俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

「職場で尊敬している人は誰ですか?」というアンケートで地獄になった話

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どうも、副業ブロガーのひろたつです。

私はこうしてブログを書く活動のかたわら、中小企業で死んだような目をしながらサラリーマンとして過ごしている。

今回はその本職の会社でのお話。

※身バレしない程度にフィクションを織り交ぜております

 

 

職場を破壊したあるアンケート

端的に言うと、タイトルのまんまなのだが、職場での上司たちの仕事を評価する一環として、次長より全社員参加で「職場で尊敬している上司は誰か?」というアンケートを取ることになった。もちろん無記名である。しかし強制。

次長はこのアンケートをもとに、管理職を任されている人間の中で、誰がチームを上手く運営しているか(求心力があるか)を可視化したかったようだ。運営方針の参考資料として活用するつもりだったらしい。

しかし、このアンケートによってもたらされたのは、思いも寄らない地獄絵図だった。


私がこのアンケートに参加したのは、新卒のときだった。

当然、アンケートの趣旨なんぞまったく理解していなかったので、絶賛罹患中だった中二病の勢いそのままに「尊敬する人は誰もいません」と書いた。

もし会社外の人を書いても良かったのであれば、好きな作家を用紙が真っ黒になるまで書き記したことだろう。しかし「職場で」という限定だったため、私の眼鏡に適う人物は存在しなかった。若かったので基本的に他人を見下していたわけだ。まあ今もそんなに変わんないけど。

 

 

アンケート結果発表 

で、だ。

このアンケートの結果である。

恐ろしいことになった。

 

一極集中。

 

一部の仕事がバリバリできる人や、カリスマ性のある人ばかりが票を独占し、その他大勢は得票数ゼロだった

 

考えてみれば当たり前の話である。

人間を一列に並べて「誰が一番優秀だと思いますか?」と尋ねれば、みんな素直に優秀な人を選ぶ。誰かひとりから見て優秀な人は、他の人から見ても優秀であるのは明らかである。

これが「一番可愛いのは?」とか「優しいのは?」みたいな、もっと好みが絡むような質問だったり、抽象的なものであれば偏りも減ったかもしれない。しかし「尊敬」とまでハードルが上がってしまうと、限られた人間だけになってしまう。

 

ということで、アンケートの結果、30人ほどいる管理職の中で、見事に票を獲得できたのはほんの数人。しかも一人はぶっちぎりだった。(ちなみにこのアンケートを考案し、実施た次長本人)

 

 

管理職たちに開示される残酷な現実

さて、無事にアンケートの集計が終わり、次長は各管理職にこのアンケート結果を配布した。

「現時点での部下たちの率直な評価を知りなさい」ということなのだろう。

どんなものごとでもそうだが、まずはスタートライン、つまり自分の正確な立ち位置を把握することで、必要な戦略が立てられる。次長は管理職たちが前向きにアンケート結果を受け取ってくれると思っていた。

 

でもそれは甘かった。

 

アンケートの結果が公表されてからというもの、部署内での関係性が急速に悪化したのだ。

 

 

押し出しの強い上司の事例

例えば、非常に押し出しの強い割に見当違いな指示ばかり出すイワノフ(仮名)という管理職がいた。

彼はものの見事に得票数ゼロだった。

端的に言って彼は嫌われ者である。押し出しが強いゆえに、部下や周りの人間はあからさまに嫌悪感を示すことができなかった。それに多分イワノフは鈍い人間なので嫌悪感を示されたとしても気づけなかったと思う。

しかしそれも終焉を告げた。彼は知ってしまった。自分が部下たちから一切慕われていなかったことを。

その衝撃の事実をイワノフは素直に認められなかった。

彼の押し出しの強さは、ある種の「自分はできる人間である」という自信から生まれていた。その自信が揺るがされてしまったのだ。上司として部下の尊敬を集められない自分は、実は大したことないのではないか。きっとそのように考えたのだろう。

アンケート結果を見てからというもの、イワノフはことあるごとに「どうせ自分はみんなから嫌われてるし」という余計な一言を付け加えるようになった。

素直に受け入れるにはあまりにも自我が幼かった彼は、自虐によって少しでも自尊心に傷がつかない方法を選んだのだ。

ちょっと想像してもらえると分かるが、これはかなりうっとおしい。部下としてはイワノフのその言葉を否定することも肯定することもできないのだ。ただただ曖昧な笑顔を返すしかできない。そして心を伴わない笑顔にはストレスが付きまとう。

アンケート結果にショックを受けたイワノフ。そしてイワノフの歪んだ自意識を押し付けられる部下たち。関係性が崩壊するのは時間の問題だった。トラブルにも発展したし、異動願いなんてザラだし、退職者も出た。

 

 

自信が足りない上司の場合

また別の管理職であるアルチョム(仮名)は、アンケート結果にモロにショックを受けた。

彼の場合は、元々自信が足りないタイプだった。分かるだろうか、自信がない、ではなく、足りないタイプである。

能力値が低いわけではない(だから役職が付いている)。しかし自信が足りないせいで、部下にも上司にも自分の意見をしっかりと伝えることができなかった。そのせいで仕事をひとりで大量に抱える傾向があった。元々の能力はあるので、もう少しだけでも自信を持って仕事ができれば一気に開花する。そんなタイプだった。

しかし彼もまたアンケートでまったく票を得られなかった。

当然アルチョムは完全に自信を打ち砕かれた。元々人と関わるのを苦手としてきたが、その傾向に拍車がかかった。

出社してもほとんど誰とも喋らない。話しかけると対応はしてくれるが、あからさまに無理をしているのが伝わってくる。少しでも早く会話を終わらせたがっているのが分かった。

そのうちに目を合わせることができなくなり、挨拶さえも回避するようになり、休みがちになり、完全に来なくなった。

その後、役職を外されたアルチョムは、相変わらず対人関係に欠点を抱えたまま、平社員として凡庸な仕事をしている。精神を病んで退職しなかっただけマシかもしれない。

 

 

一方そのころ…

逆のパターンもある。

 

優秀で自信家のイワンの場合、さらに自信を持ち、調子に乗り、周囲も実際に尊敬を集めているイワンに一目置くようになり、彼の発言や提案をさも重要なことのように扱う空気が醸造されていった。

そのうちにイワン軍団みたいなのができた。

私の友人は、その軍団を見て「飼い犬」と呼んでいた。なんとなくしっくり来た。

 

このアンケートを発案し、一番の得票数を得た次長はホクホクだった。

「だから自分のような仕事の仕方をすればいいんだよ」と、自信と優越感と自己肯定感で満たされているようだった。

 

 

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分断されていく職場

こうして会社内では、自信に溢れて楽しみながら仕事をする優秀な人と、自信をなくして自分を否定しながら仕事をする劣等な人に分かれた。

 

そのうちに、優秀側が劣等側をバカにしたり、ネタにするようになった。

「だからダメなんだよ」とか「この前さ~」などと失敗を面白おかしく周囲に言いふらされるようになった。それが職場での共通のエンタメ、という空気が出来上がっていった。

 

優秀側が劣等側に仕事を教えることもあった。

しかしそれは「仕事を教える」というよりも、「仕事ができる姿を見せつける」とか「できてない所をつついてマウンティング」というようにしか見えなかった。

 

当然部署間での仲も悪くなり、連携が取れず、相手の立場を慮ることもなく、日常的に他部署の悪口を言い合うようになった。他部署の悪口を言うと楽しくなる空気が出来上がっていった。

 

こんな感じで、私の職場はたったひとつのアンケートによって、笑ってしまうぐらいものすごい勢いで人間関係が悪化していった。

その後、長い時間をかけて浄化していったが、その方法は簡単にまとめられるものではないので、今回の記事では割愛させていただく。

 

 

見えないままの方がいいこともある

この経験において一番の学びは、「見えないままにしておくべきこともある」、ということだ。

 

特に人の好き嫌いに関しては、よほどの覚悟がない限り秘するべきである。

世の中の大半の人は、目の前にいる人に嫌われていると自覚しながら仕事はできない。できたとしても、満足のゆくパフォーマンスは出せないだろう。

 

仕事は人がやるものであり、どんな素晴らしいアイデアもすべて人から生まれる。

であれば当然、職場では何よりも人を大事にすべきである。特にチームワークを必要とする場合は絶対である。

 

発案した次長にどこまでの意識があったか分からないが、今回の件は、人の心を使った遊びである。

人の心を軽々しく扱うと、簡単に地獄絵図になる。罪の意識があろうとなかろうと関係ないのである。

 

***

 

当時は塵芥に等しいレベルの新入社員でしかなかった私だが、今では100人を超える部下を抱える中間管理職となった。

あのときに「尊敬する上司は誰?」というアンケートで票を入れられる側の立場になった。

 

あのアンケートをやることはもうないだろうけれど、誰に尊敬されようがされまいが、自分の出来る限りで目の前の部下たちを愛そうと常々思っている。

自分が誠実であれば、他人の評価に振り回されることはないと信じている。

他人にどう思われるかに必死になるよりも、揺るがない自分を育て上げる方が、よっぽど有意義な人生になると信じている。

 

そして、あのアンケートの私のとっての最大の恩恵がある。

あのアンケートによって起こされた一連の騒動を思い出すたびに、自分が手にした権限のせいで、気付かない内に他人を軽々しく扱う人間になっていないかと、そう疑えるようになったことである。

 

そのおかげでまだ私は、仲間たちと、それなりに楽しく、毎日仕事をしていられているのである。

 

 

以上。