どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
ずっと取っておいた伊坂作品を読んだら、案の定最高だったので紹介したい。
内容紹介
星野一彦の最後の願いは何者かに“あのバス”で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
設定だけを見れば、非常に伊坂らしい作品なのだが、ひとつポイントがある。
『バイバイ、ブラックバード』はミステリー作品ではないのだ。
なのでいつもの伊坂作品みたいに、張り巡らされた伏線とか、意外な結末みたいなものはない。
だがとっても最高である。この最高さは名作『砂漠』に通じるものがある。あれもミステリーではないのに、やたらと人気があった。
ミステリー作家としての人気と地位を獲得している伊坂幸太郎だが、実はミステリーよりも普通の物語の方が向いているのかもしれない。
さて、今回紹介する『バイバイ、ブラックバード』の良い点は以下の通り。ちなみに悪いところは1個もない。それくらい良かった。超好き。
・映画的みたいでよろしい
・伊坂自身が楽しんでいるのがよろしい
・純粋に物語として楽しめるのがよろしい
・幕引きがにくくて大好き
こんな感じである。本当はもっと細かいこと書き出したら、永遠に語っていられるのだが、まあこれくらいにしておこう。
では以下に詳しく説明していこう。
映画みたいな小説
伊坂幸太郎のことを「映画的な作家」だと私は評価している。精確には「彼の作品が映画的」であるという印象を受けている。
映画的とはどういう意味か。それは「創作者の意図の濃さ」と「統一感」だ。
例えば連載マンガ。一番映画的ではないのが連載マンガである。
連載マンガは毎週毎週が勝負である。そうなると、ひとつの話の中で盛り上がりを作らなければならなかったり、読者の気を惹く要素を入れなければならない。最終的には「単行本」「作品」とまとまっていくにも関わらず、刹那的な視点で作品を生み出す必要がある。
そのために連載マンガの多くは、部分部分で「これは余計だな」とか「迷走してる」みたいなところが発生してしまう。これは連載マンガの宿命というか、作者である人間の能力の限界によるものだろう。
その次が小説である。マンガに比べると圧倒的に作者の思惑通りに物語を構築できるし、作者の意図を反映させやすいだろう。
しかしそれでもやはり映画には勝てない。作品の長さゆえだと思う。
映画は脚本からカメラワークから音楽まで、なにからなにまで創作者の意図と計算が行き届いている。物語の中に贅肉が存在しないのである。
贅肉のない伊坂作品
伊坂作品を読んだことのある方であれば納得してもらえると思うが、伊坂幸太郎の小説はとにかく無駄がない。いや、もちろん映画に比べれば無駄だらけなのだが、それでも他の作家と比べると段違いだ。「それが繋がってくるのか!」というような要素だらけである。一体どんな脳みそをしているんだと不思議になる。
会話はどれもこれも面白いし、地の文でもピリッと効いた言葉を不意に放り込んでくる。文章の全てがいちいち効果的だ。
『バイバイ、ブラックバード』でもそういった“映画的要素”は存分に詰め込まれていて、楽しめるところばかりである。
連作短編にありがちな「最後の最後でひっくり返す」みたいなテクニックに逃げるでもなく、ただひたすらに“面白い物語”を描き続けている。とても優秀な作品だと思う。
作者が楽しんでいるからいい
『バイバイ、ブラックバード』を読んでいる間は、ずっと楽しめたのだが、さらにおまけがある。なんと巻末に伊坂のロングインタビューが載っているのだ。そこで伊坂が『バイバイ、ブラックバード』の創作過程について色々と語っているのだ。
ネタバレのオンパレードなので絶対に本編から読んで欲しいのだが、このインタビューを読むと伊坂がどれだけ『バイバイ、ブラックバード』を楽しんで書いていたのかよく分かる。元々は締切が緩いからOKした連載だったそうなのだが、面白くなって筆が乗ってしまったのか、通常の締切よりも早く原稿を仕上げてしまったそうだ。
同じくミステリー小説作家の森博嗣は「作家が楽しんでいるかどうかは作品に関係ない」と語っていて、それも真実だとは思うが、それでも読者としては作家自身が楽しんで、テンションが上ってしまっている方が、なんか嬉しい。
もちろんテンションが上りつつも、「こうすれば面白くなるぞ」という冷静な計算は働いているだろう。そうじゃなきゃ、こんなに優秀な作品が出来上がるはずがない。
ミステリーだと気構えなくていい
これは非常に私の個人的な問題かもしれない。
『バイバイ、ブラックバード』は最初にも書いたとおり、ミステリー作品ではない。
なのでミステリー作品によくある伏線や意外な結末を意識する必要がないのだ。
特に伊坂幸太郎はその辺りの手法を得意としてきたので、ちょっとしたシーンやキャラの言動などに対して「これは伏線なのか…?」とか「ラストはどうやってひっくり返してくれるんだ?」みたいに物語を俯瞰してしまう余計な考えが頭をよぎる。
これは物語を楽しむ上でノイズでしかない。没頭していない証拠である。
でもミステリーじゃないと分かっていれば、わざわざそんな無駄なことを考えなくてもいい。ただただ物語の流れに思考を委ねればいいだけである。(私は第一話を読み終えるまでミステリーだと思いこんでいたので、めっちゃ伏線に気を使ってしまった。今思えばもったいないことをした)
ラストが…
ずっと楽しんでいられた『バイバイ、ブラックバード』だが、個人的に一番グッと来たのはラストである。このラストと出会えただけでも読んだ価値があると思えるぐらい、大好きなラストだ。
だが冷静な評価をすると、「これは賛否両論だろうなぁ」とも思う。
一般ウケしないというか、納得しない人もいるだろうと予想される。今回はこの記事を書くにあたって、Amazonのレビューは確認していないのだが、きっとそんなことを書いている人がいるんじゃないだろうか。
ネタバレはしない主義なので詳しくは書かないが、小説だからこそ許される、そして小説だからこそハマるラストシーンだと思う。
映画ぐらい具体的なメディアだとこれは受け入れられないんじゃないだろうか。
…と書いてみたが、そういえば『バイバイ、ブラックバード』はドラマ化されているんだった。ラストはどうだったのだろう。
ということで、褒めまくりの『バイ・バイ・ブラックバード』だが、大好きな伊坂作品たちの中でもベスト級の作品になった。これは出会えて良かったと素直に思う。
またこんな作品に出会いたい。
以上。
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