俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

全ての謎は人の心から生まれる。横山秀夫『陰の季節』

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ここから快進撃が始まった。

 

快進撃の始まり

どうも、読書ブロガーのひろたつです。今回紹介するのは私が大好きで大好きで仕方がない作家、横山秀夫のデビュー作にして、傑作の『陰の季節』である。

この作品と出会った瞬間から、私の横山秀夫中毒は始まってしまったのだった。

 

D県警警務部警務課調査官の二渡(ふたわたり)真治は、警察一家の要となる人事担当である。二渡は「任期三年」という暗黙の掟を破り、天下り先ポストに固執する大物OB尾坂部の説得にあたるが、にべもなく撥ねつけられてしまう。周囲を探るうち、ある未解決事件が浮かび上がってきた…。「まったく新しい警察小説の誕生!」と選考委員の激賞を浴びた第5回松本清張賞受賞作を表題作とするD県警シリーズ第1弾。 

 

元記者という経歴のためか、出てくる警察の造形がとにかく細かく、そして説得力が半端ではない。よくキャラクター造形を褒めるときに「血の通った」なんて言葉を使うが、まさに、である。こんなに実態を持ったキャラクターはそうはいない。まるでノンフィクションを読んでいるかのような気分になる。

 

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極上の短編! 

まず皆さんにお伝えしたいのは、『陰の季節』は超キレッキレの短編ミステリーだということである。スッパスッパ切られることだろう。

このブログでは何度も書いているが、短編ミステリーにとって一番大事なことは“切れ味”だ。これがないと短編ミステリーとしての意味がないだろうし、そこにミステリー的快楽は存在しない。たぶん切れ味の鈍い短編ミステリーのファンになる人はいないだろう。(御手洗潔の『近況報告』は除く。あれは切れ味皆無だけど、ファンには最高の短編)

短編ミステリーの最大の役割は、「いかに限られたページ数中で効率良く読者を欺けるか?」である。

作者はそこにすべてのアイデアを注ぎ込む。

しかしながら、このハードルはあまりにも高い。限られたページ数であるがゆえに、短編ミステリーは質の高いトリックを要求されるし、読者を欺くだけの技量も必要になる。

その点、『陰の季節』は完璧だった。完全にやってのけた。

警察小説というミステリーでは使い古されまくったテーマを使い、今までにないミステリーに仕上がっているのだった。

 

あまりにも斬新な警察小説

言葉の専門家である文学賞の選考委員たちが、思わず「まったく新しい警察小説」なんていう語彙力をまったく感じさせない賞賛をしてしまうぐらい、『陰の季節』は画期的な作品だった。

その画期さというのは、警察小説でありながら、犯人を追いかけるわけではないこと。そして刑事は出てこない、ということ。

意味が分からないかもしれない。

『陰の季節』で出てくる警察というのは事務職なのだ。

事務職と聞くとやたらと地味な作品をイメージしてしまうかもしれない。この作品を舐めてかかってしまうかもしれない。

私としてはぜひとも舐めてかかってもらいたい。そうすれば、最高の読書体験ができるからだ。

 

警察の事務職を主人公に据え、組織内の軋轢や刺すか刺されるかのやり取りを、主人公の目を通して濃密に描いている。

これが最高である。のめり込み方が凄い。本の中に顔が入るかってぐらいのめり込む。ページを破って食べたくなるぐらい面白い。

 

『陰の季節』がこんなに面白いには、ひとえにこの事務職の人たちが、“私たちより”だからだ。

刑事というのはどこか超人的存在であり、私たち読者とは別世界の人間に感じられてしまう。

しかし『陰の季節』の主人公たちは、警察という大きな組織の中の歯車でしかなく、そこで抱える葛藤や苦しみというのは、あまりにも人間的であり、共感を呼ぶ。だからこそ彼らの苦しみが肉薄してくるのだ。

 

警察をこういった視点で描いた作品は今までに無かった。だからこそ選考委員たちが「まったく新しい警察小説」なんていうアホみたいなコメントを出してしまうのだ。その気持ちはとてもよく分かる。私もアホみたいな顔をしながら読んだ。

 

全ての謎は人の心から

『陰の季節』では主人公たちが事務職なので、犯人を追いかけるようなことは一切しない。しかし警察内部で起こる問題の真実を追求することになる。

これがメチャクチャ面白い。

基本的にミステリーの謎というのは、トリックによってもたらされる。犯人が常人では思いつかないような奇想を駆使することで、読者にとって“意外な真実”が生まれるのだ。

しかし『陰の季節』にそういった要素は皆無だ。

すべての謎は犯人の奇想などではなく、普通の人々の心から生まれるものなのだ。

これは少々分かりにくいかもしれない。なにせ、作品を説明しようと思ったらほとんどネタバレになりそうなぐらい伏線が張り巡らされているのだ。下手に内容に触れることができないのだ。

とにかく通常のミステリーとは違った作品であることを伝えておこう。そのアイデア、心理描写の緻密さから生まれる独特の謎を楽しんでもらいたい。

 

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他の作家がつまらなく感じるほど濃厚

たぶん、横山秀夫はデビュー作だったので、相当な気合を入れて書いたと思われる。

これでもか、とアイデアを詰め込んである。濃厚すぎて読書中に脳汁が爆発的に放出される。こんなに面白い小説を読んでいいのかと、妙な罪悪感まで出てくる始末だ。

そういえば、私が推理小説にハマっていた時期、横山秀夫の短編に出会ったことでちょっとした問題が発生した。

先にも書いた通り、『陰の季節』を始め、横山秀夫の短編集は超濃厚な仕掛けが施してあり、さらには人物描写も緻密。感情移入の仕方もゴリゴリ。

そんな作品を読んでしまうと、他の作家の短編がつまらなく感じてしまったのだ。

なので『陰の季節』を読んで以降、横山秀夫作品をすべて読み漁るようになったのは当然のことだろう。

 

最高の短編ミステリーである『陰の季節』。

あまりにも面白すぎるので、用法用量にはぜひともお気をつけください。私のように横山秀夫中毒になってしまうので…。

 

以上。

 

 

ちなみに横山秀夫の短編で最高傑作はこちら。 


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