どうも。読書ブロガーのひろたつです。
今回は弩級の作品をご紹介。
小説界を蹂躙
ジェノサイド 上 (角川文庫) | ||||
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イラクで戦うアメリカ人傭兵と日本で薬学を専攻する大学院生。二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。一気読み必至の超弩級エンタメ!
『13階段』で江戸川乱歩賞を受賞しデビューした高野和明氏の正真正銘の代表作である。受賞歴が凄まじい。
第65回日本推理作家協会賞受賞
第2回山田風太郎賞受賞
2012年度このミステリーがすごい! 1位
2011年週刊文春ミステリーベスト10 1位
この他に直木賞の候補になったりとか、吉川英治文学新人賞の候補になったりした作品である。
発売当初から人気は凄まじく、帯に書かれた推薦文の熱量も半端ではなかった。「この小説を読まずに何を読むのか?」と言わんばかりの様相であった。
文壇だけでなく読者も含め、小説界を圧倒的な勢いで蹂躙し尽くしたのが『ジェノサイド』なのだ。
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単純に、「クソ面白い」
『ジェノサイド』の魅力について色々書いていこうと思うのだが、まずはこの作品の最大にして最高の特徴をお伝えしたい。それは非常に単純極まりない。
クソ面白え。
これである。
これ以上に小説を手に取る理由があるだろうか。感動?感傷?学び?興味?
いやいや、「面白い」それだけで十分だ。美味いものを食べるのに理由がいらないように、面白い小説を読むのに理由はいらないのだ。我々はただただ作者が用意した最高の物語を味わい尽くせばいいのだ。
巧みなストーリーテリング
『ジェノサイド』の主なストーリーはアメリカ兵のイエーガーと、日本人大学生古賀研人のふたつの視点から進んでいく。
かたやイラクの戦地。かたや日本の厚木。
最初、2人の主人公の物語は接点がないまま別々に進んでいく。まあ当然、最終的には合流していくわけなのだが、これがなかなか上手い。
詳しく説明しよう。
小説だけに限らず、映画でもドラマでもこのように複数の視点から物語を描き、終盤にかけて物語を収束させていくという手法は常套手段である。
個別で発生したドラマを重ね合わせることで、観客の感情を相乗的に盛り上げる効果がある。特に小説のようにいくらでも時間軸を操れて、物語の長さに制限がない媒体では使いやすい手法だろう。
だが実はこの手法にはちょっとした落とし穴がある。
読者のテンションを下げかねない
複数の物語を同時進行させるのは、ただ単に2つの小説を組み合わせればいいだけ簡単なのだが、
「物語の起伏をどうするか?」
「物語のテンションはどうするか?」
はかなり難しい問題である。
『ジェノサイド』を例にすると、ふたりの主人公は相当に違う環境にいる。どう見てもイラクにいるアメリカ兵イエーガーの方が遥かに緊張感に満ちた状況だ。
イエーガーサイドの物語があまりにも緊迫感に満ちたものになると、ただの大学生古賀研人に視点が移ったときに読者が「ダレて」しまうのだ。まるでCMに入ってしまったかのような気分になる。
なので、この「複数の物語を同時進行させる」という手法を使うときは、
「どの物語も同じレベルで面白い」
「同じタイミングで物語が転換する」
といった条件が発生するのだ。
別に無視しても構わないが、読者はきっと読みながらダルくなるだろう。リーダビリティが損なわれるのは確実である。
ドーパミンがダバダバ出ます
その点、『ジェノサイド』は完全にこの手法をものにしている。
ふたつの物語は完璧なまでに補完しあっていて、最高の塩梅で配置されている。物語のすべてが「面白さ」を生み出すために存在している。
ここまで「面白さ」に特化した作品はそうそうないだろう。私の数ある読書歴の中でもここまでのレベルでエンタメしているのは『ジェノサイド』と貴志祐介の『新世界より』ぐらいである。
新世界より(上) (講談社文庫) | ||||
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詳しい内容は控えるが、『ジェノサイド』の物語が佳境に入る辺りで、ふたりの主人公の物語は交差し始める。
そして待ち受ける超展開と相まって、我々読者の脳内はスパークする。副腎からアドレナリンがダバダバ放出される。
ここまで来ると、『ジェノサイド』という名のドラッグである。しかも合法。これを最高と言わずになんと言おうか。
綺麗な作品ではない
ただ、ちょっとだけ注意してもらいたいことがある。
高野和明氏はデビュー作の『13階段』からしてそうなのだが、かなり「鬱」な展開や要素を作品に盛り込んでくる癖がある。もちろん『ジェノサイド』も同様である。人によってはかなりのダメージを心に負う可能性があることを覚悟していただきたい。
どんな鬱要素かというと、ネタバレはしたくないのでぼやっとした表現になるが、「人間の汚さ」である。心底、人間という生き物の醜さを見せつけられる。
エンタメ作品には多少の毒が必要であり、だからこそ刺激的な作品に成り得るのだが、『ジェノサイド』は並のエンタメ作品ではないので、作品に含まれる毒もかなりの濃度である。心してかかっていただきたい。
それを思うと、あれだけ各方面で『ジェノサイド』が絶賛されたのが不思議である。大体にしてタイトルは“虐殺”だからな。不謹慎極まりないだろう。
しかしながら憎いのが、この「毒」の部分があるからこそ、終盤のあの超展開、物語の真相である“あれ”の魅力が増すことである。もしかしたら、あの鬱要素さえも高野和明の巧みなストーリーテリングの一部なのかもしれない。
正真正銘の最強エンタメ作品『ジェノサイド』で、最高の読書体験をしていただきたいと思う。
以上。
ジェノサイド 上 (角川文庫) | ||||
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虐殺をテーマにした小説といえば、夭逝した天才作家伊藤計劃の『虐殺器官』もオススメである。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) | ||||
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