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作者が緻密に組み上げた最強の犯罪小説。五十嵐貴久『誘拐』

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どうも。

最強の犯罪小説を紹介しようじゃないか。

 

内容紹介

※Amazonの紹介文を引用

歴史的な条約締結のため、韓国大統領が来日する。警察が威信をかけてその警護にあたる中、事件は起きた。現職総理大臣の孫が誘拐されたのだ。“市民”を通じて出された要求は、条約締結の中止と身代金30億円。比類なき頭脳犯の完璧な計画に、捜査は難航する―

Amazonの評価レビューを見るとびっくりするぐらい意見が割れていて、無条件に「面白い!」と思っていた私はだいぶ幸せ者だったようである。

ちなみにだが、Amazonのレビューを購入前に読むとネタバレになるし、低評価のレビューを読むとその意見でバイアスがかかって素直に楽しめなくなる。できるだけ高評価のレビューを読むようにし、もっと言うならばあらすじだけにしておくべきである。

 

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上品でございます

この『誘拐』を紹介する上でのキーワードは「上品」だ

タイトルの通り誘拐をテーマに物語が進む犯罪小説である。しかも現職総理大臣の孫を誘拐するというとんでもない内容である。

だがこれがもう、そんな大それた犯罪を取り扱っているにも関わらず非常に「上品」なのだ。物語の視点もほとんどは犯人側から語られるのだが、それでも上品。まあ下品極まりない主人公なんてのはそうそういないが、犯人がこれだけ綺麗だと読んでいる方も安心して楽しめるというものだ。

このテーマを選んだことがすでに偉い

上でも書いてある通り、物語は主人公が現職総理大臣の孫を誘拐する一部始終になる。

非常に壮大だし、かなり難しいテーマであると言える。頭の悪い人間には描けない物語だろう。

だって、そもそも総理大臣のことを知っていなければならないし、その護衛の方法や有事の際の動き方、当事者の政治的葛藤、犯人を追う警察の動きなどなど、作者が調べたり作り上げなければならないことは山ほどある。少なくとも私のツルツルな脳みそではこの物語は組み上げられない。

そんな難しくも期待させるテーマに真正面から向き合ったのが五十嵐貴久である。偉いと褒めてあげたい。余計なお世話だとは思うが。

総理大臣の孫を誘拐、しかも韓国の大統領が来日するタイミングという強烈な大風呂敷を広げた先にどんな展開が待っているのかは、読書好きであれば楽しみにならないはずがない

広げてもちゃんと畳める力量

実は世の中には大言壮語とも言える物語がたくさんある。風呂敷を広げるだけ広げて、畳め切れなかった作品だ。

作品を創作する上で、風呂敷を広げるのは非常に簡単だ。いくらでもできるし、それによって読者の興味を惹くこともできる。簡単に面白くできるのだから手を出しがちなのである。

だが風呂敷を畳む所にこそ作者の力量が出る。これは才能の類なような気がしているが、相当なストーリーテリングIQが高くないと自然にはできない。

だからこそ余計に評価したいのだ。これだけ難しい物語をまとめあげた作者を。

作者が頭脳の限りを尽くして緻密に組み上げた物語である。楽しまない手はないのだ。

 

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エログロに逃げない

『誘拐』の上品さは「エログロ」に代表される、興味を惹くアイテムを使っていない所にある。私はこの点を特に高く評価している。

今の日本のエンタメ作品の多くが、「エロ」「グロ」「暴力」「死」のどれかをテイストに使っている。

禁忌に触れることで読者の興味を惹いているのだ。

人は隠されているものや、秘密にされているもの、人が忌避するものに興味を示す習性がある。それが反社会的なものであれば尚更だ。

だからやたらめったら性犯罪や復讐劇なんかがストーリーに盛り込まれるのだ。もしかしたら読者の多くがそういった“逸脱したもの”でしか興奮できなくなっているのかもしれない。

その点、『誘拐』はシンプルな犯罪小説に仕上がっている。

物足りないという意味ではない。純粋な物語の要素だけで楽しませてくれるということだ。ここにゲテモノは存在しない。そんな下品な面白さは介入しないのだ。

評価が割れるからこそ

最近の私は「人気作」が嫌いだ。ベストセラーに踊らされるのもウンザリである。みんなが知らないもの、評価されていないものに手を出したい。他人の評価に振り回されたくない。

私が大好きな『誘拐』はAmazonの評価では極端に割れている。良い傾向だ。

たぶんみんなが大好きなものなんてのには、大した価値はないのだろう。

いつでも一流のものは大衆受けをいないものだ。

別に『誘拐』一流の文学だと言う気は毛頭ない。純粋極まりないエンタメ小説である。

ただ、みんなもっと自分で探し、自分の頭で作品を評価してほしいと思うだけの話である。

ちなみに私にとっては『誘拐』は最高だった。それだけである。

 

以上。

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