本屋大賞ノミネート作品全部読む
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
今回は「2018年本屋大賞のノミネート作品全部読んでやらあ企画」の第4弾である。
参考までに2018年本屋大賞のノミネート作品は、こちらの10作品。
そして今回紹介するのが、こちらの作品。
誰も知らない、ゴッホの真実。
天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。 二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。
1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出すーー。
『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者による アート小説の最高傑作、誕生!
アート小説というものを世に知らしめたと言っても過言ではない作家、原田マハ。彼女の新作のテーマは“ゴッホ”。
遂に、とでも言うべきテーマだろう。
なにせゴッホは世界的に有名な画家で、当然日本でも非常に人気の高い画家である。さらに言えば、ゴッホ自身もまた日本画(浮世絵)に魅了され、それはもう取り憑かれていたようなレベルである。
そんな日本と相思相愛なゴッホは、日本人の作家が小説のテーマに扱うにはもってこいだろう。しかも原田マハであれば、デビュー作で取り上げていてもおかしくないレベルだと思う。
しかし彼女なりに色々と逡巡というか、気後れする部分があったそうだ。
以下のコメントはAmazonの紹介文に掲載されていたもの。
「ルソーやピカソは、いつか絶対に小説にしたいっていう執着がありましたけど、ゴッホについては実は気後れするところがありました」
「というのも、日本人ってゴッホのことが大好きでしょう? もちろん彼の作品は素晴らしいし、人生そのものが小説的でもある。ただ、ここまで私たちがゴッホに惹かれるのは、何か他の理由があるんじゃないかとずっと考えてきました」
そしてその理由が見つかったことで生まれたのが、今作『たゆたえども沈まず』である。
で、読んでみた感想なのだが、これがもう抜群に面白い。
私はアートにまったくアンテナが反応しない人間で(箱根彫刻の森美術館に行ったときも、ずっと「?」だった)、そんな自分が読んでもつまらないじゃないかと危惧していた。
ところがもう、途中から止められないこと、止められないこと。
最初からいきなり盛り上がるわけではないが、序盤でゴッホが出てきた所から、急激に面白くなる。
これは文句なしにオススメである。
アートに興味がない?かまわんよ。
ついさっきも書いた通り、私はアートにまったく反応しない人間である。アートを理解する能力がないとも言える。本来であれば名画に感動したりしたいのだが、こればっかりは感性の問題なので仕方ない。持ってないものを欲しがった所で虚しいだけである。
そんなアートに関する感性を母体に置き忘れたような私だが、本書『たゆたえども沈まず』は最高に楽しめた。
なので、アートという言葉に敬遠されている方は、ぜひとも一度騙されたと思って手にとってほしい。これはアートに狂った人間たちを描いた、超濃厚な人間ドラマだ。
原田マハ自身も、今までの作品で使用していたような技法(ホラー、ミステリー)を排除し、ドラマを作り出すことに集中したと語っている。それだけ情熱を費やした結果が出ていると私は感じた。少なくとも、アートをまったく解せない私がこの物語に夢中になってしまっているのが、証拠になるだろう。
いやあ、それにしても本当に面白かったよ…。
アートって何よ?
『たゆたえども沈まず』を読みながら、常に考えていたことがある。
それは
「アートの価値とはどうやって決まるのか?」
である。
美術的価値とでも言おうか、作品のレベルを決めるものって一体何なのだろうか?
皆さんもご存知の通り、ゴッホは今でこそ世界的に有名で超人気の画家だが、生前に売った絵の枚数はたったの1枚。しかも絵かき仲間が買ってくれただけなのだ。
彼の作品は生きている間に価値を見出されなかったわけだ。
そんな悲劇を抱えているからこそ、ゴッホという画家はさらに価値を高めている部分は否定できない。だが、それよりももっと根源に関わる部分に対して疑問が沸いてしまう。
ゴッホの人生は確かに波乱万丈だったかもしれないが、作品単独の価値はまた別のもの。しかしその価値を決めたのは一体何なのか?
『たゆたえども沈まず』では私のこの疑問に対する答え(正確には答えに近いもの)が提示される。もちろんネタバレはしないので、詳しく知りたい方は本書をぜひ手に取ってもらいたい。
この記事では私なりの見解をまとめておくに留めておこう。
価値とはつまり数字のこと
我々は普段の生活で簡単に“価値”という言葉を使ってしまうが、その価値とは一体何か分かるだろうか?
あまりもったいぶっても仕方ないので簡潔に書こう。
価値とは数字のことである。
数字が多いことが価値なのだ。少なくとも私達が暮らす経済社会においては、これが正解である。
どれだけ努力を費やそうとも、熱意を持とうとも、崇高な理念があろうが、大きな数にすることができなければ価値はない。
逆に、どんなに適当に作られたものだとしても、失敗作だったとしても、大きな数に繋げられることができれば、それは価値あるものになる。
なので、価値を生み出すためには、ときに“モノ”自体よりも“モノ”を広める手段の方が遥かに重要になることがある。
有名な人が支持していたり、特殊な物語が付加されていたりすると、耳目を集める。これが価値になる。
Amazonの商品でたまにボロクソなレビューを山ほど書かれている商品を見かけるが、それだけの数を集めている時点で、すでに価値があるわけだ。本当に価値がないものは、誰にも存在を気付かれずに消えていく。まるでこのブログにようだ。はっはっは。
ゴッホという物語の価値
繰り返すがゴッホの生き方はそれ自体がすでにフィクションのように物語的である。だからこそみんなが彼の物語を語り、伝わる。そして広まる。価値が生まれる。
『たゆたえども沈まず』はそんなゴッホが死ぬまでの物語である。彼の価値を生み出す根源をなす物語が描かれる。当然、史実を元にはしているだろうが、基本的には原田マハの筆によるフィクションだ。
それでもこの作品は読む者の心をどうしようもなく鷲掴みにするし、不思議な興奮を味あわせてくれる。アートに狂ったゴッホ兄弟の熱に、確実にヤラれるはずだ。
『たゆたえども沈まず』。
読み終わったとき、このタイトルに込められた意味が胸に迫ることだろう。
これ以上のタイトルはない。
以上。
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