ノミネート作品、全部読みます
どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
この記事を書いている2018年2月現在、本屋大賞のノミネート作が決まっている。
作品は以下の通り。
『AX アックス』伊坂幸太郎
『かがみの孤城』辻村深月
『キラキラ共和国』小川糸
『崩れる脳を抱きしめて』知念実希人
『屍人荘の殺人』今村昌弘
『騙し絵の牙』塩田武士
『たゆたえども沈まず』原田マハ
『盤上の向日葵』柚月裕子
『百貨の魔法』村山早紀
『星の子』今村夏子
で、読書中毒ブロガーを名乗って、日々オススメ本を売り捌いている私は、せっかくなので、2018年本屋大賞の予想を行なってみた。ちなみに一冊も読んでいない状態で、である。私くらいの読書家になると、読んでいなくてもこれだけの記事が書けてしまうわけだ。
※参考記事
予想を本気でしてみたのはいいが、やっぱり作品を読まずにいるのもどうかなー、と思った次第。
今年からノミネート作品すべてを読破して、大賞の発表当日を楽しみに待ちたいと思う。どれだけ私の感性と一般大多数の方(書店員)の感性が食い違っているかを調べる上でも、有益だろう。っていうか、全部読んで順位を的中させてみたい。で、自慢したい。
ということで、ノミネート作品読破の一冊目に選んだのが、
『かがみの孤城』辻村深月
である。
内容紹介
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
『かがみの孤城』は私が「1位になる」と予想した作品だ。責任を持って評価したいと思う。
ちなみに私にとって、初辻村深月作品である。
『かがみの孤城』のポイント
ネタバレにならない程度に『かがみの孤城』のポイントをまとめておく。未読の方は参考にしてほしい。
『かがみの孤城』のここが良い!
・不登校になった主人公の心理描写が秀逸
・ちゃんと心にダメージを与えてくる
・ミステリー要素が効果的
『かがみの孤城』のここがイマイチ…
・主人公たちの結びつきに読者が付いていけない
・真相にちょっとムリがある
・ミステリーとドラマの両立の難しさよ
では以下に、それぞれのポイントを詳しく説明していこう。あくまでもネタバレはしないので、抽象的な表現を多用するが、ご理解いただけると助かる。もちろん助かるのは、未読の皆さんである。
『かがみの孤城』の良かった点
①不登校になった主人公の心理描写が秀逸
全体的に登場人物の描き方が秀逸である。実体を伴ったキャラばかりが出てくるので、安心して読み進めることができる。
人物描写が下手な作家だと、読者であるこちらが作者の足りない想像力を補ってあげないといけなかったりする。現実感ゼロで、ペラッペラのステレオタイプが出てきても、「あぁ、そういう奴がここでは必要だったのね。はいはい、分かった分かった」という感じである。
物語を楽しむ上で、キャラへの感情移入や、心理を理解することは非常に大切な要素である。これができないと、物語の中の登場人物がどんな目に遭おうが、どうでもよくなる。苦悩の悲しみも喜びも、全部「知らんがな」となってしまう。
その点で『かがみの孤城』に出てくるキャラは全員、行動や思考に説得力があり、物語を読み進めるためのエンジンになっていた。
特に不登校になった主人公の心理描写はかなり微に入り細を穿っており、読んでいるこちらまで不登校に陥っているような気分になる。
個人的な話になるが、私もけっこう学校を休みがちな人間だったので、「あるあるw」と懐かしい気分になってしまった。一回休むと、次に登校するハードルが上がっちゃうんだよなぁ…。
②ちゃんと心にダメージを与えてくる
①と内容が被るのだが、主人公である“こころ”の心理描写が秀逸であるが故に、非常に鬱になりやすい作品に仕上がっている。
なにせ“こころ”はイジメが原因で不登校になっているのだ。作中で度々思い出されるイジメの描写は、そこまで凄惨なものでも過激なものでもないのだが、辻村深月の書き方が上手すぎて、妙に心にダメージを加えてくるのだ。
“感動作”と謳われている『かがみの孤城』だが、そこに行くまでの道のりはけっこう険しいので、ご注意いただきたい。
しかし、このように「読者にしっかりとダメージを与える」というのは、それだけ読み応えのある作品ということだ。「鬱になるからヤダ」とかそういう話ではまったくない。苦しみだって、エンタメのいち要素である。
③ミステリー要素が効果的
はい、出ました。一番何も説明出来ないところ。
私は初辻村深月だったわけだが、彼女の優秀さはたびたび目にしていた。そして目にするたびに、「メフィスト賞出身作家なのに、珍しい…」と思ったものだ。
メフィスト賞出身作家の特徴として、
・奇を衒いすぎる
・一発屋
・不人気
この3点が挙げられる。それゆえに愛されている賞とも言えるが、私は食傷気味である。一部の好事家がメフィスト賞を支えているのだろう。
で、そんなメフィスト賞出身作家にも関わらず、辻村深月は毎度クオリティの高い作品を発表し、さらには多作であり、本屋大賞にも複数回ノミネートしており、人気は安定しており、もっと言えば直木賞まで受賞している。こんなの超優等生である。さすが千葉大学教育学部卒だ。
なのでメフィスト賞基準で考えれば、辻村深月はむしろ劣等生である。メフィスト賞受賞者としてはあるまじき振る舞いである。メフィスト賞の看板が泣いているだろう。そう、勝手に泣かせておけばいいのだ、あんなもん。
ということで、ミステリー要素については何も説明していないのだが、非常に効果的です、とだけ書いておく。「おお!」って声が出ました。
『かがみの孤城』のここがイマイチ
続いてはイマイチポイントである。こんなことわざわざ書く必要もないのだが、一部の方(大多数)が悪口を非常に好む傾向にあることを、私は長いブロガー経験で知っているので、サービスの一環として書き残しておく。
※これから『かがみの孤城』を読む方は、わざわざこんな知識を入れない方が絶対に楽しく読めると思うので、スルーしていただきたい。
こういうのは、既読の人が答え合わせ的に楽しむものである。
まあ、そう書いても読んでしまう困ったさんがいると思うので、内容には触れないように、ボンヤリと記述しておく。
では行ってみよう。
①主人公たちの結びつきに読者が付いていけない
主人公たちが異世界“かがみの孤城”で知り合い、不器用ながらコミュニケーションを取り合い、いつしか友情を育んでいく。
そしてその友情は、物語の後半で残酷な真実によって試されることとなる。
まあこんな感じのストーリーなのだが、この「友情」がちょっと弱い。
主人公たち不登校児の友情が物語のカギになっているのだが、作品の長さが足りないのか、構成が良くなかったのか、そこまで「友情を育む場面」みたいなのがなく、物足りなさを感じてしまった。
でも作品上では友情が育まれた前提で物語が進んでいくでので、「あれ?いつの間に?」みたいな置いてけぼり感がある。
②真相にちょっとムリがある
後半でバシバシ決めてくるミステリー要素。読みながら私は「おお!」と唸ってしまったが、読後に落ち着いて検証してみると、ちょっとムリがある箇所が何点かあった。
別に矛盾しているわけでも、論理が破綻しているわけでもなく、「ちょっと苦しいかな…?」という程度のもの。私のような度量が狭い人間だけが気にするレベルである。
③ミステリーとドラマの共存に限界を感じる
辻村深月はミステリー小説作家だと私は認識している。綾辻行人の『十角館の殺人』で衝撃を受けて作家を志したと言っているし、間違いないだろう(そもそも『十角館の殺人』で衝撃を受けない人類などいない)。
で、ミステリー作品における命題というか、ジレンマがあって、それが…
「謎のために物語があるのか、物語のために物語があるのか」
という問題である。
ミステリー作家という人種は、とにかく読者を欺きたい欲望を抱えている。なので物語にはできる限り大きな謎を仕掛けたいし、どんでん返しをしたいと願っている。
だが、「謎」や「どんでん返し」に意識が傾きすぎるがゆえに、物語が疎かになったり、ドラマが弱くなったりするのだ。ミステリー至上主義とでも言おうか。ミステリー作家には、上質なミステリー要素のためだったら、物語性が犠牲になるのはある程度仕方ないという認識があるように思う。もちろんミステリーマニアも同様である。私もそうだった。
『かがみの孤城』にもこの傾向があって、ミステリー要素は抜群なのだが、それゆえに物語、ドラマの部分が弱くなってしまっている印象を受ける。ミステリーとドラマが共存しきれていないのだ。
これが勿体無いと思う。
まとめ
初辻村深月作品となった『かがみの孤城』だが、私は非常に楽しめたし、辻村深月という作家の優秀さを思いっきり味わうことができたと思う。機会があれば彼女の他の作品も確認してみたいと思う。
ただ、さきほども書いた通り、ミステリー作品において「謎が先か、物語が先か」の問題は非常に根強く、判断の分かれる部分ではないかと感じている。好みと言ってしまえばそれまでだけど…。
以上。
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