俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

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万城目学の最高傑作は『とっぴんぱらりの風太郎』に決まりました

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どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

 

作家には代表作と呼ばれる作品がある。「この作家であれば、これ」と自信を持って勧められるような作品である。

今回紹介する『とっぴんぱらりの風太郎』は、間違いなく万城目学の代表作である。

 

内容紹介

 

 

天下は豊臣から徳川へ。度重なる不運の末、あえなく伊賀を追い出され、京でぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎。その運命は一個の「ひょうたん」との出会いを経て、大きくうねり始める。時代の波に呑みこまれる風太郎の行く先に漂う、ふたたびの戦乱の気配。めくるめく奇想の忍び絵巻は、大坂の陣へと突入する! 

 

『とっぴんぱらりの風太郎』(ぷうたろう、と読む)のポイントはこんな感じ。

 

コメディとシリアスの使い方が上手い

弱い主人公=最高に面白い物語

伏線とか意外な展開とかに頼らずに、どストレートに“面白い”

万城目学の著作の中で完全に頭一つ抜けた作品 

 

以下に詳しく説明していこう。もちろんネタバレは一切しないので、安心してほしい。これは凄いぞ。

 

全方位型の無敵作品

毎日毎日、飽きもせずに小説を読み漁っていると、たまに、ごくごくたまーに「これは無敵だな」と思える作品と出会う。万城目学の『とっぴんぱらりの風太郎』はまさにそれで、他人にオススメする上でこんなにラクな作品はそうそうない。

 

小説作品において“無敵”というのは、「コメディとシリアスを両立させている作品」だと私の中で定義付けている。コメディは作品世界への敷居の低さを生み出し、シリアスは没入を生み出す。このふたつの要素が兼ね合わさることで、物語を楽しむために一番重要な“夢中状態”が出来上がる。

万城目学はデビュー作の『鴨川ホルモー』からコメディとシリアスを上手に配分する作家であった。おとぼけ要素で読者の気を弛ませておいて、いきなり真剣を突きつけてくる。この落差によって、読者は振り回されるのである。要は緩急だ。優秀なピッチャーが球種を使い分けてバッターを打ち取るのと同じである。野球に詳しくないから適当に書いているが。

 

弱い主人公は物足りませんか?

ちょいネタバレになるが、『とっぴんぱらりの風太郎』の主人公である風太郎は、弱い。しかも全然魅力的なキャラではない。これだけを見ると、かなりの駄作に感じる

最近の素人が創作する物語では「最強の主人公」とか「ラッキーで特殊能力を手に入れる」みたいなのが多いらしい。自己肯定感の少ない若者が増えた影響かもしれない。

フィクション世界で敵をバッタバッタとなぎ倒す様は、自己投影をしたら心地よいかもしれない。みんながせっせと人生を注いでいるゲームも、基本的にはそういう要素によって成り立っている。現実ではなかなか味わえない達成感を与えることで、ハマらせる。

これはエンタメの手法としては悪くない。結局のところ、エンタメとは「いかに客に快感を与えるか」であり、手段はどうでもいいのである。

 

ただこれを「物語」の観点から見ると、少々残念である。

というのも、完全無欠だったり、ただの運で強くなったりするキャラクターでは、ドラマが生まれないのだ。足りないところがあったり、欠けている部分をなんとかしようと足掻いているからこそ、人は感動をおぼえる。水戸黄門やアンパンマンに感動しないのはそういうこと。

 

『ONE PIECE』の法則

『ONE PIECE』がいい例で、感動エピソードが多いことで有名だが、実は主人公のルフィに感動させられることというのは、非常に少ない。また、一度感動させたキャラクターが再び感動エピソードを披露することもない。

これは、ルフィがそもそも揺るぎない信念を持っており、精神的には欠けている部分がないからだ。だがそれだとドラマが生まれないので、サブのキャラクターたちの欠損でドラマを生み出しているわけだ。

また、一度感動エピソードを披露したキャラというのは、そのシーンで“成長”してしまっている(欠損を克服している)ためにもう一度ドラマを生み出せなくなっている、ということ。

なので『ONE PIECE』で新たな感動シーンを作りたければ、新たなキャラクターを出すか、もっと本質的な問題(例えばルフィが海賊王になれていないこと)を提起しなければならないのである。

 

弱い主人公こそ最強

このブログでは何度も書いているが、物語とはつまるところ「問題の解決」である。どんな問題を提示し、どうやって解決するかを見せるのが物語である。

なので物語的観点から見れば、完全無欠のカッコいい主人公よりも、弱くて苦しむ姿を見せてくれる主人公の方が、遥かに“強い”のである。

では「弱い主人公さえ用意しておけば、面白い物語が作れんだな!」となるかと言うと、またそれも違う。弱い主人公は、面白い物語の必要条件ではあるものの、十分条件ではないのだ。

弱い主人公の場合、問題解決するためのスキルが少なく、その難易度の高さが物語の盛り上がりを生み出す。観るものの期待感を煽る。しかしそれは、作者が苦労することとイコールでもある。

弱いキャラが問題を解決するためには、それなりの努力だったり、工夫だったりが必要になる(『ONE PIECE』の話ばかりして申し訳ないが、ルフィがフィジカル的に弱いのは、物語を面白くする要になっている)。

簡単に考えられる物語が面白くなることは絶対にない。作者が知力の限りを尽くし、読者の想像力を超えるからこそ、面白い物語になるのだ。

 

全然強くない風太郎が、どうやって物語をクリアするか、ぜひ見届けてもらいたい。

 

読者に「面白い」と思わせるテクニック

読者に「面白い」と思わせるにはいくつかテクニックがあって、伏線とかどんでん返しはその代表例である。もちろん私も大好きだ。ミステリー小説なんかは、それだけで読者を牽引していると言っても過言ではないだろう。

私は一時期完全に伏線やどんでん返しの中毒に陥っていたことがあって、伏線やどんでん返しがない小説を読もうものなら「なにこれ?何も起こらないんだけど」という感想を抱いていた。

伏線やどんでん返しが綺麗に決まると、快感が押し寄せる。著者のたくらみとその優秀な頭脳に酔いしれる。

しかし、ある時点で私は気が付いた。伏線もどんでん返しも物語の一要素でしかなく、それは物語そのものではないことに。そんなことにも気付けないぐらいに、くるくるぱーだったわけだ。

私のような伏線中毒、どんでん返し中毒者はけっこう多いと思う。だからこそ世の中には「衝撃の結末!!!!」とか派手に書いてある作品が溢れかえっているのだ。しかも全然衝撃の結末じゃないし。

どんでん返しで興奮してもいいけど、やはりあれはあくまでも物語の仕掛けの一部だ。それすべてで語るのは、あまりにも視野が狭すぎる。キャラが立っていれば物語がクソでもいいのか、というのと似たようなものだ。どれも物語の要素だ。

 

真正面から「面白い」

もちろん上質な伏線を生み出すのも、読者を華麗に欺くどんでん返しを仕掛けるのも、非常に高度なテクニックで、常人にはできないことを重々承知している。

でもあえて言いたい。それは逃げであると

物語からの逃げである。

伏線とかどんでん返しみたいな「ある条件をクリアすれば読者は満足する」みたいなのは、創作というよりもただ問題を解いているだけなように感じる。繰り返すが、そういったものを創り出す美学があることは分かっている。

でもそれは創作の美しさではなく、著者の頭脳に感激しているだけで、物語の面白さではないのだ。この違いが分かってもらえるだろうか。

 

ということで、話が遠回りしまくっているが、『とっぴんぱらりの風太郎』では伏線もどんでん返しもない。(これってネタバレ?)

でも確実に面白い。間違いなく面白い。上下巻とたっぷりあるが、存分に楽しめる。全然冗長じゃない。終わるのが悲しかった。ずっと物語世界に浸っていたかった。

そんな素晴らしい作品なのである。作者の万城目学は、余計なテクニックにこだわって一部のマニアを虜にする道を選ばず、面白い物語を真正面から創り出してくれたのだ。

 

抜けたね、完全に

デビュー作からかなり話題になっていて、ちゃんと売れ続けていた万城目学。私もデビュー時からずっと読み続けている。ファンかもしれない。

彼の作品は確かに面白いのだが、いまいち「最高!」と言い切れるだけのパワーがなくて、私の中でも評価が定まりきらない作家だった。ひとつひとつの作品はそれなりに楽しめるし好きなのだが、他の作家の傑作たちと肩を並べるようなものがなかった。

でもそれも『とっぴんぱらりの風太郎』を上梓したことで、覆してくれた。完全に抜きん出ている。

もちろん他にも面白い小説は世にたくさんある。だけど『とっぴんぱらりの風太郎』はそれらに並んでもまったく恥ずかしくない作品だ。これぞ万城目学の代表作」と言えるだけの作品である。

これは素直に嬉しい。作家が一皮むける瞬間ってのは、実はあまりお目にできるものではないからだ。

 

熱量が高くなるあまり、面白みに欠ける記事になってしまったが、それだけ人を狂わす作品だと思ってくれたら、さすがにそれはハードルが上がりすぎである。単に私が愚かなだけである。

 

ということで、万城目学の最高傑作『とっぴんぱらりの風太郎』。オススメである。

 

以上。