強烈な表紙である。もちろん中身も負けていない。
異常な博士の異常なバッタ愛
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。面白い本に出会ったのでご紹介。
なかなか他に類を見ない奇書である。
それがこちら。じゃじゃん。
Amazonの年間売上ランキングにも登場したので、ご存じの方も多いかと思う。
このふざけた装丁、何のひねりもないタイトル、売れてないお笑い芸人のような著者名。怪しさ満点である。しかしこれがびっくり、中身の面白さも満点なのである。
こりゃ売れるわ。
ざっくり説明してみる&本書の楽しみ方
本の中身をざっくりと説明すると、
「バッタに食べられたい」という異常極まりない願望を持つバッタ博士が、アフリカのモーリタニアにて「神の罰」と現地で呼ばれるバッタの大発生と真正面からぶつかる、正真正銘のノンフィクションである。
とまあ、こんな感じの説明をすると、まるでバッタと博士の熾烈な争いを思い浮かべられるかもしれないが、現実はそんなに甘くない。そもそもの滞在費や、調査費用、研究費用、活動内容、バッタの出現場所(なんせモーリタニアは日本の国土の約3倍)などなど、バッタと戦うまでに必要な条件が腐るほどある。
なので、「神の罰」と一昔前のRPG感満載の呼び名であるバッタの大群は、この本の中ではまさにラスボスなのだ。いきなり戦闘が始まると思ったら大間違いである。そんなのは興醒めだ。
そこまでの過程と結果を楽しむ本と言えよう。
まるでRPG
ふと思いつきで書いた「一昔前のRPGみたい」という表現だが、この作品そのものにも当てはまるように思う。
最初は何も持たない一介のポスドク(ポストドクターの略。乱暴に説明すると、博士号を持ってる無職)にすぎない著者。そんな彼が現地で色んな災難に見舞われながらも、協力してくれる人に支えられ、成長し続ける姿。そして最後に辿り着くラスボス。
当てはまるように思う、なんて生ぬるい表現じゃなくて、これは完全にRPGそのものだ。
もちろんそれは悪い意味なんかではなく、最高に楽しめる本だということだ。
魅力だらけで困る本書
本書についての魅力を書こうとすると、それだけで数千文字いけるぐらいだ。
私は本の紹介記事ではかなり無駄に文字数を積み重ねてしまう傾向があるので、あえてセーブしているようにしているのだが、この本はその傾向がより顕著だ。皆さんにアピールするべきポイントをかなり絞っている。
読書中毒ブロガーとして日々活動し、ひとりでも多くの人に面白い本をお届けしている私からすれば、作品の魅力を語ることは使命と言ってもいいぐらいだ。
しかしながら、どの本もそうだが、私が内容を説明してしまえばしまうほど、魅力を伝えれば伝えるほど、実際に手にとって読むときの感動(面白いとか悲しいとか怒りとか全部をひっくるめて、読書中に感じられるであろう心の動き全般の意。という説明も書きすぎである)が薄れてしまうのだ。
だから、この本をパッと見た瞬間に伝わるであろう「笑い」の要素については書かない。体感して欲しい。一見するとふざけたように感じる「前野ウルド浩太郎」という著者名には、実はある真面目な理由があることも書かない。圧倒的すぎるラスボス「神の罰」が全長500kmもあるとか白面の者もびっくりなサイズ感だということも書かないし、実は感動するところもいっぱいあるのだが、それも書かない。
と書いている時点で書いているのと同じなのだが気にしない。
せっかくの良書である。できるだけ真っさらな状態で楽しんで欲しいと思う。
純愛ラブストーリー
以上の理由から私に語れることは非常に少ない。それでもあえて皆さんに伝えたいのは、これは博士とバッタのラブストーリーである、ということだ。しかも純愛だ。未だかつてここまで美しいラブストーリーがあっただろうか。うん、実はきっと腐るほどある。
だけど、ノンフィクションで、しかもヒロインがバッタだなんて本はないだろう。前代未聞もいいところだ。もっと言ったら大群だし。ヒロインが大群とかないでしょ。
愛の物語はとは言うものの、もちろん博士の一方的な愛である。バッタはそんなのお構いなしに飛翔する。
愛とはかくも残酷なものだろうか。いや、残酷を秘めているからこそ、その愛は輝くのだろう。まるでバッタの黄金の翅のように。
すべてを失いながらもバッタを追って走り続ける前野ウルド浩太郎。彼は一体誰のためにバッタを追っているのか。
そもそもバッタ公害を阻止するために活動している彼だが、冒頭に書いたように「バッタに食べられたい」という異常な私欲も絡んでいる。単なる正義感だけで戦っているわけではなく(もちろん正義感もあるけれども)、根底には著者の底知れないバッタ愛があり、そこが全てのスタートだと私は感じている。
こうなってくると「卵が先か鳥が先か」という問題みたいに訳が分からなくなってくる。
でも正直それもどうでもいいだろう。本は面白ければそれでいいのだ。
前野ウルド浩太郎氏には、これからも純粋なるバッタ愛を発揮し続けていただきたいと思う。そうすればまた最高の物語が生まれることは間違いない。
そして私がこの本を買ったこと、さらにはこの記事を書いたことが、偉大なるバッタ馬鹿の支援になればいいと、ささやかながら願っている。
以上。