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『半島を出よ』は村上龍の限界を知れる名作

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どうも。

とんでもない怪作に出会ってしまい非常に困惑している。この作品をどう評価したらいいのだろうか?強烈だったのは確か。だがどう面白かったのかはよく分からない…。

そんな気持ちを整理しながらこの記事を仕上げたいと思う。

 

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スケールがでかいのに細かい 

まず、この作品は非常に突飛な設定になっている。北朝鮮が日本を占拠しようとする話だ。ふざけている。北朝鮮の部隊が日本に進出してくる場面は吐き気を催すような不快感に包まれた。北朝鮮将校達の異常な忠誠心。日本に対しての憎しみ。これが生理的な不快感をくすぐってくる。自分の中にある愛国心をこんな所で感じるとは…。

とにかくこの作品は細かい。スケールがでかいのに細かい。読みながら私は「こんなペースで書いてて、本当に上下巻だけで終わるのか…?」と不安を感じずにはいられなかった。

そんな不安も、ふざけた登場人物たちが鮮やかに吹き飛ばしてくれたのだが。

疾走感が凄い。文字の圧力が凄い。

この作品は疾走感に溢れている。会話と地の文の境目がなく、とにかく文字を頭の中に叩き込んでくる。たまに本の世界から帰ってきて冷静になると「なんだこの文字の絨毯は…!」と引く。それぐらい文字で紙面が埋め尽くされている。冷静に見ると読む気が無くなるほどの文字量だ。

小説なのだから文字があって当たり前だ。私だってこれでも今までに2000冊ぐらいの小説を読んできた猛者だ。活字はかなり強い。中毒と言ってもいいぐらいだ。だがそんな私でも若干怯むほどに文字の圧力を感じた。これは並の読者には越えられない壁だと思う。

だがこの圧力を感じさせるほどの文章だからこそあの疾走感が生まれるのだろう。リーダビリティーに溢れた文章だとはまったく言えないが、この作品でしか味わえないものであることは間違いない。

 

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ふざけたキャラクター

非常に細かく描かれており終始村上龍の圧倒的な想像力に打ちのめされるのだが、そんな説得力に溢れた世界の中で異彩を放つのが、日本にいる詩人イシハラが率いる少年達だ。

私はあまり作品の中身を語りたくはない。読んだ時の面白さが半減するからだ。ストーリーが分かって読む楽しみは後でいくらでも体験できるが、まっさらな状態の所に物語のインクを垂らす経験はひとつの作品で一回しかできない。貴重なのだ。

だからイシハラが率いる少年達について詳しくは書かない。

この緊張感に溢れ救いのない物語の中で、読者は大きなストレスに晒されることだろう。あまりにも緊張が続くと読者が物語に胃がもたれてしまう。人によっては読むことを止めてしまう。そこで上手いこと味を出すのがイシハラ達だ。彼らもなかなか救いようのない連中なのだが、物語の中で数少ない癒し処になっている。…多分。

村上龍の限界

作品の中に出てくる小道具達に作者の村上龍は非常にこだわっている。細部を無視せずにひたすら作りこんでいる。物語の展開も彼の超越的な想像力がこれでもかと発揮されている。そのエネルギーは読んでいて疲れるほどだ。

あとがきにも書いてあったのだが、村上龍本人も「こんなの完成させられるわけがない」とずっと思いながら書き続けていたらしい。読み終わった身としては「確かに」と頷くばかりだ。そして、よくぞこんな変態的な作品を仕上げたと賛辞を送りたい。これは村上龍という作家の限界を記した作品なのだ。それだけでも読む価値があると思う。

人を選ぶ作品

とまあ、こんな感じで『半島を出よ』と同じように熱に浮かされたように書き殴ってきたわけだが、どうだろうか。何か伝わるだろうか。

ここまで書いて私の中でこの作品に対してひとつの答えが出た。

それは「人を選ぶ作品」ということだ。

『半島を出よ』には村上龍の魂が込められている。苦しみながら全力を尽くした作品だ。ただ全力を尽くしたからと言って必ずしも素晴らしい作品ができるわけではない。努力の量と結果は関係ない。

しかしこの作品には魂が入っている。魂を感じられると作品の品質とは別の部分で人の心を動かすことができる。

なので人によってはこの「魂の重み」や「熱量」を受け入れるだけの器が足りず、断念したり拒否反応を起こすことだろう。

作家の魂を感じるのだ。しっかりと読み込まなければ味わえないだろう。

その覚悟がある人だけが読むべきだし、その覚悟がなければ「つまらない」と簡単に終わってしまうだろう。

 

魂を受け入れられるか、受け入れられないか。自分を試してみてはいかがだろうか?

 

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以上。