世界一効率良く騙してくれる本たちの紹介。
短編ミステリーは鮮やかな手品
どうも。読書中毒ブロガーのひろたつです。
今まで腐るほどミステリー小説を読んできた私だが、出来の良いミステリーというものを思い返してみると、短編集であることが多い。
もちろん長編でも、歴史に残るような大トリックをカマしているものもある。
だが、長編というのはその文量ゆえにミスリードや誤魔化しのようなものがしやすいという側面がある。それはそれで面白さの一部ではあるが、私がミステリーに求める“切れ味”となるとそこは冗長だと感じてしまう。
その点、良質な短編ミステリーは無駄がまったくない。無駄だと思っていた部分が伏線であり、重要なヒントであり、物語の核心に触れていたりする。
限られたページ数だけで、読者を惑わし、そして会心の一撃を食らわせる。
短編ミステリーとは鮮やかな手品と同じである。
観客である私たちは、作者のたくらみを存分に味わえばそれでいいのだ。
短さゆえにトリックの質が求められる
また、短編ミステリーはその短さゆえに上質なトリックが求められる。そうでなければ読者を欺けないからだ。そして快感を与えることができなくなる。
短編ミステリーには、発想のきらめきが込められている。
それは常人では到底発想できるようなものではなく、読者はその奇想っぷりに度肝を抜かれる。そして甘美なミステリーの快感に酔いしれることになる。
そんな極上のミステリー短編集を厳選してみた。
その数、18冊。
少ないと思われるだろうか?
ストライクゾーンを甘めにすれば、もっとたくさんの作品を紹介できるかもしれないが、この記事ではあえて厳しめにさせてもらった。
私がこの記事に求めることはただひとつ。
皆さんに、超効率良く騙され、超効率良く快感を得て欲しい。
それだけである。そして、だからこその“厳選”である。
あなたにミステリー的快感を与えるために特化した記事である。どうぞ、存分にご活用いただきたい。
ちなみにネタバレを防ぐために、紹介文は最小限にしてある。決して手抜きではない。ご理解いただけると幸いである。
では行ってみよう。
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正月十一日、鏡殺し
彼女が勤めに出たのは、このままでは姑を殺してしまうと思ったからだった―。夫を亡くした妻が姑という「他人」に憎しみを募らせるさまを描く(表題作)。猫のように性悪な恋人のため、会社の金を使い込んだ青年。彼に降りかかった「呪い」とは(「猫部屋の亡者」)。全七編収録。
実はこれが歌野初の短編集。ミステリー作家としては珍しい“成長し続ける作家”が放つ邪悪な短編集に震えていただきたい。
特に表題作は“邪悪に絶品”である。
ハッピーエンドにさよならを
望みどおりの結末なんて、現実ではめったにないと思いませんか? もちろん物語だって……偉才のミステリ作家が仕掛けるブラックユーモアと企みに満ちた奇想天外のアンチ・ハッピーエンドストーリー!
歌野晶午は最強のトリックメーカーである。であれば、短編も自ずと高品質になることをご理解いただけると思う。こちらもブラックな作品集になっていて、トリックの切れ味と相まって、極上の読書体験を提供してくれる。
たけまる文庫 謎の巻
話題の個人文庫、堂々の完結巻はミステリ短編を集めた「謎の巻」。ファンおなじみの速水三兄妹の活躍や、自分自身の行動調査を探偵に依頼した男など傑作8編。……謎だらけです。
我孫子武丸の才能が溢れ出ていた頃の作品である。全然有名じゃないのだが、相当な粒ぞろいである。単に発見されてないだけだろう。存分にヤラれるがいい。
クリスマス・プレゼント
スーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法、オタク少年の逆襲譚、未亡人と詐欺師の騙しあい、釣り好きのエリートの秘密の釣果、有閑マダム相手の精神分析医の野望など、ディーヴァー度が凝縮されたミステリ16作品。
アメリカが生んだ“どんでん返しの天才”ジェフリー・ディーヴァーの短編集である。
これが世界基準だ。存分にひっくり返されてほしい。笑っちゃうぐらい凄いから。
陰の季節
天下りなどの人事問題に真っ正面から取り組んで、選考委員の激賞を浴びた松本清張賞受賞作ほかテレビドラマ化されたD県警シリーズ。
横山秀夫の短編の特徴は、人間の心理にトリックを仕掛ける所である。この巧みさ、濃厚さは彼にしか出せない味である。間違いなく中毒になる。
しかし、あまり作品数は多くないので、じっくり楽しんでもらいたい。
動機
署内で一括保管される三十冊の警察手帳が紛失した。犯人は内部か、外部か。男たちの矜持がぶつかりあう表題作(第53回日本推理作家協会賞受賞作)ほか、女子高生殺しの前科を持つ男が、匿名の殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」。公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」など珠玉の四篇を収録。
もういっちょ横山秀夫作品である。日本推理作家協会賞を受賞したのは伊達ではない。
元記者というだけあって、警察内部の描写のナマナマしさが凄まじく、それだけでも十分すぎるぐらいに面白いのに、その上ミステリーとしてもカンストしている。あー、読んだ記憶消したい。
第三の時効
殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短篇集。本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い本作を貫くのは、硬質なエレガンス。圧倒的な破壊力で、あぶり出されるのは、男たちの矜持だ―。
横山秀夫の最高傑作。最強の短編集。最強の刑事たち。
ミステリーとしても物語としても最高レベルの超オススメ作品。
勘違いしてほしくないから先に書いておくけど、こんなレベルの小説って、この世にほとんどないから。
看守眼
刑事になるという夢破れ、留置管理係として職業人生を閉じようとしている、近藤。彼が証拠不十分で釈放された男を追う理由とは(表題作)。自叙伝執筆を請け負ったライター。家裁調停委員を務める主婦。県警ホームページを管理する警部。地方紙整理部に身を置く元記者。県知事の知恵袋を自任する秘書。あなたの隣人たちの暮らしに楔のごとく打ち込まれた、謎。渾身のミステリ短篇集。
『第三の時効』でキャリアハイを叩き出した横山秀夫。彼の得意分野は警察モノなのだが、こちらの『看守眼』では警察以外の人を多く起用した物語となっている。
我々のような普通の人を主人公に据えても、巧みな心理描写とトリックで、鮮やかに翻弄してくれる。
傍聞き
娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心動かされる「傍聞き」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。巧妙な伏線と人間ドラマを見事に融合させた4編。
長岡弘樹の名を世に知らしめた短編集。
読み始めるとすぐに「?」と読者を戸惑わせる。しかし、巧みな展開で鮮やかに「!」と理解させる。長岡弘樹は最初っから短編の名手として完成している。
実は彼は極度の横山秀夫フリークで、作品の雰囲気や技には通じる所がある。
教場
希望に燃え、警察学校初任科第九十八期短期過程に入校した生徒たち。彼らを待ち受けていたのは、冷厳な白髪教官・風間公親だった。半年にわたり続く過酷な訓練と授業、厳格な規律、外出不可という環境のなかで、わずかなミスもすべて見抜いてしまう風間に睨まれれば最後、即日退校という結果が待っている。必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩。それが、警察学校だ。
教官が最強すぎて堪らない。
これも完全に横山秀夫の模倣である。だが上質であればなんでも構わないと私は思っている。
ちなみに模倣されたと思われる作品は『臨場』である。この記事では取り上げていないが、秀作なので読んで損はなし。
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ジョーカー・ゲーム
結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関"。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関"の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく......。
異能のスパイたちが織りなす最高にスタイリッシュな短編ミステリー。
“魔王”結城中佐という超魅力的なキャラクターを生み出したことだけで評価できる。
ダブル・ジョーカー
結城中佐率いる異能のスパイ組織“D機関”の暗躍の陰で、もう一つの諜報組織“風機関”が設立された。その戒律は「躊躇なく殺せ。潔く死ね」。D機関の追い落としを謀る風機関に対し、結城中佐が放った驚愕の一手とは?
一作目の切れ味そのままに、最高の続編を生み出してくれた。
ライバル組織の登場や“魔王”の過去など、作品としての幅が広がり、興奮もまた一層である。
戻り川心中
「桂川情死」「菖蒲心中」という、二つの心中未遂事件で、二人の女を死に追いやり、自らはその事件を歌に詠みあげて自害した大正の天才歌人・苑田岳葉。しかし心中事件と作品の間には、ある謎が秘められていた──。
日本の短編ミステリーにおいて「最も偉大な作家」連城三紀彦の最高傑作である。
あの田中芳樹が連城の作品を読んで「こんな奴がいるのに、ミステリーなんか書けるか」と言ったそうだ。
同業者からも畏怖されたその才能をとくと味わうがいい。
夜よ鼠たちのために
脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?
深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。
『戻り川心中』と甲乙つけがたいレベルの傑作。本当に連城三紀彦はイかれてる。ミステリーの神から愛され過ぎである。
表題作を含め、この謎たちは絶対に解けないだろう。連城マジックが炸裂しまくりである。
あと、2ちゃんねるで「一番好きなミステリー短編は?」と聞かれると、かなりの高確率で入ってくる。よっぽど衝撃が強いのだろう。
人体模型の夜
一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。
コメディのイメージが強い中島らもだが、実は強烈な短編集も発表している。
そのあまりの出来の良さに、私は密かに「ドラッグによるもの」ではないかと思っている。発想の跳躍がちょっと尋常じゃない。鮮やかすぎる。明らかに中島らもの実力を超えている。
ドラッグの是非はともかく、こんな良作を生み落としてくれたことに感謝。
GOTH
連続殺人犯の日記帳を拾った森野夜は、次の休日に未発見の死体を見物に行こうと「僕」を誘う…。人間の残酷な面を覗きたがる者〈GOTH〉を描き本格ミステリ大賞に輝いた乙一の出世作。
装丁の通り、ナイフのような切れ味で読者を欺く珠玉の短編集。
乙一独特の淡白な文章と、それと対比するかのような強烈な物語で、クラクラしてもらいたい。
失はれる物語
目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが…。
『GOTH』と二大双璧を成す珠玉の短編集。個人的には乙一の最高傑作だと思っている。
『GOTH』は残酷さに特化していたが、こちらは“切なさ”を全面に押し出している。
ミステリーとしての完成度もさることながら、心の琴線に触れる美しい作品でもある。
贈る物語 Mystery
全くの本格ミステリー初心者から熱心な本格ファンまで―すべての読者がそれぞれに楽しめる、古今東西の名作から選ばれた粒よりの九編。さあ、お楽しみは、本書から始まります。
『十角館の殺人』という日本のミステリー史に残る大傑作を生み出した綾辻行人。そんな彼がプロの目線から、いやひとりのミステリーマニアとして古今東西の最強短編を集めたのが本書である。
まあそれはもう間違いない一冊である。こういうのもっと出してほしい。
儚い羊たちの祝宴
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。
最後はこちらになる。ここまでたくさんの作品を紹介してきたが、私の中での「最強のミステリー短編集」はこの『儚い羊たちの祝宴』でなる。
切れ味はこの記事で紹介してきた本たちの中でも特に鋭く、半端ではない。真っ二つだ。そしてまた、その切れ味の出しどころが恐ろしく上手くて、気を抜いた瞬間にヤラれてしまうのだ。まるで居合抜きの達人のようである。
まあ、とにかく読んでからのお楽しみだ。最高の時間を約束しよう。
正直、羨ましい
以上が私の厳選した『最強のミステリー短編集』である。
ここまで紹介してきて心の底から思うのは、これからこの作品たちを楽しめる皆さんのことが羨ましくて仕方ないということである。
すでに読み終わってしまった私はあのときの感動を、驚愕を、そして見事に騙されたとき特有のあの快感を得ることはもうできないのだ。
ということで、一度しか味わえない至高の時間を、この作品たちでぜひとも楽しんでもらいたいと思う。
未知なる衝撃をあなたにー。
以上。
※ミステリー好きにはこちらの記事もオススメ。やべえのたくさん紹介してまっせ。