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小説の神が微笑んだとしか思えない発想。 『秘密』東野圭吾

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小説界の巨人

小説界に君臨する帝王、東野圭吾。小説を普段読まない人でも名前だけは知っているでしょう。
過去の作品はことごとく映像化され、今回紹介する『秘密』も二度、映像化の機会を得ています。

東野圭吾は非常に稀有な存在です。
作家の中でも”アタリ”を発表する打率が以上に高いのです。
基本的に彼は推理小説作家ではあるのですが、その多才さからジャンルに縛られることなく、あらゆるジャンルをそれこそ”蹂躙”してきました。
ノワール(暗黒小説)として名高い『白夜行』は映像化の触れ込みも手伝い著者の中でも屈指の売上を叩きだしています。しかし東野圭吾がノワールを書いたのはこれが初。しかし、それでも日本のノワールの中でも一番の完成度と言われています。これにはノワールの名手として名高い馳星周が『白夜行』のあとがきにて触れています。

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東野圭吾のひとつの到達点

そんな東野圭吾ですが初めから売れていたわけではありません。
推理小説作家の登竜門である江戸川乱歩賞を受賞してデビューを果たしました。
これから彼の推理小説作家としての華々しい生活が始まるかと思いきや、訪れたのは新本格ブームでした。綾辻行人を始めとする、今までの常識を覆すようなトリックで読者を欺く推理小説を書く新人達が押し寄せてきたのです。
東野圭吾は早速、壁にぶつかりました。というよりも、新本格ブームによって壁まで押しやられた格好となりました。その時期、彼は自分が書くべき推理小説の可能性を必死に探っていました。
この時期に生まれたのが『悪意』や『僕の死んだ家』、『ある閉ざされた雪の山荘で』などの作品達です。
どれも素晴らしい作品なのですが、やはりそこまでの爆発には至りませんでした。

そして苦労を重ね続けた末に上梓されたのが『秘密』なのです。

東野圭吾が推理小説と向かい合いつつも、自分の書くべき小説を模索し続けた末のひとつの到達点です。
簡単に比べることは出来ませんが、東野圭吾がこの後もベストセラーを連発していますが、『秘密』を超えるものはまだ出来ていません。それほどまでにクオリティの高い作品です。

◯ありきたりな設定で終わらせない

あらすじを貼っておきます。


妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。

中身が入れ替わってしまうという、非現実的な設定はギャグやSFには持ってこいのものです。普通のキャラクター達にその設定を足すだけで、ドタバタドラマに成り得ます。

しかし、しかしですよ。東野圭吾はこの設定をそんな上辺だけのものでは終わらせません。ここに凡人とはかけ離れた彼の想像力、そしてドラマを産み出す才能が見出だせるのです。 

心は妻なのに、身体は娘。じゃあ性欲を満たすためにはどうしたら?妻と触れ合いたいけども、娘の身体に傷を付けたくはない。もし娘の心が戻ってきてしまったしたら…。
そんな苦悩が主人公の杉田の心を掻き乱します。
そして、思わずして若返った肉体を手に入れてしまった妻の直子は、娘の生活をトレースする内に徐々に内面まで変わっていき…。

と、ここまでにしておきましょう。
毎度のセリフですが、小説を楽しみたければあらすじでさえも余計です。頭を空っぽにして楽しんでください。