文章を書くかと思っていたら、意外とそうでもない。
一発屋の多くが、芸人としてもそうだし、人間としても決定的な欠損を抱えている。
そんな彼らの欠損をときに辛辣に指摘し、ときには笑いをまぶして書き上げているのが、本書なのである。全然傷をなめ合うような本ではなかった。結構容赦ない。
エピソードにインパクトはなし
私の中で一発屋芸人は「実力がないのに、たまたま運良く売れてしまった人たち」と決めつけている。実力があるのであればずっと売れ続けているはずだからだ。
テツandトモの場合はちょっと違うが(彼らの場合、テレビよりも営業をはるかに稼いでいる)、本書で登場する芸人たちは基本、実力不足である。
なので、彼らの現状を追って話を聞いたところで、彼らからそんなに面白いエピソードは出てこない。ジョイマンの秦基博のくだりとか、知識として面白いエピソードはあるけれど、彼ら自身の実力とはまったく関係ないのがほとんどだ。
それでもこの本を一気に読ませてしまうのは、やはり山田ルイ53世の圧倒的なまでの筆力による。内容を箇条書きしたら、たぶん数秒で把握できてしまうぐらい薄いと思う。
しかしそんな薄っすい内容を、山田ルイ53世が巧みに飾り立て、見解や分析を盛り込み、笑いどころを作り出すことで、破格の読み応えを生み出している。
この本を読み終えた今、私は出てきた一発屋芸人たちに対して、元から「どうでもいい」と思っていたが、その思いをさらに強くした。本当にどうでもい。
でも、山田ルイ53世自体には興味が湧いて仕方ない。彼の文章がもっと読みたいと思ってしまった。
最後の髭男爵の章は白眉
数々の一発屋芸人について書かれている本書だが、最終章としてやっぱり出てくるのが我らが髭男爵である。この章だけは唯一、独白の形式を取っている。
で、これが凄い。
ここまでも十分に作品として面白かったし、山田ルイ53世のサービス精神がこれでもかと詰め込まれて、非常に濃い読書体験をさせてもらった。
だが、悪い言い方をするとそれはあくまでも「一生懸命作り上げたもの」という感じが抜けなかった。客商売なのだから一生懸命作り上げるのは当然といえば当然なのだが、故に不自然さが生まれてしまっていた。文章の人工物感がすごいのだ。
でも髭男爵の章は違う。
自然と生み出される濃い文章が、流れるように次々と出てくる。これは推敲しまくった結果というよりも、自身の体験だからこそ、身をもって感じたことを乗せられた素直な面白い文章だと思う。
例えるなら、頭を絞って生み出された文章は建築物であり、自身から素直に吐き出した文章は自然の驚異である…と書いて分かってもらえるだろうか。…この文章は完全に人工物。下品だし下手くそだと思う。反省。
予想以上に楽しめた本書。特に最後の髭男爵の章は、上質な私小説でも読んでいるような気分になった。読後は、不思議な高揚感を持ったまま本を閉じることになった。正直、最後の髭男爵の章だけでも十分だと思えるぐらい満足してしまった。
いやー、それにしても山田ルイ53世すげえや。完全に舐めてたわ。
以上。
こうなると、こっちも期待できるな…。